第4話 痛み知らず
《????年 ??月??日 ???》
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街道一本しか通っていない暗闇に包まれた平原の中に月明かりとは違うもうひとつの光が存在した。
その光を放っていたのは人の手によって焚かれた焚き火だった。
そしてその焚き火を五人の男が腰を下ろした状態で取り囲んでいる。
「何かチハがねぇと心細いな。」
「まぁ短い間だが俺達をアメ公の銃弾から守ってくれていたからなぁ…。」
チハは今、ここからかなり離れた場所にほったらかして来てしまっているので無防備な状態である。
なので何者かに…特に先程の弓兵の様な連中に鹵獲、若しくは破壊される可能性があるのだ。
「はぁ〜ちょっと煙草でも「静かに!」」
突然、庄助が小さく、だが全員に聞こえるように声を上げた。
箱から煙草を取り出そうとしていた貫志はその手を止め、庄助の方を見た。
「どうした? 庄助らしくもない。」
「今、何かの足音が聞こえた……。」
「どこからだ?」
「そっち…。」
庄助が指さしたのは丁度貫志の真後ろだった。
ここにいる全員は庄助がこんな下らない嘘をつく奴ではないと知っていた。
「全員戦闘態勢を取れ!」
五人が全方位に銃口を向け、暗闇に潜む何かを警戒した。
すると、貫志達の周りから草を掻き分ける様な音が聴こえた。 それも全方位から。
「参ったな……囲まれてらぁ。」
月明かりは雲によって遮られ、暗闇の中で、ただ一つの焚き火の光を頼りにしながら音のする度にその方向に銃口を向けながら声に出せない恐怖に耐えていた。
「数は……かなり多い。 まだ機会を伺っているみたい。」
庄助は山奥で猟師の父と長い間暮らしていた為、五感が他の四人に比べてかなり鋭い。
なのでこの状況では庄助に頼りきりになってしまう。
「……!!来る!!」
辺りに耳を澄ましていた庄助が貫志に向かって声を上げた。
すかさず銃を構えると、その何かは堂々と真正面から突進して来た。
そして、貫志の撃った弾を喰らい、それをものともせずに貫志に襲い掛かったのと雲が晴れて月明かりがその何かを照らしたのは偶然にも同時であった。
「っ……!?」
それは人の二倍の大きさはある狼に似た獣だった。
だが、そいつには体毛が無く、オレンジ色に光る八つの目を持っており、間近に見れば狼とは似ても似つかない姿をしていた。
そのオレンジ色に光る八つの目は確かに貫志姿を捉え、咄嗟に顔を庇った貫志の腕に噛み付いた。
「ぐぅっ……!! あぁっ!!」
狼は貫志の腕を噛み千切らんと腕に噛み付いたまま頭を上下左右に振り回し、貫志は狼の馬鹿力であちこちに振り回されては地面に叩き付けられた。
牙は既に貫志の左腕に深く食い込んでおり、軍服に赤い血が染み込んでいった。
「貫志!!今助けるぞ!!」
竜男が貫志を振り回す狼を撃ち殺そうとトンプソンを構えるが、貫志はそれを大声で怒鳴りながら制止した。
「バァッッカヤロウゥ!!!俺にっ…当たるだろうがッ!! それにっ…他の方角からも来っ…る!!そっちを迎え撃て!!」
貫志の言った通り、暗闇に紛れて複数の狼が全方向から襲い掛かって来た。
「目を狙って!」
庄助は山奥で猟師の父親と長い間暮らしていただけあって五感が他の四人と比べてかなり鋭く、直ぐに敵の弱点を見つけた。
「狙うったって速すぎてマトモに当てられねぇよ!!」
狼は強靭な肉体を持っているが、それだけではなく、脚力が馬鹿みたいに強く、その巨体からは想像のつかない速度で闇夜の中を走り回り銃弾を躱しながら接近してくる。
「隆二!!来るぞ!!」
「分かってらぁ!!」
真正面から突進して来る狼に隆二はスプリングフィールドに装着されたスコープで狙いを定めると、あと少しで飛び掛かってくる直前で引き金を引いた。
銃弾は幸いにも狼の目玉を貫き、そのまま脳にまで達し、狼は絶命し、隆二の足元に屍となって転がった。
「クソ犬が!!ざまぁみやがれってんだ!!」
隆二以外にも哲郎や竜男、庄助も善戦しており、強靭な肉体を持つ狼に死ぬまで大量の銃弾を浴びせ、一匹、二匹と順調で殺していっていた。
だがそんな中、貫志に噛み付いていた狼は仲間が気付いた頃には二匹に増えていた。
「クッソォォォォ!!」
左腕はまるでシリコン製の犬の玩具の様に齧られ、そろそろ肉が裂けて骨が見えてきている。
アドレナリン溢れ出んばかりに分泌され、痛みは緩和されているが、肉を噛みちぎられている感覚はハッキリと肌を通して脳に伝わっていた。
右腕も二匹の狼を引き剥がそうとするのに必死でトンプソンも手の届かない所に落としてしまった。
拳銃も腰の右側のホルスターと背中側の方に仕舞っているのだが、狼に身体を左右に揺さぶられ、ホルスターに仕舞った十四年式拳銃はトンプソン同様落としてしまい、ガバメントも背中側にあるので手を伸ばしにくい。
腕の肉が少しずつ減っていく中、貫志がとった行動は…………
「俺は骨付き肉じゃねぇんだよ!!!」
腹側の方の軍部の中に忍ばせていた鞘から右手で抜いたのは銃剣だった。
腕に噛み付かれながらも貫志は庄助が言っていたことをそのまま実行した。
銃剣を逆手に構えると振り下げ、一匹の狼の右目に突き刺した。
渾身の一撃は確かに命中し、狼に致命傷、それどころか即死級の重傷を負わせた。
直ぐに銃剣を抜き取ると、狼は左腕から口を離すと暫くふらついた後、横たわって動かなくなった。
「テメェもだ!!」
もう一匹にも今度は下から首を突き刺し、突き刺さった銃剣の柄をを無理矢理右に押し込むと、首の骨が折れたのかべキリという鈍い音がしたと同時に動脈も切断したらしく、傷口から吹き出た血が貫志の顔を赤く染めた。
「うわっぶ!?」
血が顔に掛かってきたので顔を庇おうとしたが"左手が動かず"、右手も塞がっていた為に顔にモロに浴びた。
目を固く閉じて顔を背けながら血のシャワーに耐えていると暫くして血は漸く止まった。
狼の死体を退かして銃剣を鞘に戻すと立ち上がった。
周りを見てみると、他の四人も無事に狼を殲滅出来ていたようで、傷らしい傷も見受けられなかった。
「大丈夫かお前ら?」
四人の元へ歩み寄ると、突然庄助の顔が青ざめ、表情もまるで何か恐ろしい物でも見たかのような感じになった。
「あっ……あぁ……。」
「ど、どした? 庄助。」
庄助に続いて隆二や哲郎、竜男も同様の反応を見せた。
その原因に気付かず、何があったのかと四人に歩み寄ると、隆二が声を上げた。
「う、腕!!そ、その腕痛くねぇのかよ!?」
「は? 腕?」
右腕を見るが、もがいた時に引っ掻かれた位の傷しかない。
消毒して包帯でも巻けばどうにでもなる傷だ。
左腕も見ようとしたが、妙な事に左腕が持ち上がらない。
というより力が入らない。
「ん?」
仕方ないので左腕を顔を傾けて見てみたが
なんだ、腕の肉が無いだけジャナイカ……
あれ……? 腕……ウデノニクドコダ?
「は、ハハ……あれ?俺の腕ってこんなに痩せてたっけなぁ……?ハハ、は……?」
左肘の関節は外されており、その左腕をつなぎ止めていた一枚の皮も腕の重量に耐えきれず千切れ、ボトリトホネトワズカナニクダケガノコッタヒダリウデガオチタ……。
「は……あ……。」
貫志の顔が一気に真っ青になると、仰向けに倒れ、動かなくなった。
「か、貫志!!」
「しっかりしろ!!」
「死なないで!!」
「クソっ!!どっかに村一つでも無いのかよ!?」
キングチーハー COTOKITI @COTOKITI
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