第3話 アメリカンJAP

奇襲をかけてきた敵を撃退してから一日が経った。

あの後無事に森を出ることに成功し、今は何も無い平原を進んでいる。


敵の攻撃から逃れる事は出来たものの、貫志達に新たな悩み事が出来ていた。


「どうしたもんか……。」


そこにはチハの燃料計と睨めっこをする貫志がいた。

燃料はもう半日もつかもたないか程度の量しか残っていなかった。


「ここに燃料を補給出来る場所があるとは思えねぇな……。 だからと言って棄てていく訳にもいかねぇし……。」


「もう取り敢えず行ける所まで行って燃料切れたら持てるもん持って徒歩で移動しよう。」


「だな。」


貫志達は取り敢えずまだチハは棄てずに燃料が続く限り、進み続ける事にした…………


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延々と続く街道を二本の履帯で踏み締めながら進んで行く一輛の戦車がいた。


その戦車の名は九七式中戦車、「チハ」である。

後の世に多くのミリオタから親しまれた大日本帝国陸軍の名戦車。 それを57ミリ砲から47ミリの対戦車砲に換装したものだ。


そんな元の世界では微妙な戦車だったチハが今、この世界ではとんでもないオーパーツと化していたとは、知る由もなかった。


「はぁー!にしても見渡す限りの平原だなぁ。 こんな光景日本じゃ見れねぇぞ。」


貫志は走行中のチハのキューポラから上半身を出し、煙草を吸っていた。

気温は体感的には十五度位、天気は晴れ、場所は貫志が言う通り街道が続いているだけの平原である。


「北海道辺りなら見れるかもな。」


運転中の川島 竜男が覗き窓から周囲を見渡しながら言った。

因みに、車長の井川 貫志は熊本出身、砲手の武田 隆二は香川、装填手の中野 哲郎は貫志と同じく熊本、無線手の猪田 庄助は新潟、運転手の川島 竜男は島根出身だ。


「おい庄助、さっきから黙ってばっかりじゃなくて何か喋ったらどうだ?」


哲郎が無線手の席に顔を出して来たので庄助は後ろを振り向いた。

庄助の手元を見ると、どうやら九七式の弾倉に銃弾を込めている最中だったようだ。


「おっと悪い。 邪魔したか?」


「いや、別に…。」


実は庄助はこの中では唯一の常識人である。

主な特徴は神のいたずらかは分からないが最早女にしか見えない顔付きと体型である事と、少し根暗なら所くらいだ。


特に深刻だったのが女そっくりな所で風呂入る時に庄助と一緒に入るのを躊躇した者が何名かいた程だ。

そして、生まれた場所は全く違うが、貫志とかなり仲がいい。

過去に、満州で国境警備をやっていた時に宿舎内で…………


「いつか露助を抱く時の為に実践訓練をしよう!」


などと言って貫志と擬似的なS〇Xに及んだ事がある。

その後何だか凄まじく気まずくなり、それから一度もやらなくなったが。


だが、体型も本当に女そっくりで正直、初めて全裸を見た時は貫志ですら興奮した程だった。

事実上の性別が男と言うだけであってイチモツでも見られない限り根暗な眼鏡をかけた貧乳少女にしか見えないのだ。


しかも教育隊の時はその見た目故、教官に甘やかされていた事も貫志は知っている。

あと、庄助はこの中で最年少の22歳である。(貫志は二番目に若い23歳。 後は全員24歳。)


彼女……ゔゔっふんっっ!!…………

失礼、彼は銃器や機械の扱いに慣れているので無線手としてこのチハに搭乗している。


「おーい、貫志。」


「何だ?」


竜男から声を掛けられたので運転席に顔を出すと、竜男は燃料計を指さした。

よく見ると、燃料の残量を示す針は既にゼロに程近い所まで来ていた。


「もうそろそろ燃料が切れる。 あと一時間も持たねぇぞこれ。」


「……もしもの時のために最低数十分は動かせた方が良いな……よし、五人で引っ張って見るか!」


それを実践したはいいものの…………


「ふぐぐ……!!」


「んぅぅぅっ!!」


「はぁ……んっ……!」


流石中戦車、五人がかりで引いてもビクともしない。


「だーめだこりゃ。 一旦休憩!」


車体に括りつけられた縄を放ると車体にもたれ掛かる庄助の隣に腰掛けた。

疲れていると余計に女性らしさが滲み出て何だか顔を直視出来なくなってしまう貫志だった。


「…どうしたの貫志? 急に目線逸らして。」


「あーいやなんでもない。」


「そう…。」


手に持った水筒の蓋を開けると、貫志は中に入った水を一気に喉に流し込んだ。

口を飲み口から話し、「あ゛ぁ゛〜」というおっさん臭い声を出した。


ふと庄助の方を見ると、水筒には口を付けていない様だった。


「あぁ、水が入ってないのか。 俺の分けてやるよ。」


貫志のはまだ水がそれなりに残っているのでそれを庄助に手渡した。

庄助は蓋を開け、飲み口を数秒凝視するとグイッと水をラッパ飲みした。


「ふぅー……ありがとう。」


水を飲み終えると庄助は貫志に水筒を返した。


その後、やはり戦車を引いて行くのは無理だと確信した貫志達は持てるだけの物を持って徒歩で移動する事にした。


「全員ちゃんと武器弾薬は持ってるな?」


貫志達はルソン島で米軍を迎え撃った際にこっそり戦車を抜け出して鹵獲した米兵の銃火器を持っていた。


貫志は戦車の搭乗員全員が元から携帯していた十四年式拳銃に加え、M1911ガバメントをズボンと腰の間に上着で隠すように仕舞っており、更にトンプソンM1A1を持っている。


後は竜男がトンプソン、庄助と哲郎はM1ガーランド、隆二はスプリングフィールドM1903を持っていた。

それに加えて弾薬、手榴弾や携帯食糧でさえも分捕っている。


「やっぱりアメ公の武器の方が良い。 性能は良いし、弾も敵を殺せば直ぐに手に入る。」


隆二がスプリングフィールドにクリップで弾を込めながら言った。


「まぁそれを否定できないのが悲しい所だな。」


少しして、全員が出発の準備を整え、何時でも出れるようにしていた。

武器の点検を終えた貫志は後ろに隆二達を並ばせ、果てのない道を指さした。


「よし、行くぞ!」


もう既に日は沈み、辺りは闇に包まれており、闇夜の中を五人は歩みだした……。





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