第2話 ディメンショントラベラーズ

彼、井川 貫志はチハの砲塔の上に腰を下ろし、頭を抱えていた。

原因は言わずもがなこの原因不明の超常現象。

他の搭乗員達は外に出て森の新鮮な空気を堪能している。


「一体どーしてこんな事になったんだろうかねぇー?」


森を見渡しながら貫志はポツリと呟いた。

この森には広い感覚で大木が不規則に生えている。


どっちかと言うと樹海に近いこの森だが、密林という訳でも無いのでチハでも楽々通れる森だ。


しかし、辺りを見渡していると、装填手を担当している哲郎が声を上げた。


「道っぽいのを見つけたぞ!」


「道があるのか?」


貫志もチハから飛び降りて哲郎の元へ向かうと、そこには確かに人が整備したであろう街道らしきものが森の奥へと続いていた。


「車輪の跡みたいなのがある。 人が通ってんのか?」


そこにあるのは確かに車輪の跡だが、自動車が通ったにしては後が平た過ぎる。 それに細い。

自動車や戦車が通ったのであればいくつもの溝や履帯の跡がくっきり残る筈だ。


この跡を見て貫志が導き出した答えは…………


「もしかして…馬車か?」


「うーん、まぁそれ以外に考えられないよなぁ…。」


「でもこの時代で馬車って露助のタチャンカぐらいしか思い当たらないんだが。」


街道を見つめながらあれこれ言っている彼らを木の上から見ている者達がいた。


「見ろ、あそこに侵入者がいるぞ。」


木の枝の上に絶妙なバランスでしゃがんでいる一人の男が貫志達を指さして他の仲間達に伝えた。


「四人か。」


「同じ服装…鎧は身に付けていないようだが人間である事は間違いないな。」


「人間の軍が出した斥候の可能性がある。」


「どの道侵入者には死んでもらうが、イデルが言ったように軍の斥候の可能性もらある為、一人は生かしておけ。」


「了解。」


木の上にいる数十人程度の男達は弓を手に取ると、矢をつがえ、貫志達に向けて構えた。


「……放て!!」


その合図は、貫志達にもハッキリと聞こえていた。

ただ、日本語ではない為何を言っているかは分からないが。


「おっ!?」


一応、貫志の頬を一本の矢が掠めた事で殺意がある事は分かった。

その後、直ぐに大量の矢が貫志達に降り注ぎ、木に、地面に、辺り一面に矢が刺さっていた。


「うわっうわっ!!退避!!戦車の裏に隠れろぉ!!」


突然の奇襲に慌てふためいた貫志達は中腰のまま数十メートル離れているチハまで全力疾走した。


「なんだなんだ!?原住民か!?アメ公か!?」


「知るか!!串刺しになる前にとっとと走れボケ!!」


「ボケは無いだろアホ!!」


「いつも平気で口にしてる事だろうが!!今更文句を垂れるな!!」


こんな時でも内ゲバは欠かせず、何とか全員無傷でチハの後ろに隠れることが出来た。


「クソっ!最近のアメ公は弓矢まで使うのか!?」


「弓矢って今でも割と実用性あるからなぁ。」


「ええぃ!とにかくチハに乗り込むぞぉ!!」


無数の矢が降り注ぐ中貫志はチハによじ登り、キューポラを開くとそこに頭から突っ込んだ。

その際に一本の矢が腰辺りに掠り、僅かな切り傷が出来た。


「アァァァァァァァァッッッッ!!!刺さった!!今絶対腰に刺さった!!ウォォオオオ!!!」


貫志は腰の激痛に滑稽な悲鳴を上げながらするりと中に入っていった。


「刺さってねぇよバァカ!!ただのかすり傷だ!!」


隆二達も貫志に続いて次々とチハに乗り込んだ。


「戦闘態勢に移行しろ!!車載機銃で追っ払え!!」


車内で逆立ち状態のまま貫志が指示を出し、チハは車体をゆっくりと矢が飛んで来る方へ向けた。


「撃ち方初めぇ!!」


砲塔の後部と車体左側に搭載された九七式車載重機関銃がけたたましく銃声を上げ、木の上の弓兵達に銃弾の嵐を浴びせた。


発射された7.7ミリ弾は木々の枝をもぎ取りながら弓兵達のすぐそばを掠めていった。


銃弾の嵐と銃弾のを恐れたのか弓兵達は木の上から飛び降りると蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。


「……どうにかなったみたいだな。」


砲手の隆二が九七式車載重機関銃の弾倉を交換しながら溜息をついた。


「いや、もしかしたら増援を呼びに行ったかも知れねぇ。 今のうちにこの森を出るぞ。」


「了解。」


操縦手の竜男がギヤを最大にするとギュルギュルと履帯を軋ませながら早々にその場を走り去って行った。






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