何を今さら

第1話

先生、許してくれますか？

私が小学校四年生の時だ。

春から担任になった沢村先生は、若くてバスケと生徒が大好きな優しい先生だった。

最初は、おそるおそる近づいてみたけどすぐに

クラス全員先生の虜になった。

皆の心をつかむきっかけは、朝の会で話す先生の霊体験。朝っぱらからの怖い話。

先生は霊感が強かった。

旅先で泊まった旅館の話。朝のジョギングの途中で先生が通ると必ず鳴る電話ボックスのベル。

いくつもエピソードがありすぎて、30数年経った今では忘れてしまった。

小学生の私は体は弱く、頭も悪く、運動もできない三拍子揃った劣等生だった。それだけでも

十分なのにアレルギー持ちで年中皮膚がかさかさで、私の周りは皮膚の粉が舞っていた。かさかさかさかさ。机に肩に。粉が砂のように。

今も変わらぬまま。変わらないよ。私。粉だらけ。

だから。だから先生もクラスの子と同じように私は嫌いだろうと思っていた。そう見せなかったのは、先生の人柄かな。ありがとう。

ある算数の授業で歯抜けの計算問題を出してきて、答えを出すのに全員が苦しんでたら私がひょっこり答えを出してしまって。

席が一番前で、先生の机が近かったから、ある男子が私が答えをみたんじゃ？と言われ、泣きそうになっていたら、先生、それは違うってかばってくれたよね。

嬉しかったよ。でも私ね、答え見たんだよ。見えたというか。泣きそうになったのは図星だったから。ひどいよね。卑怯なんだよ。私。

先生、ごめんね。こんな私をかばってくれて。

今さらだけどごめんなさい。私、大好きな先生に誉めてもらいたかったのかな？最悪やね。ごめん。

三学期末、先生は一人一人と記念写真を撮ってくれたよね。今でもその時の写真残ってるよ。緊張して笑えない私を後ろからくすぐって顔面崩壊写真だよ。せっかくの写真がねえ。

先生はその一年で異動してしまったね。

中学になってすぐの頃、先生はトンネルの事故であっさり死んじゃった。お葬式いかなかった。実感沸かなくてね。

皆に好かれるから、向こう側の人に呼ばれちゃったのかな？

今さらカミングアウトだけど。先生、ごめん。あのとき、かばってくれてありがとう。

今も変わらず愚鈍で、かさかさでなんの取り柄もないけど、生きてるよ。

今日ここで書けて良かった。先生は忘れちゃっているだろうけど、今も私生きてるよ。

嫌われても、仕事がうまくできなくても、人間関係がうまく作れなくても、かばってくれた気持ちを大事にして生きていくよ。

ありがとう、先生。