第40話 動乱の兆し



 翌日、そのまた翌日とわたし達は法都で法王猊下に直接に合う方法を考えていました。

 というのもここ数年、現法王猊下は人前にその姿を現していないからでした。

 全体礼拝や謁見などで会うときは常にカーテンの向こう側であり以前は良く人前に出る方だったのが急に変わってしまったと街の人に聞きました。


 ハイル殿下が王国の王子として出向いても謁見は許されませんでした。


「もしかして……噂は真実なのではないですか?」

「ああ、その可能性は……あるかもな」


 噂と言うのは、すでに法王様は亡くなっており枢機卿の誰かが成り代わっているのでは?というものです。

 しかし、法都でその様な話は大っぴらに出来るはずもなく誠しめささやかに流れているのでした。


「話が出来ないんじゃどうにもならないよな」

「だよなぁ」


 ハイル殿下をはじめ騎士団の皆さんや冒険者さん達も頭を悩ませています。



「姫様……お話が……あります」


 そんな日の夕方、ゼロさんがわたしにそっと話しかけてきました。


「一度法都……の……外に……出れない……でしょか?」

「法都の外にですか?」

「……はい……我々の……リーダーが……お話が……」


 ゼロさんが言うには結界の外でなら死者さんと話が出来るそうなのです。


 そう、あのいつもわたしを見守ってくれている金色の魂さんにお礼も言えるのです。

 わたしは、ハイル殿下や皆さんにゼロさんと少しだけ出てくることを告げ宿をでました。

 まぁゼロさんに対する野次がすごかったですが……



「こうしてお話するのは初めてですね、姫様」

「あ、あのあなたが……」

「はい、私が彼等を率いる……1番と申します」

「1番さん……本当のお名前は教えて下さらないのですか?」

「私達は死者です、もはやこの世界の住人ではなく……名乗る名など……」


 ゼロさんが入っていた身体にはあの、いつもわたしを見守ってくれている金色の魂さんが入っています。


「1番さん……いつも、ずっとわたしを守ってくれてありがとうございます!!」

「そんな……当然のことです」

「いえ!1番さんがいてくれたからわたしはずっとこうしてやってこれたんです!本当に……本当に感謝しています!」

「……有難いお言葉です……姫様」


 わたしと1番さんはそうしてしばらくの間、法都の外で束の間の邂逅をしました。

 1番さんが入っている義体はまだまだ不完全であるらしくあまり長時間19番さんと変わることは出来ないそうです。


「姫様……今から伝えることをお仲間の皆さんに伝ええて欲しいのです」


 そう言って1番さんは、わたしに驚くべきことを話しはじめました。


 死者さん達の調査ではやはり法王様は最悪亡くなっていると思われること、若しくは法都のいずれかに幽閉されているのではないかと思っていると。

 更に枢機卿の内1名かそれ以上の何名かが悪魔と関わりがあるかもしれず最悪の場合、悪魔そのものの可能性がある。


「悪魔が法都に……」

「はい、おそらくは間違いないと思います」

「でも、法都の結界は?」

「今調べさせていますが、どうも内側に入ってしまえばどうということはないと思われます」

「じゃあ……」

「はい、我々も中に入ってしまえば自由に行動が可能でしょう」


 1番さんの話は続きます。


 法都の中にかなりの数の悪魔の眷属がいること、そして悪魔達に都合の悪い人間を異端者として捕らえ処刑していると。


「では、わたしのところに来た方も?」

「間違いなく悪魔に魅入られた者かと」

「なんてことを……」

「悪魔の力の源は人間の怨念や嫉妬、魂といったものです。正直なところ私達死者としては分の悪い相手ではあるのですが……」


 そう言って1番さんは少し考えてから続けました。


「今回はいつかの帝国戦のときよりは私達の戦力も揃っています。法都を取り囲む結界さえ何とかなれば十分に戦えるでしょう」

「じゃあその結界を……」

「はい、姫様とこのゼロ、そして皆さんで壊してほしいのです」


 1番さんはそう言いわたしに結界の大元の大体の場所を教えてくれました。


「壊せずとも一瞬でも止めることが出来れば十分ですので、ご無理なさらずに……です」


 わたしは1番さんの声にはっきりと頷きました。

 悪魔……あの国境での戦いのように沢山の人が死んでいくのはもう見たくありません。


 絶対にどうにかしないと……







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