第36話 法王庁へ



「では、出発する!」


 わたしと騎士団の皆さん、冒険者さん達にハイルさん、今回の法王庁へと向かうメンバーが集まり王都の門をくぐる。


「まさか王子様も来るったぁ、思いもよりませんでしたぜ」

「何があるかわからんからな。王族ということが何かに使えることもあるだろうし……」

「ははは、王子は堅苦しい城での生活は嫌いだからな!こうして外に出てるほうがいいんだよ」


 わたしに同行してくれるのは、いつものメンバーです。

 すっかり何かあればいつもこのメンバーで行動しているのでまるで家族のようです。


「ああ、そういや歌姫様に紹介しとかないといけないヤツがいるんだ」

「わたしにですか?」

「ああ、ゼロを呼んできてくれ!」


 冒険者さんが呼んできた方は、真っ黒な鎧に身を包んだ戦士さんでした。


「こいつはゼロって言ってみた通り無口で無愛想なヤツだが腕は確かだ。ここ最近俺たちとパーティを組んでいてな、今回の件にも同行するって言うから連れてきたんだ」


「……ゼロだ」

「あっ!はい、ミィスです……あの……もしかして……」

「…………」


 わたしがある事を尋ねようとするとゼロさんは、し〜っと口元に手をあてました。



『ふむ、まずまずの出来じゃな』

『そうですね……くそぅ!19番」

『しかしまたすごいこと考えましたね?2番さん。……19番さん……さっさと戻って来ないですかね』

『試作は一体だけですか?……あの時チョキを出してれば……』

『残念ながらあの量の素材では一体が限界じゃな。そもそもアシッドスライムの亜種なんぞそうそうおるもんじゃないからの』

『生前の力も使えるんですよね?』

『もちろんじゃ、その為のアシッドスライムじゃからの』



 ふむ、ではちいと補足説明しておこうかの?

 以前持ち帰ったアシッドスライム亜種の繭と核から作ったのがあの"ゼロ"という容れ物じゃ。

 アシッドスライムは元来溶かすことに特化した個体じゃが亜種はそれと正反対の性質を持っておるんじゃ。つまり固めることに特化しておる。

 ワシの生きとった時代では欠損部位の治療に使われておった。

 ベースとなる身体を亜種の繭で作り関節や稼働部位をアシッドスライムで作る。ワシの研究の成果じゃな。



 わたしが思うに、どうやらこのゼロという方は人ではなく……魂さんの誰かだと思います。

 そうですよね?

 わたしは上空を見上げてそう聞いてみました。


 ◯


 魂さんたちが◯を作って答えてくれています。

 ふふふ、これで直接お礼が言えます。


 ゼロさんは何も言いませんが、ただ兜の奥から優しそうな目がわたしを見つめていました。


「よろしくお願いします。と……ありがとうございます」


 握手した手をじっと見つめているゼロさんにだけ聞こえるようにわたしは小さな声で感謝を伝えました。


「……ありが……とう」

「ふふっ、はい。ありがとうです」


『羨まけしからん!19ば〜ん!!』

『ああっ!あんなに近くで姫様と!!』

『2番さん!2番さん!何とかならないんですか!』

『そう言われてものぅ』

『ああ〜っ!握手してます!握手!』

『姫様に触れてますよ!ほらっ!ほらっ!』

『うぬぬね……』


 何となく上空が賑やかな気がしますが、それはそれで置いておいて私達の旅は続くのでした。


 法王庁まではかなりの距離があり途中にはいくつもの町や村もあります。

 ハイル王子や騎士団の皆さんはその道中の町や村の視察も兼ねているそうです。


「いきなり我々が来ればさぞ驚くことだろうな」

「ははは、それはそうでしょう。もし何かしらの不正が行われているとすれば丸わかりですな」

「それもそうだが、ある程度の情報は流れている可能性もあるからな」

「一応、各町や村の代表のリストには目を通しておきましたから怪しいところを重点的に回りますか」

「うむ、そうするか。少し遠回りになるが……よいだろうか?」


 そうハイル王子に尋ねられましたが、もちろん問題ありませんと答えました。


 わたしも色々な街を見てみたいですし、そんなに急いで法王庁に行きたくもありませんから。

 わたしのそんな胸の内を知ってか知らずかはわかりませんが、道中は今までにないくらいのんびりとしたものになりそうです。

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