第35話 法王庁からの使者
その方が尋ねてきたのはわたしが庭でポチ(ワイバーンです)に餌をあげているときでした。
「ミィス様のご自宅はこち……うわぁ!!!」
「はい?どうかされましたか?」
「うわぁ!ど、どうかって!な、何ですか!その魔物はっ!」
「ポチですけど?」
「ポチ?」
「はい、ポチです」
「グルルルル〜」
「いや、しかし……魔物……」
「ポチです」
いきなり来て魔物魔物って失礼な方です。
「何かご用でしょうか?わたしがミィスですが」
「は?」
「ですから、わたしがミィスです」
「え?あなたが……歌姫と言われるミィス様ですか?」
「はい」
その方は、わたしを上から下までジロジロと見て服についた泥を叩いて立ち上がりこう言いました。
「私、法王庁の司祭をしております、バルカンと申します」
「法王庁?」
「歌姫ミィス様にお話があり法王庁からやって参りました。少しお時間宜しいでしょうか?」
『法王庁ですか。また厄介なところが出てきましたね』
『厄介なんですか?会長』
『ええ、厄介です。なにせ彼等は我々死者や魔物を認めていませんからねぇ』
『お堅いんですね』
『この国が緩すぎるのもありますがね』
「法王様が、是非一度歌姫ミィス様にお会いしたいと申されておりまして……いかがでしょうか?」
「そう言われましても……わたしもお仕事がありますし……直ぐにとはいかないです」
「法王様直々のお誘いですぞ」
「お誘いは有り難いですけど……今すぐにはちょっと無理です」
「……歌姫様は法王様のお誘いをお断りになると?」
「そうは言っていません、今すぐには無理ですって言っています」
「……そういえば歌姫様はあの魔物を飼って……」
「ポチです」
「……魔物を……」
「ポチです」
「ま……」
「ポチ」
「…………」
「…………」
「ポチを飼っていらっしゃるようですが、どういうことかお分りですかな?」
いちいち失礼な方です。
わたしはあまりイライラしたりはしませんが、どうもこの方とはお話をしたくありません。
「どういう意味ですか?」
「法王庁は、ま……ポチを個人で飼うことは認めておりません」
「……?意味がわからないのですけど」
「つまりですな……ポチを個人で飼うということは教義に反した行い、即ち歌姫様は異端者ということになります」
異端者?なんでしょうか?
「ですから何が言いたいんでしょうか?」
「はぁ……率直に申しますとあなたを異端者として捕らえることも出来ると言っているのです」
この方は何を言っているんでしょうか?
いきなり尋ねてきて法王庁へ来いだとか、ポチを飼ってはダメだとか、わたしを捕らえるとか。
「そうですか」
「おや?出来っこないとお思いですか?こう見えても私はそれなりに力もあるのですよ?」
「……もう結構です、お引き取り下さい」
「……残念です。残念ですがあなたを異端……」
そこまで言って司祭さんは搔き消えるように姿を消しました。
『見ていて腹が立ちますね。16番!』
『はい、どこに飛ばしますか?』
『法王庁の法都の……そうですね、風呂屋の女湯にでも飛ばしてあげなさい』
『了解です!』
ふぅ、なんだか厄介なことになりそうです。
そしてその厄介なことは現実になりました。
数日後に王国宛にわたしを異端者として身柄を差し出すように法王庁から通達が来たのです。
わたしの元にハイルさんが来てことのあらましを聞いてくださり、王国はこれを拒否するとともに真相の解明のためにわたしも含めた騎士団の派遣を決定しました。
もし、わたしの身に危害が加えられた場合、戦争も辞さないと。
「あの……どうしてそこまでしてくださるのです?」
「何を言っているんですか?歌姫様は今や我が国の英雄です!それを言うに事欠いて異端者などと!」
「そうです!国王陛下も大変御立腹なされ血圧が上がって大変でした」
「……歌姫様を差し出すなどあり得ません!そんなことをしたらギルドと騎士団に国が潰されかねません」
「ワイバーンは確実に全て敵にまわるでしょうし……」
宮廷魔術師さんや大臣さんにハイルさんもそう言ってわたしを庇ってくれます。
「ですから白黒つけに乗り込んでやりましょう!」
「我々も同行致しますし、いつもの連中も喜んでついてくるでしょう」
こうして渋々ですが、わたしは法王庁に行くことになったのでした。
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