法王庁編

第34話 戦勝会



「……という訳なのだが、心当たりはないだろうか?」

「ない……とは言えないです。うちにも一匹いますから」


 ここは王城の騎士団訓練場の駐屯所。

 わたしにそう尋ねているのは騎士団の副団長さんで、その中身というのが。


 わたし達が国境に向かって王都を出発してから数日後に突如としてワイバーンの群れが王都に襲来したらしい。

 当然王都は大パニックになったのだけど、ワイバーン達はここ、騎士団の訓練場に降りたあと大人しく何かを待っている感じだったそうです。


 宮廷魔術師さんの話によると、どうやらわたしを追ってきたらしく、わたしのうちにいるワイバーン──名前はポチです──のほかはここで騎士団の方々の騎竜になっているそうです。


 理由はよくわかりませんが今もこうして話していても窓の外から興味津々でワイバーン達が覗いています。



『ああ〜なるほど、こういうことか』

『こういうことです』

『しかし何でまたワイバーンは姫様を追ってきたんだ?』

『さぁ?あのちっこいのが言うには姫様に憧れてって言ってたぞ』

『へ〜、っていうか駐屯所を覗きこむワイバーンの群れって見てて笑えるよな』

『確かに早々見れる光景じゃないよな』



 騎士団の皆さんとワイバーンは何となく意思疎通が出来たみたいでそれぞれが気に入った相手とパートナーになったそうです。

 ワイバーンという強大な戦力を手に入れて王国はいまや帝国すら凌駕するくらいの力を持ったようです。


「ですが……どうもコイツらは歌姫様に懐いてるみたいでして……」

「悪さをしないしいいんじゃないですか?可愛いですしね」


 ワイバーンも間近で見れば中々可愛い顔をしています。

 ポチなんて円らな瞳が愛らしいです。


「歌姫様、こちらにお出ででしたか?そろそろ式が始まりますので王城の方へ」

「はい、分かりました。ではまた後日」

「はい。ありがとうございます」


 わたしは迎えに来たお城の人に案内されて王城へと向かいます。


 案内された王城は正に豪華絢爛な造りで、思わずキョロキョロと見渡してしまいました。

 わたしは別室に案内されて式に出席する為に着慣れないドレスに着替えさせられました。



『22ば〜んっ!!!』

『はいはい、ちゃんと撮ってますって』

『むうぅ……なんと可憐な』

『姫様……綺麗ですね』

『惚れてまうやろ〜!!』

『……いつの人だよ?』



 まず始めに国王様のお言葉的なものがあって、冒険者さん達や騎士団の皆さんに褒賞があったそうです。

 わたしはそういったことが苦手なので辞退させてもらいました。

 本当ならこういうパーティも苦手なのですがハイルさんや騎士団の皆さんに言われて仕方なく参加です。


 お城の人に連れられてパーティ会場に到着します。


「歌姫ミィス様、ご到着なされました!」

「え?」

「ささっ、どうぞ、歌姫様」

「ちょ、ええ〜っ?」


 そっといってそっと帰るつもりだったのに……


 半ベソのわたしがパーティ会場に入ると割れんばかりの拍手が降り注ぎます。


「おおっ!あれが噂の歌姫か……」

「なんと……可憐な……」

「あの美しさに悪魔すらも退ける力か……」

「すぐに身辺を調べろ!特に男性関係だ!」

「我が公爵家に……」


 皆さんの視線が集まってちょっと怖いです。


「国王陛下!御入場〜!」


 ザワザワしていた会場がその一言で静かになります。

 わたしはほっと胸を撫で下ろして壁際へと避難しましす。


「皆のもの!今宵は先の戦の戦勝会じゃ!心ゆくまで楽しんでくれぃ!」


 国王様は60歳くらいの優しそうな白髪のおじいさんです。

 傍らには3人の男性が従っていてハイルさんの姿が見えることから王子様なのでしょう。


 それからは国王様や王子様達を囲んでの和やかな雰囲気でパーティは進んでいきました。

 わたしも多くの方々に挨拶をされたり、ご子息さんを紹介されたりと大変でしたが、パリッとピリッと雷が落ちていたので何とかなりました。


「はぁ……やっぱりこういうのは苦手です……」


 バルコニーの端っこでわたしはひとりため息をつきます。


「すまないね、歌姫殿には苦労をかけてしまう」

「あっ?ハイル……殿下」

「ははは、普段通りで構わないよ」

「そ、そうですか」

「皆がどうしても其方を見てみたいと言ってきかなかったんでね」

「はぁ……苦手なんです。ごめんなさい」

「いやいや、そんな謝らないでくれ!私こそもう少しやりようがあったと……」

「…………」

「…………」


 何となく2人して黙ってしまいました。



『なぁ?ちょっとあの2人いい感じなんじゃないか?』

『くっ、悔しいが中々いい男だしな』

『そこはお前、俺の方がって言わないのか?』

『言いたいのは山々だが、俺たちって魂だからな……』

『……そうだったな』



 ハイルさんは何かと気を使ってくれまして、その後は特に何もなくお開きになりました。

 国王様とも少しだけお話ししましたし、とても印象のいい方でした。


 そしてこのパーティから1週間後、わたしの元にひとりの方が尋ねてきました。


 遠路はるばる、法王庁から……

















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