第33話 王都への帰還


 王都までは、冒険者さん達と一緒にのんびりとした旅になりました。


 帰り道では、行く先々のいつもの御食事処でご飯を食べ当然のように温泉に入りちょっとした小旅行みたいでした。


「歌姫様と一緒に旅をするとアレとコレはセットでついてくる感じだよな」

「ああ、だってよ、こないだ行った温泉なんて次に行ったらなくなってたからな」

「……どうなってるんだろうな?」

「いいんじゃないか?美味いし疲れも取れるし」

「それもそうか」


 戦場を離れてからわたしは、もしかしたら死者さん達がまた見えなくなるのではないかと心配していたのですが、それも杞憂に終わりました。

 今もしっかりと上空を見上げればその姿を見ることが出来ます。



『ねえ会長、姫様ってずっと俺たちが見えるままなんかな?』

『どうでしょうね、今のところ見えているみたいですが……』

『あっ!手を振ってますよ!俺に!』

『いやいや、私にですよ』

『俺ですって!』

『私です!』



 わたしの上にはいつもあの金色の魂さんがいてくれます。

 一度ちゃんとお礼を言いたいのですが、なんとかならないものでしょうか?


 国境へ向かったとき同様、特に何ごともなく順調な帰還でした。

 冒険者さん達が御食事処を探し回ったり、温泉に一日中入ってたりしたくらいです。


 街道から遠くに王都が見えてきて、やっと帰ってきたんだなぁとしみじみと思いました。

 久しぶりに戻ってきた王都は以前と変わりなく活気にあふれていて遠く国境で戦争をしていたことなど関係ないと言わんばかりでした。


 冒険者さん達はギルドに報告がありますので一旦別れました。

 本来なら私も同行した方がいいのですが、家も気になりますしクルルちゃんも待っているでしょうから。


 という訳で小屋に帰ってきたのですが……


「えっと……何?」


 小屋の庭が私がいない間にかなり広くっていてそこにわたしの住む小屋よりも大きな小屋が建っていました。

 そして、そこからは大きな尻尾が出ています。


「え〜っと?ワイバーン?」


 わたしに気づいたのか小屋からはワイバーンが出てきました。

 成竜程ではなくまだ幼いワイバーンのようですがそれでもかなりの大きさがあります。

 ワイバーンはわたしに頭を擦り付けて嬉しそうにクルクルと喉を鳴らしています。


「もしかしてあの山のワイバーンさんですか?」

「グルルルル〜」


 まるでそうだと言わんばかりに喉を鳴らすワイバーン。

 いったい何があったんでしょうか?


 わたしは上空の魂さん達を見上げます。



『なぁアレ、ホントに良かったのか?』

『仕方ないだろ?姫様のところに行くって聞かないんだから』

『いや、いくらなんでも王都の中でワイバーンを飼うって大丈夫なのか?』

『大丈夫だって……実はな……』

『……は?マジかよ?』

『ああ、だから問題なし!ノープロブレムだ!』

『どこの言葉だよ……』



 見上げた魂さん達は特に何ごともない様子ですので多分大丈夫なのでしょう。


「グルルルル〜」

「クルル〜」


 わたしが視線を戻すとワイバーンの頭の上からクルルちゃんが飛び降りてきました。


「クルル〜クルル〜」

「お留守番ありがとね、クルルちゃん。寂しかったでしょ?ごめんね」

「クルル〜」


 クルルちゃんはひとしきり甘えた後、わたしの頭の上に乗って寝転がっています。


「ふふふ、今度は一緒に行きましょうね」

「クルル〜」

「グルルルル〜」

「え?あなたもですか?」


 ワイバーンさんもどうやらクルルちゃんと一緒にお留守番をしていたみたいで、今度は自分も行きたいと言っているように聞こえます。


 久しぶりに帰ってきた我が家がちょっと変わっていて驚きましたが、きっと大丈夫なのでしょう。

 わたしは小屋に入り久しぶりの自分のベッドでゆっくりと寝ることにしました。


 何日か後には王城で開かれるパーティに出ないといけません。

 はぁ、ちょっと気が重いです。






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