第32話 終戦



 それは、ただ一筋の光でした。

 ほんのちょっとのか細い光が空から悪魔目掛けて走ったのです。


「あぁ?なんだ?」


 悪魔は己が身体を照らす光を鼻で笑って上空の魂さん達を見上げました。


「ははっ何をすんのかと思ってみれば、なんだこりゃ?」


 ですが、悪魔は気づいていないのです。

 光に、光に照らされた箇所から塵に変わっていっていることに。


「おいおい、勿体つけといてこのて……」


 そこまで言って悪魔は我が身に起こっている異変に始めて気づきました。


「な、な、何だ!身体が!」


 次第に塵に変わっていく悪魔の身体。

 悪魔は光をかわそうとしましたが、既に足は塵になりつつありかわすことは出来ませんでした。


「お、おい!冗談だろ?なんだよ?これ!おいっ!女ぁ!」


 わたしに手を伸ばしますが、その手も降り注ぐ光によって塵に変わっていきます。


『超圧縮収束魔法シザーレイ。どうかしら?』

『大したものですね。2番さんが見れば大層喜んだでしょうね』


「て、てめぇ……ち…待っ……」


 悪魔は身を捩り光から逃げようとしますがそれも無駄なあがきでした。


 時間にして僅か10秒くらいでしょうか。

 悪魔は断末魔を上げることすらなくサラサラと塵に変わって風に流されていきました。


「……終わったのですか?」


 上空の魂さん達を見上げると心なしか嬉しそうに見えました。


「皆さん……悪魔は、悪魔は滅びました!」


 わたしが冒険者さん達と騎士団の皆さんにそう声を掛けると、皆さん一斉にわたしのほうに駆け寄ってきます。


「うおぉぉぉぉ〜!!歌姫様!」

「歌姫様!万歳〜!」


 次々と集まってくる皆さんの中には帝国の兵士さんの姿もありました。

 王国と帝国の兵士さんが肩を並べて皆喜んでいます。


「歌姫殿、ありがとうございました」

「あっ、ハイル……王子さま?」

「ははは、戦場では王子は余計ですよ、歌姫殿」

「そ、そうですか?ハイル……さん」


 ハイルさんと騎士団の皆さんで今回の戦争の終結宣言をするらしいです。

 帝国の皆さんもかなりの数を悪魔に殺されておりもう戦う意思はないみたいです。

 寧ろ……


「歌姫様……なんと麗しい……」

「あれが王国が誇る歌姫ミィス様……」

「悪魔すら退ける力とあの美しさ、正にその名の通りですな」

「俺……王国に移住しようかな」


 何か熱い視線を沢山感じるのですが……どうなんでしょうか。


 こうして鉱山の奪い合いから発した戦争は終結をしたのでした。



『逃したか……』

『はい、申し訳けございません』

『あれを受けて尚逃げ切るとはな』

『余力はないように見えたのですが……』

『僅かだがもうひとつ悪魔の気配を感じた。多分仲間がいたのだろう』

『な?まだ他に悪魔が……ですか?』

『うむ、30番と40番が戻ったらその辺りのことも詳しく聞かんとな』

『そうですね』

『とは言っても肝心な時に遊んでおったわけだからな、罰は受けてもらうがな』

『会長……悪人ヅラになってますよ……』


 わたし達は王都に帰ってから戦後の祝勝会に招待されるそうです。

 わたしはお断りしたのですがハイル王子様が、どうしてもと言うので仕方なく出席することにしました。


 騎士団の皆さんは戦後処理があるそうなのでまだしばらくはここに留まるそうです。わたしと冒険者さん達は一足先に王都に帰ることになりました。


 早く帰ってゆっくりと寝たいです……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る