第29話 悪魔来たりて



「う〜ん、帝国軍は何も言ってきませんね?」

「そうだな、もうすぐ5分経つな」


 騎士団の隊長さんが、わたしの名前で脅迫してからそろそろ5分が経とうとしています。

 正直なところ、さっさと帰って頂ければどっちでもいいのですが。


「ん?あれ何だ?」


 冒険者さんが指差している空にいくつかの影が見えます。


「何でしょう?鳥でしょうか?」

「……あれは……ドラゴン?」


 こちらに向かってくる影はワイバーンよりも大きく雄々しい竜でした。


「何でこんなところにドラゴンが?」


 上空のドラゴンを見上げて冒険者さんが呟いたとき帝国軍に動きがありました。


「ふははは!王国の兵よ!あれこそが我が帝国が誇る竜騎士よ!」

「さぁ竜騎士よ!王国のやつらを皆殺しにするのだ!」


 本陣の天幕から出てきた若い男性がそう言って上空のドラゴンに命令しました。


 ……しましたが、上空には魂さん達がいるわけで当然ですが何もしないわけないじゃないですか。


「おいっ!何をしている!竜騎士!おい!聞こえないのか!」



『ふぅ〜ん、ドラゴンねぇ。でっかいだけのトカゲが偉そうに』

『76番さんは確か元竜騎士でしたよね』

『正確には竜の調教師だけどな』

『ああ〜なるほど。だからあのドラゴン達はビクビクしてるわけですね』

『俺からすりゃドラゴンなんざ、ただのデカイだけのトカゲと変わらないからな』



「おい!どうした!降下して攻撃だ!」

「こらっ!何帰ろうとしてるんだ!戦え!」


 上空ではドラゴン達が必死にイヤイヤをしているように見えます。


 あっ、騎士さんを振り落として1匹帰って行きました。



『おう?こら!トカゲ!いっぺん地獄見てくるか?』

『調教師っていうかヤ◯ザですね……』

『あぁ?何目逸らしてんだ?』

『チンピラですやん』



「竜騎士〜!こら〜!早く攻撃せんか〜!」


 男性が上空に向かって叫びますが、ドラゴンは何とかしてここから逃げたいみたいです。

 多分上空の魂さん達が何かしているのでしょう。


「もうおしまいにしませんか?勝負はつきましたよ」


 わたしは男性に向かって声を掛けました。


「だ、黙れ!貴様さえ貴様さえいなければっ!」


 血走った目でわたしをにらみつける男性。


「そう言われましても……帝国の皆さんが来なければこんなことにはならなかったんですよ」

「う、うるさい!うるさい!」


 イヤイヤをするように頭を振り掻き毟る。



『会長。あの男から嫌な感じがします』

『そうですね……これは……少し不味いかもしれませんね』

『……この気配は……悪魔か?』

『その様です』



 頭を掻き毟り、ヨロヨロとふらつく男性。


「うるサイ…うルさイ…うううう」


「おいっ!何か変じゃないか?あいつ」

「歌姫様!お下がり下さい!」

「まずい!」


 わたしが騎士団の皆さんなところに戻るとほぼ同時に物凄い勢いで何かが男性の中に吸い込まれていきます。


『戦場に散っていった魂を吸い込んでいる』

『会長!』

『30番と40番は!』

『そ、それが!秋葉◯にアイ◯ルのライブを見に!』

『さっきまでおっただろうがっ!』

『10分ほど前に時間だからと言って……』

『あの……アホ共があぁぁぁ!』



 男性を中心に爆発的な風が巻き起こり周囲を吹き飛ばしていきます。


「皆さん!わたしの周りに集まってください!」


 わたしの周りに冒険者さん達と騎士団の皆さんが集まります。


 そして……風が収まったあとには浅黒い肌の一匹の悪魔が立っていました。


 そう、悪魔が……

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