第13話 討伐遠征10日目



 翌朝、山頂の高台を取り囲むように騎士さんたちと冒険者さんたちが戦いに備えていました。


「歌姫様はいざという時のために後方にてお待ちください」

「あの……大丈夫ですか?わたしも戦ったほうが」

「なぁに大丈夫ですよ、それに騎士団の連中の中には歌姫様を良く思ってないヤツらもいますから」

「……わかりました。皆さんどうかご無事で」


 そう言って冒険者さんたちは各々の武器を手に取り戦闘開始の合図を待っています。


 やがて高台の向こうに騎士団の旗が掲げられ戦いの火蓋が切って落とされました。



「魔術師は風魔法主体で翼を狙え!」

「後衛の護衛は絶対に守り切れよ!」


「騎士団は前面に展開!王国の誇りを見せよ!!」


 うおぉぉぉぉっ!!!と歓声が上がって騎士団の皆さんと冒険者の皆さんが剣を掲げます。

 わたしは後衛の魔術師さんや神官さんのところで護衛につくことにしました。


「よろしくお願いします」

「え?ああ、いやこちらこそ」

「もしかして……歌姫様?」

「えっと……はい。そう呼ばれているみたいです」


「ちょっと!あんたらここは戦場だよ!何のんびりしてるんだい!死にたいのかい!」


 わたし達が和やかに会話をしていると女性の冒険者さんに怒られてしまいました。


「ごめんなさい」

「全く!歌姫だがなんだか知らないけどよくもまあ、そんな格好で……」


「危ないっ!えいっ!」

『19番!ソニックブレード!』

『25番!ウィンドカッター!』

『『了解!!』』


 こちらを見つけたワイバーンが冒険者さんの上空から襲いかかってきました。


「大丈夫ですか?びっくりしましたね〜」

「あ、ああ、ってなんだコリャ〜!!」


 女性の冒険者さんは真っ二つになって地面に横たわるワイバーンを見て大声を出しています。

 何ってワイバーンですよ?


「あの……この格好じゃダメだったでしょうか?」

「いや!そんなことないさ!うん、似合ってる!似合ってるよ!」


 ははは、と笑いながら女性の冒険者さんは戦いに戻っていきました。


「何だったんでしょうね?」


 振り向いて笑いかけたわたしを見て後衛の皆さんが引きつった笑いを浮かべていました。


((((そりゃ!あんたのことだよっ!!!))))


『ちょっと目立ってしまいましたね』

『許容範囲だ』

『会長……ちゃんと考えてます?ミィスちゃんのワンピース姿に見惚れてたりしません?』

『…………』

『会長〜!!』


 戦いは更に激しさを増して騎士団の皆さんや冒険者さんにもかなりの怪我人が出てこちらに運ばれて来ます。


「ごめんなさい。わたしには回復魔法は使えないって……あれ?」


 わたしの側に運ばれてきた冒険者さんの傷が見る見る間に治っていきます。


「「「おおっ!!」」」


『ミィスちゃんが泣きそうでしたので……』

『うむ、的確な判断だ。83番』

『あの会長?目立たない様にするのでは?』

『ミィスちゃんが悲しそうな顔をしたんですよ?仕方ないじゃないでしょう?』

『いやいや、皆さんも「うん、うん」じゃないですよ。また目立っちゃってますよ』

『……許容範囲だ』

『会長〜!!』


「あれが歌姫様の完全回復魔法か……噂では死者すら蘇らせるとか……」



『そんな便利な魔法があったら私達、とっくに生き返ってますよね?』

『うん?ありますよ。蘇生魔法』

『えっ?あるんですか?じゃあどうして?』

『だって……身体もうないじゃん私達』

『生き返ってもゾンビかスケルトンあたりが関の山』

『……それはちょっとイヤですね』

『だろ?』



 よくわかりませんが、わたしの側に来ると傷が治るようです。これもきっと死者さんがしてくれているのでしょう。


「いつも、ありがとうございます」


 魔力の無いわたしには死者さんを見ることが出来ません。

 どこで見守ってくれているのかわからない死者さんにわたしは笑いかけることしか出来ません。


『22ば〜ん!!!記録〜記録〜!!今の素晴らしい笑顔は記録したかっ!!』

『当たり前です!パノラマでばっちり記録しました!』

『パノラマ?』

『そういう撮影方法があるんですよ』


 わたしの側に運ばれてくる皆さんは傷が治ると歓声を上げて涙ながらに感謝して戦いに戻っていきます。


「あまり無理はしないでくださいね〜!!」


「「「は〜い!!」」」


 何故だかすごくいい返事が返ってきました。

 はて?何故でしょうか?








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