第4話 ミィスちゃんファン倶楽部
『え〜では、ミィスちゃんファン倶楽部定例会議を始めます』
ワー!パチパチパチ!
ここは王都の西側の端にある場末の酒場。
その屋根の上である。
『え〜まず始めにファン倶楽部会長より本日の反省点に関しましてお話があります』
屋根の上といっても俺たちは死者の魂なのでフワフワと浮かんでいるから関係ない。
そう言って司会の魂が脇に移動すると変わって金色のちょっと偉そうな魂がふよふよと前に出てきた。
『こんばんは。会長です。例によってまずは本日の反省から。最初に15番!』
『は、はいっ!』
『キミにはミィスちゃんが歩く道の障害物を片付けるように言いましたね?』
『はい!岩石、大木等、排除致しました!』
『うん、その点については評価しましょう。しかし!キミ、ミィスちゃんの足元の木の根に気がつきませんでしたね?』
『はっ!も、申し訳ありません!失念しておりました!』
『失念しておりましたじゃない!!もし躓いてミィスちゃんが転んだりしたらどうするのかね!!減点1!』
『申し訳ございません!以後注意致します』
細かっ!!!
この定例会議に出席するのは初めてなのだが予想以上に厳しいんじゃないだろうか。
いや、厳しいというか……過保護過ぎないか?
次々と会長からのダメ出しをされていく魂たち。
魂の凹み具合が半端ない。
隣の魂なんてデコボコになってる。
『最後に83番!』
『はっはい!』
おおっ、83番と言えば伝説級の回復魔法まで使えるって噂の魂だ。
『あなた、ミィスちゃんが息切れするまで気がつきませんでしたね?ミィスちゃんを疲れさすなど言語道断です!!!』
『はああぁぁ〜っ!申し訳ございません!申し訳ございません!』
『22番!この馬鹿者に聴かせてあげなさい!』
『はい!かしこまりました』
22番ってのは確か記録係の魔法使いだったよな。
「ふうっ」
おおっ!ミィスちゃんのため息だっ!
『皆さま、お聞きになりましたか?我らのミィスちゃんがこのようにため息をついたのです!これも全て83番の職務怠慢のせいです!!』
『申し訳ございません!申し訳ございません!』
『いいえ、この大罪を見過ごす訳にはいきません!よってあなたには……』
周りの魂たちがゴクリと唾を飲み込む。ような気がした。
『
『な、な、ま、マッチョ……何卒!何卒マッチョだけは!マッチョだけはお許しください!』
『言い訳は見苦しいですよ!!連れて行きなさい!』
『お助けを!!!お助けを〜〜!!』
83番の悲鳴が遠ざかっていく。
マッチョ……それは1週間の間、愛しのミィスちゃんに会えないばかりかマッチョに囲まれて過ごさなければならないという、この世のものとは思えないほど恐ろしい刑なのだ。
ああ、哀れ83番……
『本日の反省はこれで終了です。さて…次の議題ですが……ん?どうしましたか?80番?』
『はい、会長。ミィスちゃんの護衛についています69番からの報告によりますとそろそろミィスちゃんがお歌いになるお時間だそうです』
『なんと!!!それは一大事です!!!本日の定例会議はこれで終了とします!各自急ぎ下の酒場へ!』
終了の合図と同時にものすごい勢いで魂たちが階下へと消えていく。
もちろん俺も続いた。
ミィスちゃんの歌のおかげで俺はここにこうしていれるんだからな。
酒場の中は大勢の人で混み合っていた。
おっ?結構見知った顔もあるじゃないか。
俺はフヨフヨと上空を漂って一段高いステージの前まで飛んでいく。
『お?お前新入りだな?』
『あっ、はい!昨日からお世話になってます。97番です』
『そんな畏まらなくていいぞ、俺は19番だ』
『ええっ!19番ってもしかしてあの有名な元勇……』
『おっと新入り!俺たちの間で生きてた頃の話は厳禁だぜ』
『あっそうでした。すみません』
『それより、ほら始まるぜ』
ステージの上にはミィスちゃんが立ってこちらに向かってペコリと頭を下げた。
「〜〜♪〜〜〜〜♪〜♪〜〜」
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った店内にミィスちゃんの歌声が響き渡る。
冒険者も死者の魂も皆一様に同じようにその歌声に聴き惚れている。
この時、俺は神さんに感謝したね、死んでて良かったってね。
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