もう、くるしいです。

 父が、

「双方、いくらくらいなら手をうてる?」

 母は、

「40万」

 セコは、

「60万」

 と粘る。

 母が40万といったからの60万なのだろうが、70万くらいはもらいたいのではないかと予想する。

 きっと後でセリフを取り消すぞ……。

 まだまだとれると思ってるのがありありとわかる。

「もらわないと、やってけないんで。業者との間で紛争がおきますから」

 さては背水の陣。あなどれん。

「じゃあ、間をとって50万でどうだ」

 と父が言ったそうな。

 それで、まとまりかけていたのだという。

 しかし、わたくしがもうだめだ。

 リビングに入っていって、何も知らずにとおーくから、

「帰って」

 時刻は11時を回っていた。実に2時間も粘られた。

「もう、帰ってよ」

 大声が部屋にまで筒抜けなのだ。セコさんの声も。そう訴える。

「もう、いやだ」

 父は、いいから部屋にひっこんでいなさい、関係ないからと怒鳴った。

「関係あるのよ、あの場に居合わせたから」

 あの場とはX-Day。4月22日月曜日の昼下がり。

 わたくしは母がセコに絡まれるのを目撃し、見聞きして来たのだ。それからなんやかんやで夜も眠れず、セコのメール攻撃に耐えてきた。

 母はメールをやらないからね。

「迷惑」

 わたくし、ふりしぼるようにいって、悶えた。足踏みをする。勝手に体が動くのだ。苦しい。呼吸が……。

 地団太をふんで、キッチンの流しにすがりついて体を動かし続け、「帰って」と繰り返した。

 過呼吸を起こしていた。

 セコ、ようやく席を立って、11時15分。

 水を汲んできて、セコと父の後に続く。

 母がなんの心配をしたのだか、

「その水、変なことにつかわないでよ」

 と不安げに続く。

 わたくしは、苦しいので、

「薬飲むんだ!」

 と強く言って自室に戻る。

 すると、玄関で父が、

「送りましょうか」

 と信じられないことを言う。

 母がまた、

「いいえ、私が」

 と重ねる。

 どうでもいいが、どうしてこのセコに甘いのだこの二人。

 ブチ切れるわたくし。

「駄目! 帰って!」

 と訴える。

 それ以上粘るのならば……カウントダウン。


 後はさんざん泣いて、母になぐさめてもらった。

 父はセコを送りに行って、すぐ帰ってきたが、

「こわいよー、ひぃー」

 と泣くわたくしにむけて、

「甘えるな!」

 と怒鳴りつける。

 のちのち、事情を聞いて、これを書く。

 セコはわたくしが呼吸おかしくしてるのに、謝りもせず去っていった。

 セコって残酷。

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