あたしがきみに、出逢うまでの物語


 ――あたしの物語にはこれといった冒険も、仲間たちとの団結も、なにひとつないかもしれないけど。


 2005年9月28日、あたしは栃木県足利市の小さな病院に生まれた。出生体重2480グラムと、少し小柄な女の子だった。

 母によると、出産日は残暑が厳しく、蝉も元気に鳴いていたという。そんな蝉時雨せみしぐれさえも掻き消すほどに母は分娩室で泣き喚わめいたらしい。出産の痛みは鼻からスイカを出すのと同じぐらい、……とよく耳にするけど、想像もつかない。鼻からスイカを出したことのある人がこの世にはいるというのが、まず驚きだ。

 助産婦さんたちによる懸命な命のやり取り、部屋の外で見守る父の祈り、そして母の荒い息遣い、――ようやく甲高い産声が響いた。

「おぎゃあああぁぁッッ!!」

 初めて出向いた開けた世界に孤独と不安を感じた。真っ赤な体に目一杯の酸素を吸い込もうと必死に頑張ってみる。包まれた毛布の質感に、明るい瞼の裏側に、知らないたくさんの声――。

 ――ここは、どこなのだろう。

 すると母はあたしのほっぺたを触って、震える声でこう言った。


「……凛花リンカ」


 ――あたしの名前だった。

「……生れてきてくれて、ありがとう」

 その優しい声は物心つく前のあたしの記憶にも確かに残っていて、頰に触れた手の温かさを今でも鮮明に思い出すことができる。





 あたしはひとりっ子だった。母、……という呼び方は堅苦しいからやめにしよう。ママとパパ。ふたりにとっては念願の子どもで、大切に育てられた。

 美味しいご飯が山のように並ぶ食卓――ママの作る色鮮やかな料理はどれも美味しくて好きだった。中でも大好物はたまごサンド。ふわふわなたまごが口でとろけるその食感はどこの店に行っても味わえない、伝家の宝刀だ。おかげで背もぐんぐん伸びて、小さく軽かった赤ん坊の頃が嘘のよう。幼稚園を卒園するときにはひまわり組の中で一番高く、よく男子たちに自慢したモノだ。

 幼少期から運動が得意で、駆けっこではいつも一等賞。跳び箱も6段をアクロバティックに跳ぶことができて、スポーツ優良生徒として市から表彰されるほど。おまけに勉強も超得意。自分で言うのはアレだけど、クラスの人気者だった。女子たちはもちろん、男子にとっても憧れの的だった。

 そんなあたしのことをだれよりも慕ってくれたのが、陽依ひよりちゃんだ。陽依ちゃんは生まれつき体が弱くて、だから運動は苦手。勉強もあんまりできなくて、引っ込み思案で泣き虫で、よくあたしとは正反対と卑下していた。そんな陽依ちゃんのことをあたしはいつも守ってあげた。男子たちがいじめるたびに颯爽と現れ「やめなよッ!」と返り討ちにする。そしたらいつしか陽依ちゃんはあたしの後ろをついてくるようになって、仲良しになった。

「陽依ちゃんは凛花ちゃんのことが大好きなんだね」

「うんッ! そうだよッ!! 凛花はひよの王子様なのッ!!!」

 ……なんかいろいろ間違ってる気はするけど……、陽依ちゃんの何気ないその言葉が本当に嬉しくて、あたしもよく「姫ッ」と呼んではしゃいだ。

 ところが小3のとき、パパの転勤が決まってあたしたち家族は東京の墨田区へ引っ越すことになった。すごく悲しかった。寂しかった。なによりも、陽依ちゃんとのお別れが辛かった。

「そんなに泣かないの。陽依ちゃんはあたしがいないと全然ダメなんだから。あたしがいなくなっても男子たちに負けないように、泣き虫は卒業しなきゃね。それでもダメなときは、いつでも呼んでね。どこでも助けに行くから」

 荷造りする間、あたしはぶつぶつと陽依ちゃんへ送る言葉を呟いた。別れの練習だ。最後まであたしは彼女の王子様でいないとね。

 その言葉は次第に思い出話に変わり、この場所で暮らした9年間が過って泣きそうになる。やっぱり一番の思い出は陽依ちゃんとの毎日だった。全部忘れず持って行かなきゃ、――これでもかと鞄に詰め込む。

 そして別れの日が来た――。

「ひよ、絶対遊びに行くからね。方向音痴だから迷っちゃうかもしれないけど、電車に乗って、絶対遊びに行くから」

「うん、……ま、……待って……る…………」

 いっぱい泣いた。

 陽依ちゃんも目を潤ませていたけど、その比にならないくらい、あたしは泣いた。泣き喚いた。

 みんなから貰った花束や寄せ書きをくしゃくしゃになるまで抱きかかえ、車に乗る。後ろの窓に陽依ちゃんの手を振る姿が見えたけど、あたしは涙を拭くのに精一杯で手を振り返すことはできなかった。泣き虫なのはあたしの方だ、とそのときようやく知った。

「泣きすぎよ。そんなに泣いたら目がとれちゃう」

「ママ……止めて。……涙、止めて」

「もう仕方ないわね。……凛花、自分のほっぺたつねってみなさい」

「こ、こう……?」

 言われるままにほっぺたをつねる。口が開いて、ひりひりと痛む。

「そう。しばらくそのままにしてなさい」

 こんなんで涙が止まるのかな、とあたしは思っていたけど、窓ガラスに映る自分が馬鹿らしくなって思わず笑ってしまった。

「涙に効くおまじない、すごいでしょ?」

 ……うん、ママはすごい。





 都会での暮らしは最悪だった。

 道の歩き方から交わす挨拶まで、なにからなにまで東京は格が違う気がして、打ち拉ひしがれて、今までのように気軽にだれかと接することはできなくなった。背が高い、運動ができる、頭がいい、……それだけでは通用しない世界にあたしはひとりぼっちだった。

 転校初日、がちがちに緊張したあたしは自己紹介も満足にできず、窓側の席、不安と後悔に押し潰されそうになっていた。そんなとき、前の席の女の子が話しかけてくれた。

「凛花ちゃんはどこから来たの?」

「え、えっと…………」

 声が喉の奥に引っかかって上手く喋れない。言葉が詰まるとはこのことか。なにか話さなきゃ、なにか話さなきゃ……。結局そのままなにも答えられず、女の子は去って行ってしまった。

 あたしはさらなる後悔で泣きそうになる。だめだ……こういうときはほっぺをつねって……、――よし、大丈夫ッ! 次こそはッ!!

 しかし――。

「あ、あの……」

「ん? どうかした?」

「……あ、え、えっと、……その……、あたしと……、と、ともだ、……なんでもない…………」

 いつも吃どもってしまう。

 その後もチャンスが訪れては逃し、訪れては逃しを繰り返し、だんだんほっぺたのおまじないも効かないほどにあたしは弱っていった。

 そんなとき、あたしのことを支えてくれたのはやっぱりママだった。学校が楽しくないこと、馴染めないこと、……全部隠していたはずなのに、ママにはなんでもお見通しだった。

「凛花、……ママね、昔、一輪車が得意だったの。当時はまだ全然流行ってなくて、それで少し漕げただけでクラスのみんなから注目されちゃってね」

 ぽかんとするあたしを撫でながら、ママは話を続ける。

「今、自分から流行をつくるのは難しいかもしれないけど、たとえば、みんなの間で流行ってるモノを一生懸命やってみなさい。一生懸命な人には、神様がきっと答えてくれるはずだから」

 そう言ってほっぺたをツンツン触ってきた。「うん」と少し自信なさげに返すと、「大丈夫。……凛花なら大丈夫よ」と抱きしめてくれた。

 ――次の日から、あたしの戦いが始まった。

 登校すると、教室の隅で男子たちが集まって円陣を組んでいた。なにかと思えば、だれが一番早く口笛を吹けるようになるか競い合っている様子。「これは絶好のチャンスッ!!」とあたしはその日の夜、口笛の練習に励んだ。最初は隙間風程度にしか鳴らず、パパにコツなんかを教わった。

「舌を歯の裏側にくっつけて、……そう、そんな感じ。それで唇を尖らせて、優しく風を送って……」

 何度も何度も練習を重ね、没頭し、やっと微かにだが鋭い音が響き始めた。

「な、鳴ったッ!!」

 その後も登下校、授業中、休み時間、おやつの時間、お風呂の中、寝る前……時間さえあれば費やし、端から見れば変な子だったかもしれないけど、そんなことは気にせず、そうやって日々の積み重ねのおかげで確かに吹けるようになった。

 でもこんなんじゃダメだ……もっと自由自在に操って、なんなら鳥が鳴き返してくれるぐらいにならないと。納得のいくまで性能を上げる。なんだかゲームのレベル上げのようで楽しかった。

 しかしそれが凶と出た――。

 あたしがいざ口笛を披露しようとしたときには既にそのブームは終わっており、今度はパラパラ漫画が主流となっていた。……遅かった、とあたしはすごくガッカリした。

 けど、こんなことじゃ諦め切れない。何事にも一生懸命に頑張ろう。

 その日からはパラパラ漫画制作が始まった。――せっかくなら全米を泣かせられるぐらいの超大作を作ろう! ――気合を入れた。

 書いては消し、スランプに陥り、産みの苦しみを味わって、……あれ? あたしプロの漫画家だったっけ?

 がむしゃらなあたしのことをママはいつも見てくれていて、「先生、夜食のたまごサンドですよ」と差し入れまでくれた。

 そんなこんなで1ヶ月が経過――。

「やった、完成だッ!!」

 180ページの軽いアニメーション。

 うん、いい感じ。これは笑える、泣ける、感動する。みんなに見せるのが楽しみだなぁ。

 ランドセルに押し込んで、明日、登校するのを待ち遠しく思った。

「今日は早く寝て、明日朝イチで学校へ行こう。それでみんなに見てもらおうッ! 絶対驚くはずッ!! ……あたしのこと天才だって褒めてくれるかな。それとも他の作品も見せてってファンになってくれるかな。……きっと友達にもなってくれるよね」

 期待に膨らむ胸。ドキドキ、バクバク、と心臓が騒がしい。

 ――しかしそれさえも裏腹に、あたしは驚愕の真実を知る。


 ――明日から、夏休みだった。


「あたしのバカああああああああああああああぁぁぁぁぁぁッッッッ!!」

 そのときばかりは絶叫した。2学期になったらみんなパラパラ漫画のことなんて忘れてるに決まってるじゃんッ!! あたし一体なんのためにこんな努力したのッ!! うわああああああッッ!! ……とにかく叫んだ。昔から少し抜けている所があったけど、まさかここまでとは……。自分に失望し、夏休みの間、立ち直れなかった。

 新学期が始まり、またひとつ、なにか頑張ろうと思った。本当にいろいろなことをした。バルーンアートにジャグリング、裁縫やお菓子作り、ゲームとかギターとか。

 ……でもどの努力も実ることはなかった。結果はいつも同じ。あたしは空振って、空回って、目がぐるぐるになるまで迷って、まだひとりぼっちだった。

 ――そしてそのまま、小学校を卒業した。

 卒業アルバムの白紙のページには担任の先生からのメッセージだけが刻まれた。「中学ではきっと、凛花のイイところをたくさん知ってくれる友達ができるさ。頑張れよ」。あたしはそのサインペンの文字が滲むまで泣いた。





 中学では思い切ってバスケ部に入った。

 入部届けを出すまでは物凄く緊張したし、眠れないほど悩んだけど、入ってしまえばどうってこともなかった。

「凛花って背も高いし、運動神経もいいし、このままいけば1年でもレギュラー入りできるんじゃない?」

「いや、そんなことないよ。あたしより上手い人たくさんいるし」

「謙遜なさんなって。……ねえ、どうしたらドリブル上手くなる? 教えてよ」

 友達、……といえるのかはわからないけど、部の仲間たちはみんな熱くて、全国を目指すチームとしてすごく居心地が良かった。

 毎朝の身支度が楽しい。汗を吸い込んだウェアやシューズを洗濯する時間が好き。授業中にこそこそと読むバスケのルールブックが愛おしい。――あたしはやっと自分の居場所を見つけられた気がして、充実した日々を送った。

 ただひとり、あまり運動が得意じゃない瞳ひとみちゃんという女の子がいた。その子が足を引っ張るせいで、あたしたち1年は先輩たちからこっ酷くしばかれる。

「ごめんね、いつも。……私がダメダメだから……凛花ちゃんたちにまで迷惑かけて…………」

 あるとき、部室に瞳ちゃんとふたりきりのことがあった。瞳ちゃんは唐突にあたしに謝まった。

「別に、全然気にしてないよ」

「嘘だよ。みんな、陰口叩いてるの知ってるもん」

 夕日で照らされる瞳ちゃんの顔はいつもとなんら変わりはなかったけど、どこか辛そうだった。

「私、向いてないよね。……パパがね、勝手に決めたの。瞳はバスケをやりなさいって。俺は昔全国に行ったことがあるんだ、だから瞳にもその血が流れてるはずだって。……流れてなかったよ、一滴も。……いくら努力しても報われないことってあるよね。いくら頑張っても挫けちゃうことだってあるよね。凛花ちゃんにもあるでしょ? きっと、そういう、――――」

 あたしはそれ以上の言葉を聞きたくなくて、足早に部室から立ち去った――。

 正直、あたしには背負いきれないと思った。自分のことで精一杯なのに、他人のことを心配してあげる余裕なんて、いや、他人のことを心配する資格なんて、あたしにはないと思った。

 ――そしてそれからすぐに、いじめが始まった。

 ターゲットは瞳ちゃんだ。痺れを切らした1年たちは瞳ちゃんのことを寄ってたかって袋叩きにした。殴られ、蹴られ、物を隠され、泥を浴びせられ、お金を奪われ、……痣だらけになっても、それでも瞳ちゃんはバスケ部を辞めなかった。いいや、辞められなかった。……多分、お父さんのことがあるから。

 あたしはただひとり、瞳ちゃんの本心を知っている。でもそれを、どうしたらいいのかはわからなかった。

「ほら、凛花もやっちゃいなよ」

「そうだよ。どうせこんな奴、生きてる価値もないんだから」

 部員たちはあたしの背中を押した。殴れ、蹴れ、と言っているのだ。これに逆らえばどうなるか、それぐらいあたしにも容易に想像ができた。

 ――今度はあたしが、孤独になる。

 ――また、ひとりになってしまう。

 瞳ちゃんは唇をグッと噛み締めてこちらを見つめている。顔についた靴跡が、傷だらけになった腕や足が、すごく痛々しかった。

「……瞳ちゃん、」

 あたしは瞳ちゃんに近づく。背後ではみんなのニヤニヤとした視線を感じる。期待の眼差しを感じる。

「……瞳ちゃん、ごめんね」

 小さくそう呟いた。悪く思わないで、なんて言わない。でも――。

 あたしが拳をギュッと握り、涙で滲む目を向けると、瞳ちゃんはこう言った。こう笑った。


「……別に、全然気にしてないよ」



 ――結局あたしは、瞳ちゃんに暴力を振るうことはできなかった。

 ――それがきっかけで居場所を失い、バスケ部を辞めた。瞳ちゃんはやがて不登校になった。



「凛花は悪くない。凛花は悪くない」

 ママは泣きじゃくるあたしを抱いて、何度も何度もそう言った。

「そんなの、他の子たちが間違ってる。辞めて正解よ。凛花は偉い。……だから堂々としてなさい」

 何回もほっぺたを引っ張ってくれた。それでもあたしが泣き止むことはなく、一晩中、隣に寄り添ってくれた。たまごサンドもいっぱい作ってくれた。涙の味がした。でも、美味しかった。

「凛花はだれよりも優しいから、きっと辛いこともたくさんあると思う。自分ひとりじゃ抱えきれないこともたくさんあると思う。でも、ママがいるから。パパもいるから。大丈夫だから」

「……うん」

「……そしていつか、凛花のことを本当に大切に想ってくれる友達ができるはず。いまはきっと、その子に会うための試練なのよ。……そう考えたら、悪くはないでしょ?」

 にっこり笑うママの顔があまりにも優しすぎて、あたしはもっと泣いた。ママは無敵だと思う。そしてあたしも、ママみたいな人になりたいと、――願う。





 バスケ部を辞めてからというものの、また友達のいない日々が始まった。小学校で耐性がついたのか、あまり寂しいとは思わなくなってしまった。ひとりで食べるたまごサンドも、だれかと食べるたまごサンドも、味は変わらないよ、と言い聞かせて今日も屋上でひとり「いただきます」。

 あるとき、ママとパパに連れられて足利市に帰った。帰郷、……は少し大げさかもしれないけど、似たような感じだ。もしかしたら元気がないあたしを気遣ってくれてのことだったのかもしれない。

 地元はなにも変わっていなかった。あの頃と同じ匂いがした。建物も、自然も、生き物たちも、……みんな当時のまま、そこにひっそりと暮らしている。

 そうだ、せっかくなら陽依ちゃんに会いに行こう。きっとあたしのこと覚えてくれてるはず。また昔みたいに仲良くできるかも。――期待を胸にあたしは陽依ちゃんの家を訪ねた。

「ごめんね。陽依、いま、お友達とお出かけしてて……」

 陽依ちゃんのお母さんが応対してくれた。休日は友達とショッピング――それが陽依ちゃんの習慣らしい。

「そうですか……」

「陽依に伝えておくわね。凛花ちゃん来てたこと」

「いや、大丈夫です。また来ます」

 ……残念だな……。

 あたしは諦めた。たぶん、もう会いに来ることはないだろうなと、そう思いながら陽依ちゃんの家を後にした。

 しかししばらく経って、ショッピングモールの中、服を選んでいる陽依ちゃんを発見した。

 陽依ちゃんはなにも変わっていなかった。――と、言いたいところだが、顔にはメイク、髪はくるくる、そして服には派手な装飾品。ネイルまでしちゃって。あの頃の陽依ちゃんの面影はなく、まったくの別人のようだった。

 …………。

 声をかけようかと迷った。あまりにも見た目が変わっていて、なんだかあたしのことなんてとうの昔に忘れてしまったんじゃないかと不安になる。

 あたしがぐずぐずしているうちに、陽依ちゃんの周りに友達らしき2人がやって来た。

「陽依、その服めっちゃ似合ってるじゃん」

「うーん……。ひよ最近お金使い過ぎで、今月マジでピンチなんだよね」

「うちもうちも。でも陽依は彼氏いるんだからさ、プレゼントとかしてもらえばいいんじゃない?」

「えーやだよ。ひよ、純真無垢なイメージで通ってるから」

「なにそれ、ウケる」

 ……あたしはなにも言わず、立ち去った。

 そこに、あたしの入る余地なんてこれっぽっちもなかったのだ。陽依ちゃんはもう、あたしとは別の世界に生きている。あたしがいなくてもやっていける。あたしが守らなくても、友達が、彼氏が、――他のだれかが守ってくれる。いや、そう思うことさえおこがましい。心のどこかで、今でも陽依ちゃんはあたしのことを頼りにしてくれていると自惚れていたのが本当に恥ずかしかった。

 ママたちと合流したとき「どうだった?」「楽しかった?」と聞かれた。あたしは「うんッ」と精一杯の笑顔で答えたが、どうだろう、ちゃんと笑えてたかな?

 帰りの車の中、後ろの窓ガラスに楽しそうにはしゃぐ陽依ちゃんたちが見えた。でも陽依ちゃんはあのときみたいにあたしに手を振ることはなく、それどころか、あたしの存在に気付く素振りもない。でもそれでいいと、それがお互いにとって幸せなんだと、そうあたしも知らん顔をした。





 そして中学3年――いよいよ受験期に突入。

 あたしは学年トップクラスの成績を維持していたから、特に受験に関して心配事はなかった。それでもその頃には勉強だけが生き甲斐のようになっていたから、放課後の教室にひとり残って自習することが多かった。

 ――そんなあたしに転機が訪れたのは9月の終わり頃。

 いつも通り教室で自習していると突然、ガラッ、と扉が開いた。

 なにかと思えばそこに瞳ちゃんが立っていた。

 あたしは目をまん丸にして瞳ちゃんを見た。いじめの件から不登校になり、2年近く学校に来ていなかったはずなのに……。

「ひ、久しぶり……」

 瞳ちゃんは緊張した様子でそう言った。あたしは未だ困惑が隠せず、おどおどしている。すると瞳ちゃんは少し困ったような声色で呟いた。

「……勉強、教えてくれない?」

 …………。

 話によるとどうやら、受験も目前に迫り、さすがに焦りを感じて学校に戻ってきたはいいものの、勉強が追いつかなくてさらに焦り、今こうしてあたしの助け船を求めているというのだ。瞳ちゃんにはおよそ2年分の空白がある。そりゃあ、追いつけなくて当然だろう。

「別に教えるのはいいけど、……瞳ちゃんはいいの?」

「いいって、なにが?」

「え、だから、その…………」

 あの、ふたりきりの部室を思い出す夕日が、そのときもあたしたちを照らしていた。あたしが口ごもると瞳ちゃんは「いいもなにも、凛花ちゃんは私になにもしなかったじゃん」と返した。

「……そうだよ、」

 言葉が重みを増して、口から落ちる。

「なにもしなかったんだよ。傷だらけの瞳ちゃんを前に、なにもできなかったんだよ?」

 あたしはダムが決壊したかのように喋り出した。すると瞳ちゃんはあたしの顔を見て微笑んだ。

「優しいんだね。……もしかしてずっと、後悔とか、してくれてた?」

 そっと、頷く。

 後ろめたいという気持ちはいつも、この胸の隅でチクリと棘を刺していた。

「……そっか。だとしたらごめんね。私、また凛花ちゃんに迷惑かけちゃったんだね」

 今度は首を横に振る。

 瞳ちゃんはなぜか笑い出した。あたしが不思議そうな顔をすると、「ごめんごめん」と謝った。

「ほんとにお人好しっていうか……優しすぎるんじゃない? 私、普通に殴られると思ってたよ。あのとき。歯食い縛って待ってたのに。凛花ちゃん、泣き出しちゃうんだもん。こっちが悪者みたいじゃん」

 瞳ちゃんは笑っている。苦い思い出もいつか笑えるときが来る、……と、よく耳にするけど、本当なのだと驚いた。

 あたしは胸の隅からすっと痛みが引いていくようで、気を抜いたら泣き出してしまいそうだった。

「凛花ちゃんはなにも気にしなくていいんだよ。もともとは私が悪いんだし。なにもしないでいてくれただけで十分だよ。……十分、優しすぎるよ」

 瞳ちゃんはそう言ってくれた。

 でもあたしは「違うッ――」と強めに否定した。否定してしまった。

「え?」

 笑みが消え、こちらを見つめる瞳ちゃん。あたしは次の言葉が見つからなくて、慌てた。

「ち、違うの。……優しくなんかないの。……あたし、ほんとは自分のことばっかり考えてて、自分のことしか考えてなくて、あのときも、瞳ちゃんのことなんて可哀想としか思ってなかった。あたしがもう少し強かったら、きっと、殴ってた」

 あたしの告白を、瞳ちゃんは目を逸らすことなく黙って聞いてくれた。

「ずっとそうなの。自分は他人より優れてるって思い込んで、だからだれかの力になれるって勘違いして。その癖、抱えきれなくなったら見て見ぬフリして。……ほんと、そんな自分が大っ嫌い」

 言葉が溢れて、止まらない。

「瞳ちゃん前に言ってたよね? 努力しても報われないことがあるって。そう思う。あたしも、そうだと思ってる。自分の頑張りなんかちっぽけでどうせ無駄になるって、そう心のどこかで思っちゃうのが悔しくて悔しくてしょうがない。……だからいつしか、頑張れなくなった」

 いつの間にか、あたしは泣いていたようだ。ぽた、ぽた、とノートの上に染みができた。

「……瞳ちゃんはすごいよ。だって、ちゃんと頑張ってたもん。したくもないバスケをお父さんのために、ほんとは逃げたかったはずなのに、傷だらけになりながら、頑張ってたもん。一生懸命ってきっと瞳ちゃんのことだよ。神様もきっと、瞳ちゃんみたいな頑張り屋さんを見てるんだよ」

 瞳ちゃんもやがて、静かに泣き出した。涙が頬を伝って、床に零れた。

「そんなことないよ。私だって弱音、凛花ちゃんにぶつけちゃったし。結局、逃げちゃったし。……全部、ダメだったし」

「ううん、違う。違う。瞳ちゃんはすごいの。……あたしのこと、優しいって、そう言えるのがすごいの。あたしと違って、強いの」

「それは凛花ちゃんもでしょ? ……あたしのこと殴れなかったの、あれは弱かったからじゃないでしょ? 凛花ちゃんがあそこにいるだれよりも強かったから、だから殴らなかったんでしょ? ねえ、……そうでしょ?」

「違う……違くて…………」

 互いに、なぜ泣いているのかはわからなかった。時間も忘れ、夕日も沈み、それでもあたしたちは泣き続けた。そして、泣きながらでも、震えていても、溢れた言葉にはこれっぽっちも嘘はなく、あたしはようやく本心を打ち明けられたような気がして、心がほんのちょっと軽くなった。

 …………。

「凛花ちゃんはやっぱり優しいよ」

 少し落ち着いて、瞳ちゃんが言った。「……どうして?」と聞き返す。

「優しい人は自分のこと、優しいとは思わないからだよ」

 染みだらけのノートが風に吹かれてめくられる。あたしはそっと窓を閉めた。

「でも優しくない人も自分のこと、優しいとは思わないんじゃない?」

「ううん。優しくない人ほど自分のこと、優しいって思うもんなんだよ」

 なんだかよくわからなかった。

 泣きすぎて赤くなった目をこすりながら時計を見る。すっかり日も暮れて、下校時刻になってしまった。それを知らせるチャイムが響き渡り、あたしたちはせっせと戸締りやら片づけやらを済ませて、教室を出る。

「……明日から一緒に勉強する?」

 あたしは今あるありったけの勇気を出して、声をかけてみた。

 瞳ちゃんはすごく嬉しそうな顔をして「うん」と頷いた。



 帰り道、瞳ちゃんはこんなことを言った。

「いつか凛花ちゃんは、この人すごく優しいなって、あたしのことばっか考えてくれてるなって、そう思える人に出逢えるよ。そしたらその人とちゃんと友達になるんだよ。……きっと、もう一度頑張ろうって思えるはずだから」

 ――その言葉の真意を、そのときのあたしは理解できなかった。





 そして次の日から約束通り、瞳ちゃんとの放課後特訓が始まった。 

 正直、大変だった。中1の範囲からひとつひとつ説明するのは骨が折れた。でも、そんな億劫そうな心の中にはやっぱりだれかと一緒である喜びが花を咲かせ、確かな幸せを噛み締めていた。

 あたしの教え方はなかなか上手なようで――。

「さすが凛花先生」

 そのフレーズが口癖のように定着しつつあった。

 あたしはふと考える。

 ――瞳ちゃんは一体あたしのなんなのだろうか、と。

 友達、なのかな? 教え子、なのかな? それともまだまだ知り合い程度、……なのかな?

 ――わからなかった。

 瞳ちゃんは授業中ずっと保健室にいるため、放課後以外会うこともない。放課後にちょっぴり勉強を教えて、駅までのわずかな距離を一緒に帰る。ただそれだけの仲だった。

「うーん……」

 あたしが険しい顔でそのことを悩んでいると、「どうかした?」と瞳ちゃん本人が聞いてきた。あたしは「い、いや、この公式が覚えられないなと思って……」とお茶を濁した。

 実はあんまり自信がなかったりもする。瞳ちゃんがあたしのことを友達だと思ってくれてる、――その自信が。だってあんなことがあった間柄だし、簡単に割り切っていいような問題でもない。慎重に行かなければ、今の関係だってすぐに壊れてしまうだろう。

 余計なことは言わないでおこう。今の距離がちょうどいいんだ。

 オレンジ色の教室に伸びるふたつの影――あたしと、瞳ちゃんの影。交わることはなく、それでも決して離れているわけでもない、絶妙な隙間をつくっている。


 ――しかし、あるいは案の定、あたしの心配通りの出来事が起こる。


 その日もいつものように瞳ちゃんに勉強を教えていた。

 すると突然、活気付いた声がふたりの間を割いた。

「え、なになに、凛花ちゃんって勉強得意なの? 私たちにも教えてよ」

 クラスメイトたちが乱入してきたのだ。

 テスト前でみんな本気モードになっているのか、自習のため放課後残る人も増えてきた中での災難だった。彼女たちはあたしと瞳ちゃんが並べる机の周りに半ば強引に居座って、それから勉強でわからないところがあるたびに「ここ教えて」「ここわかんない」「これどうやって解くの?」と尋ねてきた。

 あたしは仕方なく、彼女たちにも瞳ちゃんと同様に教えてあげることにした。

「おお、すごいッ! 凛花ちゃんめちゃくちゃわかりやすいッ!!」

「そ、そうかな?」

「将来は先生目指した方がいいよッ! それか塾の先生ッ! 私、通うからッ!」

 褒められて、悪い気はしなかった。……いかんいかん、また慢心するところだった。謙虚に生きねば。

 次第に輪が出来上がり、それはあたしと瞳ちゃんの間に溝をつくった。……瞳ちゃんはやっぱり多勢の中では居づらそうにしていて、今では距離も離れ、教室の端っこでひとり黙々と教科書に目を移す。疎外感というのだろうか。他の生徒たちを警戒している様子も伺えた。

 あたしはなんだか悪いことをした気持ちになって、これじゃまたあのときと同じだ、そう思って決心した。

 ――もう瞳ちゃんを、ひとりぼっちにはさせない。

 ――瞳ちゃんが悩んでいるなら、一緒に悩んであげたい。

 ――そしたらきっと、ちゃんと友達になれるはずだから。

「……瞳ちゃん、」

 あたしは輪の真ん中から声をかけた。瞳ちゃんはビクッとして、恐る恐るこちらを見た。あたしは微笑んで、手招きする。瞳ちゃんは首を横に振った。あたしも振り返した。

「……一緒にやろうよ」

 そう声をかけた。

 瞳ちゃんはしばらく無反応だったが、渋々、……ううん、ありがとうかな、……黙って頷いて、もう一度あたしの隣に座ってくれた。こうして輪の中に瞳ちゃんも加わった。

 初めてかもしれない――自分の選択を褒めてあげられるのは。今までだったらきっと、瞳ちゃんをあのまま放ったらかしにして、それでなんやかんやあたしも上手くいかなくなって、またひとりぼっちになる。そういうオチだったはず。……これは進歩だ。確かな進歩だ。

 放課後の勉強会はなかなか楽しかった。普段は絶対に喋らないようなクラスメイトたちのことがたくさん知れて、今まで自分がどれだけ目を背けて生きて来たのか実感した。これからはもう少しちゃんとみんなのことを見よう。自分のことばっか考えてちゃダメだ。友達への第一歩は、相手に興味を持つことなのかもしれない。

 教室に伸びる無数の影の中、あたしと瞳ちゃんのオレンジ色の影は隙間を埋めて、今ではひとつにまとまっている。それが嬉しくて、太陽が沈むのを惜しんだ。

 …………。

 こうして時間は流れていく。今までで一番あっという間に感じたテスト期間だった。

 テスト返却の後、予想以上に点数のとれたテストを眺めてニヤニヤしていると、あたしのところに人集りができた。

「すごいよ凛花ちゃんッ! 凛花ちゃんのおかげで、見てッ! 90点ッッ!!」

「私のも見て、凛花ちゃんに教わったところ全問正解ッ!!!」

「やっぱ放課後残って正解だったわ! これからも教えてよッ!!」

 ……な、なんじゃこりゃぁ……。

 今まで影だったあたしの周りに大量でかつ眩い光が差し込む。頭がクラクラする……。

「う、うん。こちらこそ、……よろしく」

 はっきりしない声でそう言った。ダメだダメだ、こんなビクビクしてたらまたみんな離れて行っちゃう……。会話を続けないと……。

 次の言葉を考えていると、彼女たちから思わぬ提案を持ちかけられた。


「――ねえ、今度うちで勉強合宿という名のお泊まり会するんだけど、凛花ちゃんも来ない?」


 ――お、と、ま、り、か、い、ッッッッッ!?

 そのあまりにも別世界の響きに思わず失神するところだった。慌てて机に突っ伏して、荒い息を落ち着かせる。

 なにその『オトマリカイ』って。どこの海?

 あたしは今夢の中、きっとそうだ。そうに違いない。――ほっぺたをつねってみる。……あれ? 痛いよ? ヒリヒリするよ? 涙が出るよ? ……ということは、……夢、なんかじゃないッッッ!!

「……ぜ、是非ッ」

 ニヤニヤを悟られないように、精一杯に誤魔化しながら答えた。

「詳しいことが決まったら教えるね」

 そう言って彼女たちは去っていく。

 そっか……お泊まり会かぁ……。いよいよあたしにもそんな青春イベントが……。

 眩しい後ろ姿をどこまでも見送る。この子たちと、あたしはきっとこれから友達になっていくんだ。お泊まり会でお近付きになって、いろんな話をして、受験の壁も友情の力で乗り越える。……いいじゃんいいじゃん。これだよ、あたしが求めていたモノはッ!!

 期待に膨らむ胸――いつぶりだろう、こんな気持ち。ワクワクが止まらなくて、今すぐ答案用紙を紙飛行機にして窓の外へと飛ばしたい。そんな高揚感。

「ふふふ〜ん」

 鼻歌、そして口笛。

 するとその浮かれた胸の隅で、チクリと棘が一刺し。

 あたしは痛みを感じる前に「あのさッ――」と前を行く背中を止めていた。


「――瞳ちゃんも、いいかな?」


 あたしの不躾ぶしつけな問いかけに彼女たちはこう言った。

「もちろんだよ。瞳ちゃん結構面白いし、大歓迎」

 ――なにもかもが、気味が悪いぐらい上手くいっていた。




「そう、あたしも実はあの番組好きなんだよね。俳優さんみんなかっこいいし。……え、サッカー部の? 確かに似てるかも。……うん、うん。……へえ、そうなんだ、仲良さそうに見えたけどやっぱり付き合ってるんだ。……あたし? あたしは恋とかしたことないかな……、みんなはあるの?」

 お泊まり会の荷造りをしながら、あたしは何度も何度も会話のシミュレーションを繰り返した。それがあまりにも楽しくて、鞄から洋服を出して、仕舞って、また出して、仕舞って、……一向に荷造りが終わる気配はなかった。

「凛花、そろそろ時間よ」

「はーい!」

 いつもより大きめなバッグを肩から下げて、姿見を見る。……よし、大丈夫。きっと大丈夫。上手くいく。

 やや緊張して、靴紐を結ぶ手が震えた。……止まれ、止まれ。

 トントンとつま先を叩きつけて靴を履く。玄関ではママが見送ってくれた。

「はい、」

「……これなに?」

 ママは紙袋を差し出してきた。

「――中にどら焼きが入ってるから。お家の人に渡してね」

「うん、わかった」

 受け取った袋はどっしり重い。ママも多分嬉しかったんだと思う。いつもとなにも変わらないママだけど、その心から溢れた喜びみたいなモノが袋の中にはいっぱい詰まってるんだと思う。だから大切に、抱きしめる。

「それからたまごサンドも入ってるから。そっちはみんなで食べて。いつもより美味しくできてると思うから」

「うん、ありがとう」

 あたしは扉に手をかける。するとママは呼び止めた。

「……凛花、」

「ん?」

 そしていつものようにあたしのほっぺたをつねった。口角を上げ、無理やり笑顔にした。

「緊張しすぎ。あなたはもう十分泣いたんだから、その分、楽しんでらっしゃい」

 そのときのママの笑顔はきっと、世界中のだれにも負けない無敵な笑顔で、いつもあたしの心配ばかりしていたママだから、これからはもっとこういう笑顔にさせたいと、そう心から願った。

「……うんッ」

 扉を開ける。眩い光に包まれて、あたしは一歩を踏み出す。


 ――今日という日が、あたしの人生の中で一番の思い出になることを願って。

 ――一歩を踏み出す。





 ――しかし。


 突如、轟音とともに凄まじい力と光を受けて、あたしは飛んだ。

 冷えていく体。真っ赤に染まりゆく世界。

 最後に見た景色は赤い空と、倒れる電柱。そしてボロボロになったトラック――。

 手にはぐちゃぐちゃなたまごサンドの感触があって、でもそれも次第に失われていく感覚とともに消えた。

 ほとんど聴こえない耳にはだれかの叫び声が、閉じた瞼の裏側には真っ黒な靄が――。


 ――ここはどこなのだろう。

 するとだれかがあたしのほっぺたを触って、震える声でこう言った。


「……凛花ッッ」


 ――あたしの名前だった。

「……生きてッ! 死んじゃダメッッ!!」

 その優しい声は死にゆくあたしの鼓膜を確かに揺らしていて、頰に触れた手の温かさは冷えた体には熱すぎると、そんなことを思いながらあたしは去った。





 ――次に目が覚めたとき、あたしは見知らぬ列車に乗っていた。

 ――その列車はただひとりあたしを、トンネルの向こう側へと運んでいく。


 ――たまごサンドも、無敵な笑顔も、これからつくるはずだった一番の思い出も、ぜんぶどこかに置いてきて、なけなしの記憶にはリンカと名付け、トンネルの向こう――光の見える方へ進む。


 ――あたしの、もうひとつの物語が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る