詩のようなもの

新月

第1話

明るい音色のメリーゴーランド

手渡された赤い風船

君はキョロキョロ見回しながら、手をひかれて歩いていたね


光をなくした観覧車

タイルを打つ雨の音

制止も虚しく、君はいってしまった


並んで食べたアイスクリーム

手から離れた赤い風船

慌てて手を伸ばす君のこと、僕は笑って眺めてたっけ


止まったままのジェットコースター

誰もいないポップコーン売り場

ここにいるのは僕と君だけ

涙も流す雨の中、腕の中に君はいるのに

どうして君は、どこにもいない



空の上に 光の入った壺があって 誰かが壺をひっくり返し 光が世界に降り注ぐ


赤い赤い 炎のように 部屋いっぱいに射し込む赤い色 炎の中に ちらちらと 黒い影が動いてる


光を逃れて 部屋の隅で 日が暮れるのを待っている



家を出るのは日が暮れてから

伸びをしてから空を見上げる

日が沈んで、でもまだ暗くない、紫の空



僕が初めて彼女に会ったのは、暗い廊下の奥だった。

両側の壁に、少女が何人も、鎖に繋がれている。

首輪をかけられている者。手を縛られている者。皆下を向いて押し黙っている。

カツンカツンと僕の足音だけが廊下に響く。


少女の列。鼻をつく腐臭。

その中で僕は彼女に会った。


彼女は廊下の突き当たりに座っていた。

鎖はつけられていない。頭から血を流し、それは髪についたまま固まっている。

真っ直ぐに、僕を見ている。

彼女は何も言わなかったが、あるいは僕に聞こえなかっただけかもしれない。



瓦礫の上に、焼けただれた死体を抱いた少女がいる。

しんしんと月光の降り注ぐ、声の消えた街で、少女は一体何を待っているのか。

朝日が昇り、少女はまだそこにいる。


死体を抱いて、永遠に目覚めることのない街を見つめている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩のようなもの 新月 @shinngetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ