オマケ〜作者の実体験から〜

オマケ 1 日傘の女


 この話は、夢と言ってしまえば、それだけのことだ。

 つかのまのうたたねに見た、妙に現実味をおびた夢……。


 そう。これは小学生のころ。

 いっとき、集中して変なことがあった、そのころの話。


 学校から帰ったら、家に誰もいなかった。

 当時、兄は中学生だ。剣道や柔道のクラブに入っていたし、祖父といっしょに道場にもよく行っていた。そもそも、昼の三時はまだ学校だ。


 祖父が留守のことは少なかった。が、たまに買い物などで、家をあけていることがあった。


 その日は、ぐうぜん、留守だった。

 そんなときのために、カギは持ってる。家に入ると、僕はテレビを見ながら、コタツに入った。コタツにあたるうちに、眠くなった。


 うとうとしてるなということは、自分でもわかっていた。


 みなさんは、眠りにおちる瞬間、今、自分がいる部屋の風景を夢に見ることはないだろうか?


 僕は、たまにある。

 目はとじている。

 意識も覚醒してない。

 でも、まるで寝ながら、まわりの景色を見ている——そんな感覚になる。


 そのときも、そんな感じ。

 僕は、うたたねしながら、庭を見ていた。庭に、女の人が立っていた。白い日傘をさし、カルピス模様の白いワンピースを着た女の人だ。黒髪は肩にかからないくらいの、おかっぱ。


 いつのまに、庭に、そんな人が入ってきたんだろう?


 そんなふうに考えるほどリアルな夢……。


 その人は、うしろ姿だ。

 数メートルの距離で、僕に背中をむけたまま、身動きひとつしない。


 そのとき、ふと思った。

 この人が、こっちを向いたらイヤだなと……。


 僕は確信した。

 この人が、ふりかえると、恐ろしいことが起きる。


 これは夢だ。

 夢なんだ。

 目をさまそう。

 一、二、三で目をあけたら……。


 が、いわゆる金縛り状態。

 四苦八苦するが、目をさますことができない。


 女は動かない。

 ただ、感じる。

 この女には、悪意がある。

 ふりむかせてはいけない——


 すると、そのときだ。

 ふいに、仏壇のかねが、チーンと鳴った。


 その音で、僕は目をさました。

 みごとなまでに、ガバッと、とびおきる。かねの音の余韻が、まだ残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る