第68話 怪・缶〜あやしい缶詰〜3



 澄麗は四畳半の部屋に立っていた。

 タタミの上には達也の死体がころがっている。


(なんなの? これ……?)


 混乱していると、背後から声がした。


「どうする? あんた、どっちをすてるの?」


 ふりむくと、玄関にあの男が立っていた。

 さっき、路上で澄麗に缶詰を押しつけた男。

 そして、幸福に暮らしていた澄麗に缶詰を届けにきた宅配便の配達員。


「あなた、いったい、誰? 何者なのッ?」

「おれはただの缶詰の販売員だよ。それ以上でも以下でもない」


 違う。悪魔だ。きっと、この男は悪魔なのだ。


 男はニヤニヤ笑っていたが、その目は冷徹だった。


「選べよ。あんたは、どっちをすてる?」

「どっちを……?」


 そうか。そういうことなのか。

 この缶詰は望みを叶えてくれるけど、大切なものを代償にしなければならない。


 愛しいわが子の拓也をとるか。

 最愛の伴侶の龍星をとるか。


 二者択一。

 どちらか一方を、必ず、すてなければならない。


「わたしに……選べって言うの?」


 男は、ただ笑っている。


 澄麗は考えた。

 泣きそうな思いで、必死に。


 目の前のすべてが、グルグルまわって見えた……。

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