第69話 エクソソーム〜幻惑のイブ〜4


十数日がすぎた。


イブは着実に成長している。


だが、このところ、少し不安なことがある。


イブの容姿が、だんだん、波瑠の思う理想から離れていくようだ。もちろん、今でも、とても美しいのだが。


誰かに似てきている気がする……。


竜飛に電話をかけてみた。


おどろいたことに、つながった。高校のころから、竜飛は電話番号を変えてなかった。


「あれ? 波瑠? おまえから電話なんて珍しいな」


「聞きたいんだ。イブのことだけど」


「ああ?」


「今、九十八問まで行ったんだ。九十九からあとの質問、教えてくれないか?」


しばらく、沈黙があった。


「おまえ、あれ、やってんの?」


「ああ。この前、おまえに会ったあと」


「もしかして、トゥルーエンディング、めざしてんのか?」


「そういうわけじゃない。でも、たぶん、そこに向かってるんだと思う」


百問の問いのうち、とくに重要な質問が、ときどき、あるようだ。数十問に一問ていど。


十問め、五十問め、この前の八十問めも、そうだった。イブの目が怖いほど青く輝くとき。


たぶん、あれが、トゥルーエンディングへ向かっているときの前兆なんだろう。


なぜなら、そういうときのイブの反応が、いつもと違うから。


「なあ、波瑠。トゥルーエンディングに達すると、新見の遺産をもらえるって、ほんとか?」


竜飛も、そこが気になっているようだ。


「知らないよ。まだ、そこまで行ってない」


「遺産って、なんだと思う?」


「機械工学の技術的なデータじゃないかと思う」


「たとえば、イブの作りかたとか?」


「それは、おまえも教えられたんじゃないのか?」


「おれは言われるままに組みたてただけだ。データとかは、もらってない。たぶん、失敗したせいかな」


竜飛の声に苦いような響きがこもる。


「おれは五十問めのとき、失敗したんだよな。答えたあと、一瞬、なんとかエラー、みたいな英文が画面よぎってさ。イブが『あなたは真実を見失った。でも、最後まで歩むことはできる』って言ったんだ」


やっぱり、そうだ。


波瑠は、まだ、そういうシーンを見たことがない。


「それで、九十九からの質問は?」


「おぼえてないよ」


それでも、多少の記憶をしぼりだしたあと、言った。


「トゥルーエンディングのことなら、死んだ金井が知ってただろうな。あいつ、ウワサじゃ、百問めの近くまでは行ってたみたいなんだ」


「ええと? 高校のとき、自殺したヤツだっけ?」


そう。たしか、このアプリの都市伝説について、竜飛が最初に語ったとき、二年で、じっさいにやってるヤツがいると話していた。それが、金井だったはず。


「自殺する前、仲のよかったヤツに話してたらしい。トゥルーエンディングに向かってるみたいだって」と、竜飛。


トゥルーエンディングを目前にして自殺。


エンディングを迎えることが怖かったからか?


「そのこと聞いた友達って、知ってるか?」


「そいつかどうかはわからないけど、おれの実家の近所の保坂が、金井と友達だった」


波瑠は電話を切った。


すると、イブのアプリが自動でひらいた。


「ハル。ズルはダメよ。あらかじめ、人から問いを聞いておこうなんて。でも、春日竜飛は五十問めで脱落した人ね。重要問題で不正解になると、そのあとの質問は、すべて補助問題に切りかわるの」


つまり、竜飛はトゥルーエンディングに到達するための質問すら、あたえられていない。


「イブ。スマホの情報を読んでるんだな? おまえにアクセスしたヤツのデータは、すべて残ってるわけだ。金井が自殺したのは、トゥルーエンディングをさけるためじゃないのか?」


イブは笑う。


「ねえ、ハル。もうすぐよ。ここまで来た人は、あなたで二人め。あなたは、わたしといっしょに来てくれるわね?」


「それが、今日の質問?」


「ええ」


「じゃあ、答えは、イエスだ」


残り二問。


二問、答えれば、エンディングを迎える。


    


    

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