第37話 渡り廊下



 これは僕が中学のときに、当時の友達から聞いた話です。

 友人はとても感受性の強い人で、小さなころにはいろいろ不思議な体験をしていました。

 友人の話によると、それはおもに四、五歳のころだったそうです。


 仮にYさんとしておきましょう。

 Yさんは当時、どういうわけか、離れにある座敷が怖くてしかたなかったそうです。


 そこに何体か日本人形が置かれていました。


 ある夜、そのなかの一体、藤娘と目があいました。にいっと人形が笑ったそうです。


 まあ、それは、小さな子どものことです。暗闇のなかで、かねてから怖い怖いと思っていた座敷に一人で行ったため、錯覚してしまっただけかもしれません。おそらく、九十九パーセント、そうに違いありません。

 でも、ここからさきは、かならずしも、そうとは言えないのです。


 その日は親戚が集まっていたそうです。夜遅くまで飲み会が続いていました。

 眠くなったYさんは、さきに寝ることにしました。ただし、Yさんの寝室は、例の座敷の奥にあるのです。


 座敷の前には、母屋と離れをつなぐ渡り廊下がありました。

 父についてきてほしいと言いましたが、酔った父は相手にしてくれませんでした。母は忙しく動きまわり、見あたりません。しょうがなく、一人で行くはめに……。


 恐る恐る近づいていくと、渡り廊下に人が立っていました。


 白い着物を着た女……。

 全身からダラダラ血を流し、その血が床にしたたっていました。


 Yさんは悲鳴をあげて、家族のもとへ逃げかえりました。大人がついてきたときには、もう、その女の姿はありませんでした。


 これだけなら、また錯覚でしょう。

 でも、違うのです。


 翌朝、渡り廊下の床が腐りおちていました。女の血のしたたっていた場所が、黒く変色して……。

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