第10話 不具合



 やっとだ。

 やっと、自由になれた。


 ミチルは、ひどい女だった。

 嫉妬深いし、しつこいし、おれの元カノや友達にイヤガラセの電話するし。

 あげくのはてに勤め先まで来て、職場の女全員に、おれに話しかけるなと怒鳴る始末。


 別れ話は、とうぜん、受け入れてもらえなかった。


 でも、それも今日までだ。

 おれは、さっき自由になった。

 ミチルは今や遠くの海の底だ。

 偽装工作に、ミチルのスマホから、おれのスマホにメールを入れとくことにした。


 ただ、あいつを刺したときに抵抗されて、手にケガしてしまった。指で文字入力ができない。

 おれは、音声で入力することにした。


「なんて打とうかな? あなたには失望しました。もう会いたくありません。別れます——かな?」


 ところがだ。

 おれが音声入力に切りかえたとたん、変な文章が画面に浮かんだ。


 なんだ、これ?

 おれ、まだ、しゃべってないぞ?


 ——あなたからは離れません——


「は? 不具合か? こわれてんの? おれのスマホ」


 ——どんなことがあっても、離れません——


 このしつっこい、ねっとりした文面……。


「まさか……」


 おれは、ふるえを抑えられない。

 ガタガタと歯の根がなる。


「……ミチル?」


 その瞬間、すごい速さで、スマホに文字が浮かびあがる。


 ——ハハハハハ。アハ。あはは。はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る