第5話 おねがいします
「それではまずさっきの風魔法、風魔をやってみましょうか」
「うん!」
さっきの魔力測定で一応わたしにも魔力があることがわかったので使えないことはないと思います。
「わたしと同じように構えてください」
そういってシーナさんは手のひらを草むらにむけました。
「風を起こすイメージをしてみましょう。コツは風をイメージするというよりも、草が風で揺られる姿をイメージすることです」
「なるほど」
確かに風をイメージしろといわれてもわかりませんが、それなら簡単です。
わたしは目をつぶってイメージします。あそこにある草たちがわたしを中心になびいていく姿...
行けそうです!
「呪文を唱えてください!」
行きます!
「風魔!!」
............
............
あれ?
なにも起きません。
んー.....最近なにも味がしないとかなにも起きないとか、変化がないことが多い気がします。なんなのでしょう。わたしの無気力さがまわりに伝染しているのでしょうか。
「ねぇシーナさん、なにも起きないんだけど」
「おかしいですね......」
これはわたしのせいなのでしょうか。それともシーナさんがなにか伝え忘れているのでしょうか。......後者な気がします。
「ほのかさんは基本的におかしいので、なにかが違うのかもしれません。」
わたしのせいにされました。訴えれば勝てるでしょうか。第一審で無罪を獲得してみせる自信があります。裁判ってこの世界にもあるのでしょうか。
「シーナさん、なにかまだ他に魔法を使うための工程あるんじゃないの?魔力を練るとか」
そう、お決まりの魔力を練るらしきこと、わたしやっていません。それが原因なのではと聞いてみますが。
「いえ、魔力を練るとかはないんです。イメージをして、呪文を唱える。それだけです。逆にそれだけなので初めの頃はうっかり呪文を唱えてしまうと、そのときのイメージが勝手に反映されて大惨事に。なんてこともあるんです。」
なるほどです。普段の生活でも呪文を唱えないように気をつけてないといけないということですね。
......って日常で《ふうま》なんて言葉使うことあるのでしょうか。ないと思います。少なくともわたしは初めて知りました。その言葉。
「ただし、初めての呪文を唱えるときだけはしっかり意識しないと魔法は発動しません。なので、たとえうっかり知らない呪文を言ってしまったとしてもやったことのない魔法は基本的に発動しません。」
1度目できたらコツがつかめる、みたいなことでしょうか。というか、すこし安心です。何気ない言葉が呪文のひとつだったら急に発動してしまうかもしれません。想像したら結構怖いです。今度こそ刻まれてしまうかもしれません。
「わたし、しっかり意識してましたよ?」
「う~ん......わかりません」
わたしはやっぱり魔法を使えないかもしれません。
「おじいちゃんが帰ってきたらそれも聞いてみましょう」
「.....じゃあ、一回家にもどろっか」
「はい、そうしましょうか」
魔法使えないなんて........
残念です。帰ります。もとの世界に返してください。今帰れば遅刻ですむのではないでしょうか。五時間目登校あたりの遅刻で。不良ですね。
とりあえずシーナさんの家でお茶でも飲みながらおじいちゃんを待ちますか。
「あーあ、異世界なんだし、瞬間移動
とか期待してたのにな~」
・・・
.....え?
ここ、どこでしょう?シーナさん?
草原にいたはずですが......ここから空は見えません。
あ、
ここシーナさんのおうちです。
なにがおこったのでしょう?
考えていると、外からシーナさんの声が聞こえてきました。
「ほのかさん!どこ!ほのか!ほのか!!」
なんかとても必死にわたしを探してるみたいです。ほのかって呼んでます。嬉しいです。隠れてしまいましょうか。かくれんぼには自信があるんです。みんながあきらめ......続きは言わせないでください。
あまりに必死なので出ていくことにしました。ドアを開けます。
「シーナさん!ここだよ!」
「あ!ほのか!!よかったぁ~」
タタタッと、シーナさんが走ってきます。
「ほのか来たときも突然だったから。いなくなるときも突然かもなんて思っちゃって」
「シーナさんのタメ語かわいいね」
変化球を投げておきます。シーナさんは変化球が来るとかわいい反応をするんです。ちらっとシーナさんをみると、
あっ、と小さく言ってから顔を赤くしています。はい可愛いです。
「忘れてください!」
「別にタメ語いいと思うけど?」
「わたし、子供じゃないんです!大人なんです!」
15歳は成人なのでしょうか?
「大人だからしっかりした言葉を使うってこと? 」
「そうです」
ん~これは友達作るの苦手なタイプに思います。というか、友達いたことないのではと思ってしまいます。そんな悲しいこと聞けないのでスルーします。
「ところで、なんでわたしはここに?」
「今回はお役に立てると思います。」
......さっきまでのことを意外に引きずっているようです。説明より弁明が先とは.....相当ですね。
「さきほどほのかさんは瞬間移動と口にしました。その魔法が発動したのではないでしょうか」
「え!でもわたしそんなの使ったことないし、たいしてイメージもしてなかったよ?」
そう、一回帰ろうと話したあと、わたしはシーナさんの家でお茶をのむところを想像しただけです。あんなふらっと思っただけで発動するものではないはずです。
「あ、でもほのかさんは」
「ねえ、ほのかって呼んでよ」
さっきはほのかって呼んでました。
「え?あ....えっと............。」
「ほら、ほのかって」
.....
「ほの...か」
わたしたち恋人ですか?なんで名前を呼ぶのに顔を真っ赤にしているのでしょう?ぜったい今まで友達...これ以上はやめておきましょう。
「うん、それで。わたしもシーナって呼ぶね」
「は、はい。わかりました。」
よし、押し通しました。女の子は堂々とした態度に弱い、世界間共通みたいです。
「それで、話を戻しますと、ほのかさ......。ほのか..は、瞬間移動してこの世界に来たのではなかったんですか?わたしはてっきりそうだと」
「ううん。わたしはいつの間にかここにいただけで瞬間移動なんて言葉いってないし、そもそも異世界にいるわたし!なんてイメージしてない...はず」
「そうなんですか...」
「他には何か考えられない?」
「ん~...」
シーナさんがあごに手を当てて考えています。
「あとは、ほのかのイメージ力がすごすぎて初めての魔法なのに発動してしまった。とかですかね。まあ有り得ないんですけど」
「.........ん?」
まてよ?
わたしにある言葉が思い出されます。
《ふふん?イメージだったら負けません、なんたって現代に生きてきましたし》
オウマイガー。
思わず手をついてうなだれてしまうわたしです。
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