第4話 はじめましてです

口を開けて固まってしまったわたしを見て、顔を真っ赤にしたシーナさんがいいわけをはじめました。


「ち、ちがうんです!オレンジを知らないだけで、魔力についてはくわしいんです!」


オレンジ知らないってアウトじゃないでしょうか。少なくともわたしにとってはキャッチャーフライぐらいにアウトです。


「おじいちゃんなら知ってるかもしれません」

「どのくらいで帰ってくるの?」

「おととい出ていったので今日の夜には帰ってくると思います」


いまはまだ空は青いです。夜までは結構あると思います。


「じゃあとりあえず待ってみよっか」


魔法のことはそのときにまとめて聞くことにします。...シーナさんは頼りないので。


「おかしいなぁ、オレンジって...」


と、ぶつぶつ言っていますが、もうその件は終わりました。次にいきましょう。次に。


「じゃあシーナさんの魔法をみせてよ」


そうです。次とは魔法をやってもらうことです。いくら魔法があると言われても、言葉だけでは弱いです。実際に見て、わたしが観測しないと魔法があるとはいえません。...観測って言葉ちょっと知的じゃないですか?なんでもないです。ごめんなさい。


「いいですよ、じゃあちょっと外に出ましょうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そういってわたしとシーナさんは外に出ました。あたりは草むらしかありません。わたしが目覚めた方角にちょっと歩いたので。


「じゃあ風魔法やりますね」

「おねがい!」


そういってから、シーナさんは草むらに手のひらをむけてなにやら唱えました。


「風魔!」


ビュォッ!

シュィンシュィンシュィン!


「え?」


次々に草が刈り取られていきます!シーナさんを中心に扇形に広がっていきます。

...2秒後には向こう20メートルほど更地になりました。茶色い地面が顔をのぞかせています。


「えーーー!!」


わたしはもうびっくりです。だってシーナさん、軽く始めたじゃないですか。じゃあやりますねっていってたじゃないですか。そよ風程度だと思ってました。不覚です。


「し、しーなさん、すごいね...」

「えへへ、ありがとうございます。」


わたしがちょっと引いたことには気づいていないようです。素直にお礼を言っています。かわいいです。


「ちょっと驚いたけど、魔法ってやっぱりすごいんだね。」

「わたしからすれば魔法のない生活をしてたというほのかさんの方に驚きです。」

「わたしには科学があったから」

「かがく?なんですかそれ」

「詳しいことはあとでで」


そうです。今は魔法です!わたしも使ってみたいです!


「簡単な魔法でいいから教えてくれない?」

「いいですよ、では先ほどの魔法を」

「いや!それはいいから!もっと簡単なやつで!」


さっきのはどうみても簡単じゃないです。あれが簡単ってもしかしたらこの子、魔法の天才かもしれません。きっとそうです。程度を、常識を考えてください。...常識ってなんでしょう?


「そうはいっても、本当に基礎魔法がさきほどの《風魔》なんですよ。」


わたしの常識は通じないようです。さすが異世界です。食べ物で学んでいたはずですが、まだ足りなかったようです。


「わたしたちが使う魔法にはあまり種類はありません。それよりもイメージの力が大きいです。」

「イメージ?」

「はい、例えばさきほどの《風魔》に関しても....」


そういってシーナさんは手のひらをわたしに向けました。


「ちょ、ちょっと?!シーナさん?!」


え。刻まれますよねわたし。千切りになったわたしを食べるのでしょうか。


「落ち着いてください」

「ま、まって!」


え!まって!!


「風魔!」

「きゃああああ!」


......


......


......ふわ~


「あれ?」


なにやらそよ風が吹いてきました。

髪が風になびいています。わたしの髪は腰辺りまであるのでなびくとふわ~っ舞い上がります。


ふわ~


「え、えっとこれはどういう?」

「ふふ、ふふふ、あははははは!」


シーナさんがいきなり笑い始めました。ここでやっと気づきます。騙されました。やられました。二つ下の女の子に。


「シーナさん?」

「あはは。ごめんなさい。だってほのかさんすっごくいい反応......いえ、かわいくて」


シーナさん、笑うと天使でした。いつも真面目な顔をして大人っぽい言葉を使っているので、この笑顔にはイチコロです。守ってあげたくなります。嫁には出しません。わたしのそばにおいておきます。騙されたのは笑顔ひとつでお釣りがくるので許してあげます。


「ほんとにもう。こわかったよぉ~」

「ごめんなさい。こんな風にですね、呪文は同じなんですけど、唱えるときのイメージを変えると起こる現象も変わるんです」

「ほぇ~。それは便利だね」


ん?あれ待てよ?それって


「え、まって。もしかして今魔法を唱えるときにさ。さっきの草原がシーナさんの頭にふっと浮かんできてたら、わたし刻まれてたってことだよね?」


「...........」






「だよね?」

「............はい」

「はぁぁぁぁ...」


許すのやめましょうか?わりと本気であぶなかったかもしれません。


「で、でも!大丈夫です!わたしきちんと魔法には親しんでますから!そんなミスするほど未熟じゃありません!」

「100%?」

「え?」

「シーナさんは一万回やったら一万回完璧にできるの?」

「.........」


ここで安易にできます、と言わないあたりが真面目なシーナさんらしいです。しょぼんとするシーナさんも可愛いですが、いじわるはここまでにしておきましょうか。へんな性癖に目覚めたくないですし。


「ふふふ、あははは!なんてね、怒ってないよ!」

「ほ、ほんとですか?」

「ほんとほんと。さっきの仕返しだよ」

「はぁぁ。よかった~」


よし、もらったものへのお返しもすみました。やっぱり恩返しはしないといけません。その恩が恩ではなくとも。


「じゃあ魔法の話にもどるとさ、イメージが大事っていうのはわかったよ」

「はい、その通りです」


ふふん?イメージだったら負けません、なんたって現代に生きてきましたし。


「わたしにも使えるかな?」

「そうですね。やってみましょうか」


いよいよ魔法の実践です!わくわくです。すこしそわそわしてしまうわたしです。

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