123 怒りの雷撃
大地が戦線離脱したのは、佐々木との戦いが始まってすぐのことだった。
考えてみれば、
つまり大地と別れて、地下鉄で再会するまでが一日以内、だと思う。
「一日でこんな老け込んで……どうしたんだよ、大地」
浮浪者みたいな身なりになった大地に問いかけた。
大地は涙をぬぐって顔を上げる。
「一日じゃないっすよ! 十年っすよ!」
「何?」
訳の分からないことを。
「本当っすよ! 信じてください! 佐々木さんとの戦闘中に、謎の声が聞こえて、俺だけ
「……なんだって」
俺は絶句した。
代々木のダンジョンごと封じ込めた黙示録獣が、開放された。
しかも開放したのは大地だという。
「俺のせいっす。何もかも俺のせいっす。俺が世界を滅ぼしたんっす……」
大地はめそめそ泣いている。
なんと返せば良いか分からずにいると、大地の後ろにぼうっと光が灯った。
「大地のせいじゃないよ……」
誰だ。
古風な着物を着た少年が、大地の後ろに立っている。
少年は半透明で、輪郭はうっすら輝いていた。
海神スサノオ Lv.999
日本の神様じゃないか。
なんで大地と一緒にいるんだ。しかもだいぶ親しそうだが。
「大地を責めないであげて。アマテラスや他の神に会いたくなくて、ダンジョンに隠れていた僕を、助けてくれたんだ……」
「お前、代々木のダンジョンの中にいたのか?!」
「うん。黙示録獣と一緒に、次元の狭間にいたんだ。僕の影響もあって、偶然、地球への道が開かれてしまって」
話は概ね分かった。そうでないと良いと思っていたが……やっぱり、ここは地球の日本なのか。黙示録獣によって日本は滅んでしまったのだろうか。義理の両親も、うるさかった友人たちも、もういない……?
その時、唐突にアマテラスの言葉を思い出した。
滅びを予言していたアマテラス。
彼女は「恐れるな」と言っていた。
俺に、一番、重要なスキルを忘れるな、と。
「あ……
セーブポイントとしての固有スキルだ。
神と呼ばれる以前から持っているスキル。あれは個人を登録して、死んだ時に呼び戻すだけだと思っていた。複数人を登録できるが、何人まで登録できるか試したことはない。
「枢たん、どうしたんだにゃ?」
「気にするな」
いきなり虚空を見て、ステータスをいじりだした俺に、心菜は首をかしげ大地は不思議そうな顔をする。
セーブとロードはセット扱い。スキルレベルはLv.771。どうやらスキルレベルと同じ人数まで登録できるみたいだ。日本の人口には到底及ばない。
皆を甦らせるのは無理か、と一瞬絶望したが、待てよ、と考え直す。
単なる数字だけの問題なら、クリアできるんじゃないか。
例えば黒崎は、死んだらレベルが二倍になるスキルを持っている。七瀬はレベルを倍にするアイテムを使っていた。スキルレベルを倍にするのは困難だが、方法が無いとは思えない。
それにもうひとつ、単純な解決方法がある。
時間の流れをさかのぼることができるなら、地球の滅亡が起きる前に介入すれば良いのだ。
希望はある。
「元に戻す方法はおいおい考えるとして……それよりも、大地を黙示録獣の元に転移させたのは、誰なんだろうな」
そいつが黒幕に違いない。
「大地、謎の声がして、お前は黙示録獣の処に飛ばされたって言ったよな。誰の声か分からないか?」
「知らない男の声でした……あ、でも最後に」
「?」
「入れ歯がどうたら、って言ってたような……聞き違いかもしれないっすけど」
クロノア~~! 犯人はお前か!
「リーシャン」
俺は額に青筋を立てて、リーシャンを呼んだ。
リーシャンが「ひぇ?!」と反応する。
「神様連絡網というくらいだから、クロノアとも繋がるよな?」
「試してな……なんでもないです~! もちろん繋がるよ! あ、でも、ここは地球だから、通信魔法が届かないかも」
「俺がアダマスに置いてる魔法石を経由すれば……」
なぜか慌てて姿勢を正すリーシャンと一緒に、通信魔法の改良を始める。
俺とリーシャンは、その辺に落ちていた棒を使って、地面に魔法の構成を「ああでもない、こうでもない」とガリガリ書き始めた。
他の奴らは魔法使いではないのでポカンとしている。
「……枢っち、学校の成績良かったなあって、こういう時に実感するな」
「私と真さんは、あまり頭が良くないですものね」
「あれ? なんで枢はウチの学校に進学したんだ?」
上から順に、真、心菜、夜鳥の台詞だ。
夜鳥の台詞に答えたのは、真だった。
「家庭の事情で、近場の学校を選んだんだってさ」
「へーえ、もっと偏差値高い学校選べたのなら、もったいな。でも日本は滅びたみたいだし、どうでも良いか」
良くない。学校は滅びても良いが、皆がいなくなるのは駄目だ。
「……これでいけるだろ」
「よーし、魔法を起動するよ~」
リーシャンが頭を振ると、鈴がシャラシャラと涼しい音を立て、角は金色に輝いた。
「もしもし、クロノア~?」
『……』
はたして通じているのか。それに、通じていても無視されたら終わりである。
しかし、その不安は杞憂に終わった。
少し待った後に、朗らかな声が聞こえてくる。
『そろそろ連絡してくる頃合いだと思ったよ』
「クロノア……お前が、黙示録獣の前に大地を送ったのか?」
地を這うような声で尋ねた。
心菜が「ガン切れ枢たん怖いです……」と震えている。なぜか夜鳥や真も青ざめていた。お前らに怒ってる訳じゃないからな。
『そうだよ』
「!」
返ってきた返事に、俺たちは息をのむ。
冷静に、冷静に、と唱えながら息を吐いた。
「よーし、クロノア。百回半殺しと土下座させるのを百セット繰り返 してから石に封じ込める刑に処してやるから、首を洗ってそこで待っていろ」
「枢たん、全然、冷静じゃないですよ?!」
俺の台詞に心菜が突っ込みを入れた。
『ははは、怖いなあ。でもカナメ、君に魔法を教えたのは僕とリーシャンだって忘れたかい? 弟子が師匠に勝てる訳がないじゃないか』
クロノアは余裕の態度だ。
「……」
俺の堪忍袋の尾が切れそうなんだが。
『だいたい、二つの世界がぶつかったら、片方の世界が吸収されるのは自然の摂理というものだよ。残念だが君の地球は生存競争に敗れたんだ』
「
声を届けられるんだから、当然、魔法も届けられるよな。
『ぎゃーーっ、僕のネフライトが!』
クロノアの国ネフライトは、アダマスの北にある寒い国だ。
広範囲に降らせた雷がネフライトの建物を粉々に砕いているのだろう。クロノアの悲鳴がこだました。ちなみに、一応人には当たらないよう設定している。
『災厄魔降臨の儀式がしやすいよう、魔方陣型に道路を敷いて都市設計していたのに、道も壊れて全部無茶苦茶だ! あああ!』
どうやら俺の魔法は、奴の悪事を未然に防いだらしい。
『許さないよ、カナメ!』
「それはこっちの台詞だっての」
『くそっ、魔界に撤収する! 覚えてろよー!』
「忘れるもんか。地の果てまで追い詰めてトドメをさしてやる」
通信魔法が途切れた。
クロノアが向こう側から強引に魔法を打ち切ったらしい。
その場に沈黙が落ちる。
ややあって、ひきつった顔の大地が呟いた。
「久しぶりに聞いたっすけど、俺、枢さんだけは、敵に回したら駄目だって思い知りました……」
他の奴らも、うんうんと頷いている。
待てよ。クロノアの奴は逃がしちまったのに、今のやり取りのどこに納得する要素があるんだ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます