79 人魚姫の伝説
俺は、子供たちに魔法で落とし穴を作るやり方を教えてやった。
「斜めに掘るのがコツだぞー」
垂直に掘ると穴を隠す手間が掛かるが、斜めから地上に近付くUの字に掘ってしまえばその必要はない。
「ありがと、お兄さん! これでコリドー先生をやっつけるよ!」
「おう、頑張れ」
子供たちはコリドー相手に罠を掘るつもりのようだ。
面白いから放っておこう。
「カナメ殿は、あのテントを使ってくれ」
役に立たない授業が終わった後、サナトリスが付近で一番大きなテントを指差して言った。
やたら目立つ紅白のテントだ。
サーカス……?
「昔、旅芸人が置いていったテントだ。今はサボテン置き場になっている」
「物置じゃねーか!」
丁重にもてなしてるのか、馬鹿にしているのか、どっちなんだ。
「? サボテン食べ放題だぞ?」
テントの中には、縄でグルグル巻きにされたサボテンのモンスターが、うごめいていた。
生きているサボテンの枝(手足)を切ってお食べ下さい、とのこと。
「エグいな……」
他に空いているテントは無いらしい。
サボテンの呻き声が満ちたテントで寝ろと……?
仕方なく俺は、穴を掘る魔法を応用して、地下室を作ることにした。
魔法で武器を作るのに比べれば、壁を作るのはずっと難易度が低い。
空っぽの部屋に、転送魔法でアダマスから取り寄せた家具を設置する。
「ふう。快適な部屋が出来たな」
「キュー!」
ウサギギツネのメロンも同意しているようだ。
こうして地下室製作にうっかり夢中になった俺は、呪いを解くのを忘れていた。
サボテン肉が嫌になったので、アダマスから茶や菓子を取り寄せたところ、サナトリスや子供たちが食べに来るようになった。
意図した訳ではないが、数日経った今では俺の作った部屋が喫茶室みたいになっている。
おかしい……俺はいったい何をしに来たのだ。
「カナメ殿、このクッキーを頂いていいか?」
「どうぞ」
コリドーも食い物には勝てなかったらしく、図々しく菓子を食べに来るようになった。ちなみに呼び捨てするなと言ったら、サナトリスと同じように殿付けに改めてくれた。当初の偉そうな態度はどこへやら、だ。
今日のクッキーは、アダマスに最近できた人気ケーキ店で販売されているもので、香ばしいナッツが練り込まれている。地球のクッキーと遜色ないレベルで大変美味だ。
日本人的なおもてなし精神で菓子と茶をふるまっているが、魔族の奴らは遠慮なく食うため、代金を徴収するか考え中だ。
「カナメ殿、知っているか?」
「何の話だ」
コリドーが顔を寄せてきたので、俺はのけぞって避けた。
「人魚姫の涙の伝説だ。私は人魚姫の涙という伝説の宝石を得るため、こんな辺鄙な村にやってきたのだ」
「人魚姫の涙?」
俺はステータスに記載されたままの「人魚姫の呪い」を思い出した。
あの後、何度か解呪に挑戦して、ことごとく失敗している。
コリドーの言う人魚姫の伝説は、俺の呪いとも関係がありそうだ。
「昔、ここは海で、蜥蜴族ではなく、人魚が住んでいたのだ。その人魚の王女が人間に恋をした」
「結ばれずに海に身を投げたんだろ……」
「よく知っているな。学者か蜥蜴族の長老しか知らない伝説なのに」
日本人なら誰でも知ってるよ。
「人魚姫を失った人間の男は、復讐と称し人魚族を皆殺しにして、人魚の血液を瓶詰めにして売った」
「え?!」
「人魚姫は同胞の仇を討つため、愛する男を殺した。嘆き悲しむ人魚姫の涙は、宝石になったという……」
知ってる話と違ってきたぞ。
綺麗な人魚姫の物語が、なぜか血で血を洗うバイオレンスな展開に。
「人魚姫の血は、男の執念と人魚姫の悲しみ、巻き添えになった人魚たちの怨念がこもった呪いアイテムだ。一方、人魚姫の涙は、浄化の力を持つ宝石と伝えられている」
俺は、誰かの呪いを解くために解呪魔法を使って失敗したようだ。記憶が怪しいところがあるが、夢を見たようにぼんやり状況を覚えている。おそらく解呪に失敗して、呪いが自分に移ってきたのだ。
解呪の前後の会話で、誰かが人魚姫の血と言っていたような。
人魚姫の涙は、浄化の力を持つという。もしや人魚姫の呪いを解くために、人魚姫の涙が必要なのか。
「この里に人魚姫の涙があるらしいが、長老も族長のサナトリスも知らないの一点張りだ。せっかくここまで来たのに」
コリドーが悔しそうにする。
俺は人魚姫の涙に興味が沸いてきたので、彼に協力することにした。
「人魚姫の涙か。俺からサナトリスに聞いてみようか?」
「良いのかカナメ殿。そうしてもらえれば助かるが」
「その代わり、魔術の奥義を教えてくれよ。あんたは偉大な魔術師なんだろ」
「もちろんだとも!」
おだてると簡単に喜ぶコリドー。
彼に協力する振りをして情報を聞き出して、人魚姫の涙は俺が頂戴しようかな。
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