78 魔法の属性についておさらいしよう
魔族は敵だ。敵に魔法教えてどうするんだと、脳内ツッコミが入る。
だけど暇だし
「……大したことは教えられねーぞ」
「構わない! 感謝する、カナメ殿」
サナトリスは、パッと顔を輝かせた。
「よし。奴をギャフンと言わせてやってくれ……!」
「奴? わっ」
いきなり腕を引かれて俺は困惑する。
ぐいぐい連れて来られた先は、テントの外の広場。
蜥蜴族の子供が十人くらい輪になっていて、その中央に白黒の執事みたいな服装の男が立っている。
この暑いのに白い手袋なんか付けて、気取った恰好だ。
子供たちは露出した腕や手足に鱗があり、トカゲの尻尾が生えている。しかし男は滑らかな浅黒い肌に、赤い瞳と銀の髪を持っていた。蜥蜴族ではないらしい。シシアに似ているな……ダークエルフか。
男はサナトリスに向かって一礼する。
「サナトリス様。魔界一の魔術師と呼ばれるこの私に何か御用で?」
「コリドー殿。こちらは異邦の魔法使い、カナメ殿だ。あなたの魔術を見たいと言っている」
「へ?」
話が違う。
状況が把握できない俺はポカンとして、コリドーと呼ばれた男と、サナトリスを見比べた。
「ふっ。私は魔界で有名な魔術師ですからね!」
コリドーは長い銀髪をかきあげながら威張った。
いや、お前の名前なんか知らんから。
「授業を再開してくれ、コリドー殿」
「いいでしょう」
サナトリスがうながすと、コリドーは子供たちに向き直った。
「君たち、魔法は属性によって向き不向きがある。まずは自分の属性を知るところからだ」
授業が始まったので、俺は手近な岩の上に腰かけて話を聞く事にした。ってか、俺が子供に魔法を教えるんじゃなかったっけ?
サナトリスを横目で見ると、彼女はニコニコして説明する気配がない。
とりあえず様子を見るか。
「魔法の属性は大別して六つ。火炎属性、水氷属性、大地属性、天空属性、陽光属性、月闇属性。もっと細かく分けている魔法理論もあるが、どの魔法もこの六つのどれかに属するとされる。人間は属性を持たないか、持っていても弱い属性で、強い威力の属性魔法を行使することはできない。しかし我々魔族は、属性を持つ者がほとんどだ」
俺は聞きながら
千年もの異世界生活で、既に聞いたことのある話だったから退屈だ。
「君たち蜥蜴族は、だいたい大地属性だな! 私は偉大な魔術師だから、なんと天空属性と火炎属性、二つの属性に適正がある!」
俺は、一度見た魔法は練習すれば使えるようになっていたから、魔法の適正を気にした事が無かった。
今さらだが、何となく気になって自分のステータスを眺める。
ステータスを確認しながら、ギョッとした。
状態が「人魚姫の呪い」になっている。
いつの間に……?!
「カナメ、君は何の属性を持っている?!」
突然、コリドーが聞いてくる。
呪いに気を取られていた俺は、反応が遅れた。
こいつ、人の名前を呼び捨てにしやがって。
「……さあ。確かめてみたらどうですか?」
不快感がつい言葉に出てしまった。
砂漠に転移してから、妙に苛々したり浮かれたり、精神的に不安定になっているようだ。呪いのせいか? はやめに解呪しないとな。
「それは喧嘩を売っているのかい」
「そう思ってもらって結構ですよ」
売り言葉に買い言葉。
俺は立ち上がってコリドーをにらむ。
「私に逆らうとは……くらえ、複合属性の奥義!
仰々しい台詞と共に、大きな火の球が飛んできた。こんな人里の真ん中で使う魔法じゃない。
俺は無言で手を振った。
詠唱なしで発動した水氷属性の魔法が、コリドーの攻撃を相殺した。
余波で辺りに水が飛び散る。
「水だ!」
「わーい!」
子供たち大喜び。
一方、ずぶ濡れになったコリドーはワナワナふるえている。
「私のような偉大な魔術師に水をかけるなど……ただでは済まされないからな!」
着替えると言ってコリドーは去っていった。
「お兄さん、水の魔法を教えてー?」
「教えてー」
俺の足元に子供たちが駆け寄ってきてはしゃぐ。
サナトリスが大笑いした。
「見事だカナメ殿! あのコリドーの間抜けな顔! 笑いが止まらないな!」
「あいつがいるなら、俺が魔法を教える必要は無かっただろ」
「とんでもない。我が蜥蜴族の得意な属性は、水氷と大地なのに、あの男は全く使えないのだ。もちろん教えることもできん」
教師の意味ねーな。それにしてもサナトリスは、コリドーが気に入らないらしい。俺を利用してコリドーを追い出したかったのだろう。
「カナメ殿は、大地属性も水氷属性も使えるだろう?」
「まあな……」
属性関係なくすべての魔法が使えるし。
「お兄さん、美味しそうな匂いがする!」
「キュー?!」
「あ、お前ら、ウサギギツネは食い物じゃないからな!」
子供たちが鼻をくんくんさせて、俺を見上げた。
俺の服の下で、ウサギギツネのメロンが震えている。
というかメロン、お前俺に付いてくるより、アダマスの野原にリリースされた方が幸せだったんじゃないか。ここ魔界では、俺から離れたら一瞬で食われそうだ。
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