76 白灰砂漠《アイボリア》
「大変だ! カナメが魔界にさらわれちゃった! 神様連絡網が通じないのは魔界だけなんだよー」
白い小さな竜、祝福の竜神リーシャンは、空中を無駄に右往左往する。
真は消え去ってしまった枢を探すように、しゃがんで床を撫でた。心菜の肩がピクリとふるえる。呪いが解けて、覚醒が近くなっているのだろう。
「……偶然とは思えない」
低く呟いて、ここまで案内してくれた人魚を振り返る。
「おい、この先は本当に地上か?」
「も、もちろんです」
真の詰問に、人魚は慌てて首を縦に振る。
「地上のどこだ?」
「!」
「言えないよなあ。嘘を付く時は、嘘を付かなければバレない。俺も昔、よく使った手だ」
人魚は一気に青ざめた。
それを見て、真はやはり……と確信を深める。
自分たちは魔界に連れこまれようとしているのだ。
「え? お姉さん、嘘を付いてたの? レベル上限解放アイテムってのも嘘?」
大地はカラクリに気付いていないのか、仲間の中で一人ポカンと間抜け顔をさらしている。
魔族の椿はもとより、夜鳥も苦い顔をしていて、真と同じことに気付いている様子だ。
「人魚の血の効能は、嘘じゃないだろうさ。全部飲むと、厄介な呪いにかかるって書いてないだけで、便利なアイテムには違いない」
真は小瓶の蓋を開けると、ネオンブルーの液体を一口飲んだ。
「あ!」
「うん、不死者(仮)って称号が付いたな。カッコ仮ってなんだよもう」
効果は人魚の言った通り、レベル上限解放と、多少傷の治りが早くなるようだった。
蓋をしめて、小瓶を大地に放る。
そして険しい表情をしている人魚に笑いかけた。
「人魚のお姉さん、俺たちを魔界に案内してくれよ。元から、そのつもりだったんだろ?」
今度は自分たちが枢を追いかけて、助ける番だ。
砂の海でポツンと一人、佇む俺。
記憶のところどころに穴が空いている。
俺は誰かともう一度会うために、異世界で頑張って千年過ごし、神と呼ばれるようになった。その頑張った理由が分からないから、自分の記憶に自信が持てないのだ。
アダマスの守護神をやっていたという記憶が自分ごとと思えなかった。
「くっそ、どこだよここ……」
途方に暮れている間に、砂嵐が吹き始めた。
視界が灰色の風に閉ざされる。
しゃがみこんで砂を握りしめる。
「喉が乾いた……」
その時、砂がボコリと盛り上がって、中から人影が現れた。
「……ん? どうしてこんなところに人間がいるんだ?」
トカゲと魚のあいのこのようなモンスターに跨がって手綱を握り、露出度の高い服装をした女の子が俺を見下ろしている。
尖った耳に、肌に浮かぶ透明な鱗と独特な模様。
『サナトリス Lv.501 種族: 魔族 クラス: 蜥蜴族長』
サナトリスは手に持った槍を俺に向けた。
「人間は滅多にないご馳走だ。狩って帰ろう」
魔族にとっちゃ、人間は食べ物らしい。
俺はステータスを偽装しているから、レベルの低い人間の魔法使いに見えているだろう。
槍の穂先を見つめながら、他人事のように、のんびり考える。
さて。敵だらけの場所をどうやって抜け出そうか。
「どうした? 命ごいしないのか、人間」
サナトリスは、冷静な俺を見て怪訝そうにする。
俺はフッと笑った。
「……俺にとっても、あんたは飛んで火に入る夏の虫、って事さ」
手を伸ばして槍の柄をつかむ。
動揺するサナトリスの顔を見ながら、大地属性の重力魔法を無詠唱で発動、相手を動けなくして槍を奪い取った。
乗り物のトカゲの頭を踏んづけ、槍の穂先をサナトリスの首筋に添える。
「貴様!」
「ここは魔界のどの辺か、帰り道はどっちか、教えてくれると助かるよ」
我ながら、悪役じみた台詞だと思った。
でもいいか。一人旅だし、誰かに気をつかうこともない。
というか考えてみたら、仲間を地球に帰してあげるために頑張る理由もないし、神様業させられるアダマスに帰る必要もないんじゃないか。
魔界をのんびり旅するのも良いかもしれないな!
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