58 仲間は狂暴な奴ばかり
「頼もうぅー!」
「ひっ」
バーンと扉を開け放ち、ずかずか入ってくる美少女剣士に、道場の面々は恐れおののいた。
「あれが近頃、この界隈で道場破りしまくっているという」
「うちの看板は死守しろ!」
剣術を教える場所だから「道場」と翻訳されているだけで、実際は道場に似て非なる場所だ。畳や木の床は無くて地面が剥き出しだし、彼らが持っているのは刀や木刀ではなく、鉄剣と刃を潰した棒である。
それでも心菜の殴り込みは正しく道場破りで、俺はただただ呆然とその行動を眺めるしかなかった。
「前衛の奴は元気がありあまってるよなー」
俺の隣で、真が頭の後ろで腕を組み、壁にもたれている。
視線の先には暴れている心菜、大地、夜鳥の姿があった。
「地球の身体は運動不足で、剣術や体術スキルが上手く決まらない時があるから、慣らすために運動してるんだと」
俺は地面に腰を下ろして体育座りだ。
仲間が迷惑をかけて何かスミマセンと謝りたい。
「まったく野蛮ね! 戦わなくても勝つ方法はいくらでもあるのに」
椿は手鏡をのぞきこんで手櫛で髪を整えている。
後衛で主に魔法などで戦う俺、真、椿の三人は、運動したいという他三人に付いていけずに観戦に徹していた。
戦わなくても勝つ方法か……。
俺はちらりと椿を見上げて聞いてみる。
「例えば?」
「色仕掛けとか」
「却下」
「なんですって?!」
もともと黒崎の仲間だったこともあり、椿の発想はちょっと卑怯くさかった。
真が人差し指を振りながら、俺に向かって提案する。
「それじゃー、舌先三寸はどう? 何ならここの道場の地主を丸めこんで、土地ごと買い上げてやろっか」
「もっと却下」
詐欺師の真も大概だった。そういえばこいつも、実は黒崎の仲間だったんだよな……あんまり自然に戻ってきたから気にしてなかったけど。
真は不満そうに唇を尖らせた。
「えー、グレンさんの家は狭いよ。アダマスに長期滞在するなら拠点が欲しい。枢っち、大聖堂の用事はすぐ済まねーの?」
「うーん」
いっそリーシャンを連れて乗り込んでやろうか、と考えんでもない。
しかし考えてみると、問題なのはその後だ。
俺が聖晶神だと知った神官たちが大騒ぎしたり、引き留められたりしないだろうか。
クリスタルの頃は石だったから、崇められようが布で表面をピカピカに磨かれようが、特に構わなかった。
人間の今、神官たちに崇められたりすると考えると、ちょっと怖い。
「どうしたもんかな……」
悩んでいると、道場に誰かが駆け込んできた。
「ここにいましたか!」
「アセル王女?」
扉に手を掛け、肩で息をしているのはアセル王女だった。
王女さまがこんな下町に何の用事だろう。
「グレンが……賭博に大金を出し、勝負に負けて家ごと差し押さえられそうになっています!」
「ええ?!」
だらしのない男だと思ってたけど、賭け事に手を出すとは。
真が仰天する俺の隣でしれっと言った。
「自業自得じゃね?」
その通りだ。
「私もそう思います。しかしどうしようもない、だらしない男だろうと彼は国家認定杖職人! 失う訳にはいかないのです!」
「王女さまの権力で何とか出来ないんですか?」
「私が前面に出ると、グレンのだらしなさが公になってしまいます! それはマズイ! アダマス的にも、王家的にも、マズイのです! 何とか秘密裏にグレンを助けないと」
アセル王女は本気で困っているらしく、泣きそうな目をしていた。
「あんな男でも幼馴染みなのです。今、頼れるのは正体不明のあなただけです!」
そう言われたら、仕方ないな。
俺は頭をかきながら立ち上がった。
「分かった……心菜、そろそろ戻ってこい」
「にゃーん?」
楽しそうに道場主をボコッている心菜たちを呼び戻し、俺はアセル王女の案内のもと、賭博場に向かった。
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