56 青い鳥のアクセサリー

 ウェスペラのあった場所から一週間程度の旅を経て、俺たちは無事アダマス王国に辿り着いた。

 人間の体でアダマス王国を歩くのは、新鮮な気分だ。

 煉瓦や石が積まれた、清潔な街並みのところどころに、水晶のモニュメントが置かれている。

 石畳には花の植わった鉢が並び、規則正しく続く街路樹と石の街灯は地球の近代的な街を思い起こさせるほどだった。芸術家や工芸家が多いアダマスらしく、よく見るとあちこちに繊細な意匠が凝らされている。

 よく知っている風景なのに、俯瞰ふかんするのと歩きながら見るのとでは、大違いだった。

 

「アダマスは豊かだって聞いてたけど、すごく綺麗な街ですね」

「だろ」

 

 夜鳥や大地が感心して街を見回している。

 自分が作った訳じゃないのに、俺は密かに鼻高々だった。

 

「そこの娘さん! アダマス土産に可愛いアクセサリーはどうですか?」

「心菜に言ってますか?」

 

 屋台の店主が心菜を手招きする。

 キラキラと輝くアクセサリーに惹かれたのか、心菜はふらふらと屋台に近づいた。

 俺はひっそり彼女の後を追う。

 

「わあ、綺麗ですぅー」

 

 店の前の台には、髪飾りや耳飾り、ペンダントなどが所狭しと並べられていた。

 

「どうですか? 旦那さんに買ってもらっては?」

「旦那さん!」

 

 心菜は浮き浮きした表情で俺を見上げてくる。

 もちろん、可愛い彼女の頼みでアクセサリーを買ってやるのは、男の甲斐性というものだが。

 

「げ……」

 

 値札に書かれた法外な値段を見て、俺は絶句した。

 思わず呟いてしまう。

 

「こんなん、自分で作った方が早いじゃないか……」

「枢たん、作れるの?!」

「ま、まあな」

 

 剣も魔法で作れるくらいなので、アクセサリーも当然作れなくはない。

 

「作れるだとぅ? 素人の癖に上等じゃねえか! 作ってみやがれってんだ!」

 

 店主は気分を害したらしく、突然、喧嘩腰になった。

 

「俺の工房を貸してやる! 本当にアクセサリーを作れたら、俺は裸で逆立ちして町内を歩いてやらぁ!」

「いや、裸で逆立ちとか公衆猥褻罪になるだろ」

「問答無用! 俺の工房はすぐそこだ! ついてこい!」

 

 というか、店主の後ろの店が工房だった。

 仕方なく俺は彼の工房にお邪魔した。

 成り行きだが、面白いことになった。

 俺はちょっとワクワクして工房の椅子に座り、道具を取り上げる。

 セーブクリスタルをやってた千年間は暇だったので、魔法で物を動かして鍛冶師の真似事にチャレンジしたこともある。暇つぶしにずっと彼らの仕事を眺めていたおかげで、道具の使い方などは知っていた。

 

「枢っち、また妙なことに巻き込まれて」

「うっせ」

 

 呆れている真は放って、アクセサリー作りを始める。

 大地や他の仲間は屋台でソーセージを買って、立ち食べしながら雑談している。

 あいつらを待たせないようにしないとな。

 道具の使い方は知っていても、俺は人間の姿で工作したことはない。なので、普通の人間の技師がやるように道具を使って一から十まで作業できる訳ではなかった。

 結局、いつも通り基本は魔法を使いながら、要所で工具を使うことにした。

 十数分もかからず、銀の枝をくわえた青い鳥の髪飾りが出来上がる。

 

「心菜、これ」

「うわあ! ありがとう、枢たん」

 

 嬉しそうに髪飾りを受け取る心菜。

 栗色のふわふわの髪に青い鳥のアクセサリーが良く似合っている。

 装飾品の出来栄えを見たアクセサリー店の店主は、床に膝を落とした。

 

「そんな馬鹿な……くそ!」

「あー、材料費は払うから」

「くっ、俺も男だ! いさぎよく自分の言葉を実行する!」

「おいっ」

 

 店主はいきなり服を脱ぎ始めた。

 本気で町内を裸で練り歩くつもりか?!

 

「お邪魔します……って、何? グレン?」

「あ、アセルさま! これは」

 

 扉を開けて金髪の美少女が顔を出した。

 彼女が見たのは、半裸の店主と、それを止めようとしている俺である。

 隣で仰天してあわあわしている心菜の姿も、混乱に拍車をかけた。

 

「いやーーーっ!」

 

 何を想像したのか、彼女は顔を手でおおって絶叫した。

 

「ちがう! ちがうんだーー! 俺は浮気なんかしてない!」

 

 グレンというらしい店主の男は大慌てで身の潔白を訴えた。

 何? お前ら付き合ってるとか、そういうことなのか。

 というか、面倒なことに俺を巻き込まないでくれ。

 

 

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