22 波乱の幕開け

 俺は夜鳥にメッセージを飛ばす。

 さっき別れたばかりで再度の呼び出しである。しかもこれから夜に掛けての仕事になるので、断られるかもしれないと思った。

 だが、予想に反して夜鳥の反応は好意的だった。

 


 夜鳥> ダンジョン? 別にいいけど……

 枢> ?

 夜鳥> パーティーバランス的にどうなんだ。俺は暗殺者だから前衛は心もとないぞ

 


 俺はスマホを手に考え込んだ。

 黒崎との対戦もそうだが、ダンジョンに潜るのだから、ダンジョン向けのパーティー構成が必要だ。

 改めて考えてみると……

 

 心菜は、真っ先に切り込みそうだ。アタッカーだな。

 真は、後ろで応援したり特殊スキルで逆転したり。サポーターか。

 俺は魔法使いと回復役兼務で、武器の修理もできる。典型的な後衛だな。

 夜鳥は、ヒットアンドアウェイで敵を撹乱する役回りだろう。

 城山は魔法剣士、シシアは剣士でたぶん前衛。

 

「俺たちのパーティーに欠けているもの……それはタンクだ」

 

 防御の専門家である、盾役が不在である。

 

「そういう訳で、城山。クラスチェンジしない?」

「どういう訳なんだよ?!」

 

 俺たちは、駅前で待ち合わせをした。

 やって来た城山の肩に手を載せて言うと、城山は「酷くないですか?!」と俺に反論した。

 突然の召集に気前よく応じてくれたり、こいつ結構ノリが良いな。

 

「だって剣士ばっかりでバランス悪いだろ」

「そういう枢さんが盾を持ったらいいじゃないですか! Lv.999なんでしょ!」

 

 城山にそう言われて、俺は仕方なく自分のステータスの基本能力値だけ、皆に見えるように表示した。

 

「あれ? Lv.999にしてはパッとしないにゃ」

 

 心菜が不思議そうにする。

 それもそのはず。

 俺の基本能力値は、精神力とMP以外は、心菜を少し上回るくらいだった。MPは馬鹿みたいな数値だが、基本能力値は人間の範囲内のようだ。

 

「枢、典型的な魔法使い型のステータスなんだな」

「俺もそう思う」

 

 真のコメントに、俺は肩をすくめた。

 異世界ではセーブクリスタルだったから、肉体を鍛える機会がなかったせいもあるだろう。魔法特化のステータスだ。

 

「ということで俺は盾役ムリ」

「そんな?! いや、俺以外のメンバーは……」

 

 城山は他のメンバーを見回すが、夜鳥と真はHPが少ないし、異世界人のシシアには頼みにくい。

 

「城山さん、私と勝負しますか? 負けた方が盾を持つということで」

 

 心菜がにっこり微笑んで日本刀を召喚する。

 笑顔に混じる戦意が怖い。

 

「心菜さん、俺を殺す気ですか?! 絶対、切るつもりですよね?!」

「そんなことないにゃー。偶然ばっさりしちゃうかもしれないけど」 

 

 恐ろしい宣言に、城山の顔がひきつった。

 

「分かりました。タンクでも盾でも、別に良いですよ! この世界でクラスチェンジが可能ならの話ですがね!」

「……そういえば、クラスの変更は教会に行かなきゃだったな」

 

 真が思い出したように言った。

 クラスの変更は、通常、希望する職業の訓練を積んでから教会に行くことで選択可能となる。

 俺は「ふっ」と笑った。

 

「残念だったな、城山。俺はクラス変更のスキルを持ってる」

「なんで?!」

 

 だってセーブポイントだから。

 大聖堂に設置されたセーブクリスタルの俺の前には、毎月、多くの人がクラス変更に訪れる。無言で職業選択に貢献してましたが、何か。

 

「スキルレベルと補正値のリセットも可能だぜ。今のうちに調整したければどうぞ」

 

 俺たちはダンジョンに入る前に、装備やスキルを整えることにした。

 武器防具は、簡単なものなら俺の方で作り出せる。

 

「……私は弓を使おうと思います。枢さん、弓と矢を頂けますか」

「あれ? シシアは剣士じゃなかったっけ」

 

 ステータスに表示されたシシアのクラスは剣士だったはずだ。

 別にクラスと関係なくても弓矢は使えるだろうが、関係するクラスを持ってた方が武器の威力も上がる。

 

「時の神クロノアさまの魔法で、ステータスを偽装しているんです。本当は剣士ではありません」

「へーえ……」

 

 俺はピースサインをする爺を思い出して、頭を振った。

 時の神クロノアの偽装なら、俺には看破できない。

 

「枢っちは武器を持たないの? 魔法使いなら、魔法の威力を上げるために杖を持ってるよね?」

 

 真は両腕を頭の後ろで組みながら、気楽に言った。

 

「杖か……」

 

 異世界ではセーブクリスタルだったから、人間の道具や武器を使ったことがない。

 

「殴るのにも使えますよね?!」

「それは鈍器用の杖。魔法の効果を上昇させる儀礼用の装飾過多な杖で殴ったら、杖の方が壊れるって」

「にゃー!」

 

 心菜の物騒な発言を即却下する。

 ゲームでは杖で殴ったりしてるけどさ、道具は消耗品なんだよ。少なくとも異世界アニマではその辺、非常に現実的だった。

 本当は「杖」と聞いて思い浮かんだ自分の武器はあったのだが、あれは雑魚との戦闘で使うのは勿体ないからな……。

 

「俺はこのままで良いよ」

 

 結局、今着ている私服で、武器は持たずにそのまま行くことにした。

 

「それで城山はどうする?」

「……クラスは変更しようと思います。鎧も欲しいですね」

 

 城山はクラスを「聖騎士」に変更し、自らアーマーを着込んで防御を固めた。やると決めたら徹底的にする主義なのだそうだ。

 

「よう、近藤。さっきぶり」

 

 最後に夜鳥が来て、メンバーが揃った。

 ちなみに夜鳥は忍者ビルドを極めたいらしい。

 異世界には手裏剣が無かったから、俺に作って欲しいとオーダーしていた。手裏剣、どうやって作るのだろうか。

 ともあれ急に呼ばれたにも関わらず夜鳥は機嫌良さそうだった。

 手に持ったスマホを振って「よろしくな」と皆に挨拶している。

 

「さっきSNSをチェックしたら、代々木公園で火事になってるって聞いたけど大丈夫か?」

「何?!」

 

 夜鳥の言葉に、俺は代々木公園の方角を透かし見た。

 時刻は夕方。日が暮れた空に、火事の赤い光と煙が立ち上っている。

 空中を飛び交うモンスターの黒い影が、煙の間にかいま見えた。

 

「ダンジョンからモンスターを出さないようにしている結界が解けたのか?!」

 

 結界を張ったアマテラスに何かあったのだ。

 俺たちは顔を見合わせた後、代々木公園へ向かって駆け出した。

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