23 ダンジョン攻略

 代々木公園の周囲には、溢れ出たモンスターが徘徊していた。

 飛び出してきたゴブリンを心菜が日本刀で切って捨てる。

 だが数が多い。

 

「これ放っておいたら、大変な事になるんじゃ……」

 

 大地が青ざめた表情で言う。

 もう街の中へ侵入しているのだろうか。市街地から爆発音が聞こえてきた。

 

「黒崎を追う前に、先にモンスターをやっつけて……」

「きりが無いにゃー!」

 

 心菜の嘆きの通り、モンスターがダンジョンから、次から次に沸きだしている。

 ここでのんびりしている間に、黒崎はダンジョンを通って異世界に逃げてしまうかもしれない。アマテラスいわく、ダンジョンは異世界に繋がっているのだから。

 その時、スマホが振動した。

 佐々木さんからだ。

 

『近藤くん、君たちはモンスターを気にせず、アマテラスさま救出に向かって下さい!』

 

 スマホを耳にあてると、やや早口の佐々木の声が聞こえてきた。

 

「だけどモンスターが街に入ったら」

『緊急事態につき、他のプレイヤーの皆さんに協力を頼みました。アマテラスさまを救い、モンスターが出てくる元を封鎖できるのは、プレイヤーの中でも高レベルの君たちだけです! 行って下さい!』

 

 俺たちがここで足止めされていると、事態は悪くなる一方だ。

 俺は「分かった」と了承して通話を終了した。

 

「行こう、皆」

「了解にゃーー!」 


 門番のミノタウロスは、心菜が瞬殺した。

 俺たちは地下迷宮に降りる。

 下に下に降りていけば、最下層に異世界へ繋がる狭間があるそうだ。

 基本的にレベルが高い面々なので、通路にいる雑魚モンスターは落ち着いて対処できる。

 一人だけ通常の戦闘には参加しない真は、手持ちぶさたのようで俺に話しかけてきた。

 

「そういえば枢っち、暖かそうなマフラーだな、それ」

「だろー」

「キュッ」

 

 ウサギギツネはいつの間にか、我が物顔で俺の首に巻き付いていた。

 真が言った通り、マフラーみたいな格好だ。

 

「枢っち、もうそのままペットにして飼っちゃえよ」

「そうです、心菜が名前を付けてあげます! オアゲなんかどうですか?」

「食い物かよ」

 

 心菜は、狐?なので油揚げを連想したらしい。

 ウサギギツネはお気に召さないようで「ギュー」と唸っている。

 

「だって美味しそうな毛並み……そうだ、メロンパンみたいだからメロンでどうですか?!」

「違うだろ! どこをどう見ればメロンパンに見えるんだよ?!」

 

 俺は思わず突っ込んだ。

 

「メロンちゃん! 決定ですね」

「誰も同意してない! それに全然メロンじゃない!」

「響きが可愛いから決定ですメロン」

「もう俺の話聞いてないな……」

 

 ウサギギツネは全く見た目と掛け離れた名前を付けられてしまった。

 まあいいか、付けられた当狐?は意味が分かってないようだし。

 

「枢さん、サボってないで回復頼むっす」

「悪い悪い」

 

 俺たちは真面目にダンジョンを攻略した。

 一層めは雑魚のコボルドやオークがうろついていたが、前衛の心菜と城山が無双していたので後衛の出る幕はなかった。

 二層め以降は、罠のある部屋や廊下があった。

 シシアと夜鳥が前に立って、罠の探知や解除をしてくれる。

 三層めのボスは、真がレベルを入れ換えて一人でサクっと倒した。

 

 途中で疑問が湧いてくる。

 

「これ、何層まであるんだ……?」

 

 百層とか言わないよな? そんなに時間を掛けてられねーぞ。

 

「攻略済みダンジョンならマップがあるのに」 

 

 城山はぶつくさ文句を言っている。

 五層で俺たちは一回、休憩を入れた。

 

 瓦礫に腰かけて、俺は何となく癖で壁を眺める。異世界のダンジョンにいた時のように、マウスの右クリックをイメージした。すると『ダンジョン・ヨヨギ地下迷宮 五層の壁』とメッセージが表示された。

 

「ん? 待てよ……」

 

 異世界にいた時は「ステータス」と唱えなくても、右クリックのイメージでステータスを表示できた。異世界の俺のステータスはもっと簡素で、基本能力値も無かったと思う。それは俺が生物ではなく無機物いしころだったせいだろう。

 この「システム」と言っていいのか、異世界のステータス表示の仕方にはおそらく二種類あるのだ。人間や生物向けの表示と、生物以外・・・・が見る表示である。

 ダンジョン全体をイメージして右クリックするとどうなるだろう。

 

「あ……マップ出た」

 

 ダンジョン全体の情報の一部に、地図が含まれていた。

 まるで、システムのバグを使ってゲーム攻略しているような気分だな……。

 だが時は金なり。

 今は黒崎を追う方が重要だ。

 

「おーい皆」

 

 俺はマップを可視化して、皆に見せた。

 

「枢っち、チート感半端ないな」

 

 真は呆れたように唸り、シシアは冷静な表情で言った。

 

「ここはどうでしょう、枢さんの強力な魔法で床に穴を開けて、一気に十層ずつ飛び降りるのは」

 

 シシアの強気な発言に、俺たちは息を飲んだ。

 

「下に行くほど敵が強くなるのが定石だ。一気に十層分強くなったら、今日結成したばかりのパーティーで対応できるのか?」

 

 と、夜鳥。

 

「もしこの世界で死んだら、どうなるんだ? 異世界では魔法で復活できたが、この世界では死んだらあの世ってことはないのか?!」

 

 前線に立っている城山は、死んだらどうなるか気になるらしい。

 俺は彼の肩をポンと叩く。

 

「よし実験だ城山。一回、死んでこい」

「枢さん?!」

「というのは冗談で、俺の方で回復や復活、緊急脱出の魔法を使えるから大丈夫だよ」

 

 なんたって動く補給線セーブポイントだからな……。

 

 床をぶち抜いて下層に降りる作戦を早速試してみる。

 十層降りると手応えのある敵が現れ、ようやく俺の補助バフが必要になったが、結論から言うと楽勝だった。

 こうして残る階層に豪快に穴を開けて進み、ついに俺たちは三十層を越えた。

 

 

 

 

 三十三層の狭間の部屋の前。

 時空を隔てる重厚な門の前に、黒崎は立っていた。

 

『そなたら正気か?! その狭間の部屋の門を開けば、黙示録獣アポカリプスが地球側に現れる! 地球が滅ぶのじゃぞ?!』

 

 雛人形がジタバタしながら黒崎を引き留めようとする。

 

「織り込み済みだ。そもそも俺がおとりとなって、黙示録獣を地球に導いたのだから」

『な?!』

 

 雛人形に封じられたアマテラスは驚愕した。

 

「東京に、狭間に近いダンジョンが出現したのは偶然ではない。この俺が黙示録獣を呼んだからだ」

『そなた……自ら故郷を滅ぼすというのか』

「俺の故郷は異世界アニマだ」 

 

 黒崎は、数百メートルもあろうかと思われる巨大な門に手をかざし、魔神ベルゼビュートの力で門をこじ開けようとした。

 その様子を、仲間である三雲少年、復活したばかりの八代椿が見守っている。

 ギギギ……と重苦しい音が響き、扉に数ミリの隙間が空いた。

 黒い霧が隙間から漏れ始める。

 

『いかん! このままでは……枢、助けてたも!』

 

 雛人形の中でアマテラスは縮こまり、胸の前で両手を組んで奇跡が起きることを祈った。

 

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