09 異世界転生の秘密

 異世界で戦った、金色のヤマタノオロチ。奴は黒雲と共に現れたので、異世界の住民には「黒雲の主」、竜神リーシャンには黙示録獣アポカリプスと呼ばれていた。

 黙示録獣アポカリプスは異世界アニマを滅ぼすのを止めて、代わりに地球を滅ぼしに行ったと、リーシャンが言っていたじゃないか。

 俺が思い出して青ざめている間に、アマテラスの説明は続く。

 

「世界各地に出現したダンジョンは、おぬしらがいた異世界に繋がっておる。モンスターはダンジョンから沸き出しておるのだ。そして、そのモンスターの背後に最大の脅威が待ち構えておる」

「それが黒雲の……?」

 

 心菜が首をかしげた。

 アマテラスは扇を広げながら答える。

 

「そうじゃ。かの脅威の名は"黙示録獣アポカリプス"。奴はダンジョンを通って、地球に迫りつつある」

「んん? 今、地球には異世界で経験を積んだ、俺たちみたいな転生者が沢山いるじゃねえか。その何たらって脅威を、俺たちで倒せばいいじゃん」

 

 真が不思議そうに突っ込んだ。

 

「倒すことが出来ればな……黙示録獣アポカリプスはいわば、災厄そのもの。Lv.100の転生者が束になって掛かっても、傷を付けられるかどうか」

 

 アマテラスの返事は言外に無理だと告げていた。

 そりゃ、Lv.999の俺でも倒せなかったくらいだからな。

 

「じゃが、ダンジョンの底にある、異世界と通じる通路をふさいでしまえば、黙示録獣アポカリプスと戦う必要はなくなる。だから妾は、ダンジョンの奥に降りても平気な、強い人間を探しておったのだ。具体的にはLv.100以上のな」

 

 話がつながった。

 俺は腕組みして考え込む。

 地球に迫っている黙示録獣アポカリプスを通せんぼするのは、やぶさかではないが、恋人の心菜と真を巻き込みたくない。できれば親しい人には、危険の少ない場所で平穏に過ごして欲しいのだ。

 だが、俺が行くと言えば、心菜と真は付いてくるだろう。

 ここは一旦断って、後でこっそり協力すると話すか。

 

「俺たちはパス――」

「やります!」

 

 リーダーの俺が決断する前に、心菜が手を挙げた。

 

「世界の平和を守るため! 愛と正義の心菜は頑張ります!」

「ちょっと待て!! いつ俺たちは正義の味方になった?!」

「そうだよ心菜ちゃん、考え直そうぜ」

 

 俺と真が口々に反対するが、アマテラスは俺たちを無視して、心菜を煽るようなことを言った。

 

「よくぞ言ってたもうた! それでこそ勇壮なる日の本の民よ。汝には特別なスキルを授けよう」

「特別なスキル?!」

 

 アマテラスは金色の扇を、心菜に向かって振る。

 

「時流閃。過去に遡って斬撃を飛ばす技を授けよう。防御する前に当たるゆえ、攻撃は必中する。なお、敵が霊的な存在や神である場合、攻撃効果は倍増するのじゃ」

 

 な、なんてエグい技を心菜に渡すんだ。

 これからは迂闊に彼女と喧嘩できそうにない。

 

「特別なスキル……」

「おい真、釣られるな」

「それって立候補するだけで良いのか?」

 

 真は「もらえるものはもらう主義だ」と俺を押しのけて身を乗り出した。

 アマテラスはくすくすと笑う。

 

「セコい男じゃのう。だがそなたも見込みがあるゆえ、特別にスキルを授けてやろう。ほれ」

 

 扇を振る。

 

「レベル詐欺EX。スキルレベルの数値を好きなだけ、自分のレベルに移動できるのじゃ。Lv.100のスキルが5個あれば、合算してLv.500にすることも可能じゃ。制限時間はあるがな」

「やった! すっげえ使えるスキルだぜ。ありがとうアマテラスさま!」

 

 俺は額に手をあてた。

 報酬を前払いされては、断るに断れない。

 

「……俺には?」

 

 一応、聞いてみた。

 アマテラスは俺を半眼で見る。

 

「ある訳なかろう。むしろ妾に授けよ、スキルを」

 

 何となくそんな気がしてたよ。

 

「さて、枢よ。先ほど頼んだ魔法について、妾に教えてたもう」

「仕方ないな……」

 

 モンスターが街にあふれると俺も困る。

 俺は椅子を引いて立ち上がり、心菜と真に頼んだ。

 

「悪い。先に帰っててくれるか」

 

 心菜は笑顔で答えた。

 

「嫌です。枢たんの隠している事が分かるまで帰りません」

「……」

 

 さすがに俺の考えは読まれているようだ。

 

「……外で待っててくれたら、頭を撫でてやるから」

「心菜、良い子で待ってます!」

 

 やれやれだな。

 苦笑する真と、上機嫌な心菜が去った後、アマテラスは改まって言った。

 

「枢よ。ひとつ詫びねばならぬことがある」

 

 紫色の座布団に正座するアマテラスは、神妙な表情だ。

 

「異世界がこの世界にぶつかる寸前、この世界の神々は大慌てで、自分の支配する地域の若者の魂を異世界に逃がした。それがそなたらの異世界転生……」

 

 俺は種明かしに驚く。

 異世界転生は、この世界の神々の仕業だったのか。

 

「だがちょっとした手違いがあっての……石に転生するとは思っておらんかった」

「へ? ってことは」

「間違っちゃった、てへ」

 

 アマテラスは可愛く小首をかしげて見せた。

 そんな誤魔化しが通用するか!

 

「ひどい……ひどすぎる」

 

 ということは、やっぱり俺以外は皆、人間に転生していたんだな。

 自分が石になったと知った時の絶望を思い出して身震いする。

 ごめんで済んだら警察はいらんわ!

 

「世界の衝突による世界の滅亡は杞憂で終わった。妾たちは送ってしまった若者の魂を呼び戻そうとして、その必要が無いことに気付いた。異世界と地球の時間の流れは違う。わずか数分が数十年にもおよぶのじゃ。多くの魂は異世界での一生を送った後、死して自然に魂が地球に帰ってきた。じゃが――」

 

 アマテラスは神妙な表情に戻って、異世界転生の話を続けた。

 

「人外に転生してしまったものは、死することが無いので、地球に魂が帰らぬ。そなたは自力で異世界から地球へ帰ってきたのじゃ」

 

 俺は無意識に使っていた「緊急脱出」の魔法の件を思い出した。

 他の皆、心菜や真は、緊急脱出で地球に戻ってきた訳ではないのか。

 さらに、アマテラスは気になる事を言った。

 

「そなたの他にも、人外に転生し、自力で地球に帰還したものがおる」

 

 俺以外にも……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る