03 俺の幼馴染と彼女がチートだった件

 まこととパーティーを組むことになった。

 歩きながら話をする。

 話題は当然、異世界関連だ。


「なー、かなめ。お前、どんな異世界転生したんだ? 俺はねー、下級貴族の坊っちゃんに生まれて女をとっかえひっかえしながら、成り上がって一国の宰相に……」

「死ね」

 

 馬鹿話をしながら、俺たちは都内の路線を乗り継いで代々木へ向かう。

 それにしても真は人間だったのかー。

 人間なだけで羨ましい。

 俺なんて……俺なんて石ころだぞ?!

 

「枢っちは? なあなあー」

「うるさい」

 

 真は女子高生のようなノリで「どんな異世界転生だった?!」としつこく聞いてくる。

 俺は真と視線を合わせずに逃げまくった。


 そうこうしている内に、代々木公園に着く。

 代々木公園は都心のオアシスと呼ばれる。広大な敷地は鮮やかな緑の森林に囲まれ、四季折々の自然の風景が楽しめる。お昼休みともなれば、木陰でのんびり昼飯を食おうと、ベンチで弁当を広げるビジネスマンや観光客もいるのだが……。

 

「ああっ、私のフルーツサンドが!」

 

 目の前で観光客のサンドイッチが、ハーピーにさらわれる。

 ハーピー……ポッポじゃなくてハーピーだぞ!

 異世界と接触した影響か、代々木公園はすっかり人面鳥の怪物ハーピーの巣になってしまっていた。

 

「人間が食われないだけマシか……?」


 今のところ、ハーピーは弁当で満足して人間を襲っていないようだ。

 俺はポケットからスマートフォンを取り出して、操作した。

 いつの間にか心菜から返信が来ている。

 

 心菜> 弟は地震で地下に落ちちゃって、足を怪我して動けないの。

 心菜> 助けて枢たん!

 

 地下……?

 俺のスマホを勝手にのぞきこんだ真が「ダンジョンの中っぽいな」と呟く。

 

「例のパルテノン神殿と関係あるのか?」

「中央広場に行ってみようぜ」

 

 ハーピーたちが襲ってこないので、意外にすんなり中央広場に到着する。

 芝生には、場違いな古い石の柱が等間隔に生えていた。 

 柱に囲まれた場所に下り階段が見える。

 あれか!


「門番はミノタウロスかー」


 しかし階段の前には、牛頭の大男が斧を持って立ちふさがっていた。

 

「俺に任せて」

「真?」

 

 真はヘラヘラ笑って、ミノタウロスの前に踏み出した。

 ミノタウロスは唸って斧を振り上げる。

 

「イカサマしてやるぜ!」

 

 その瞬間、ミノタウロスと真のレベルが入れ替わった。

 ミノタウロスは「Lv.1」に、真は「Lv.22」に変換される。

 

「よっと」

 

 真はミノタウロスから斧を奪うと、モンスターの胴体を豪快に叩き切った。細腕で重そうな斧を軽々と振るという、目を疑うような光景である。

 ミノタウロスは光の粉になって消えた。

 

「進もうぜ」

「……ああ」

 

 俺は少し呆気に取られていたが、ちょいちょいと指で招く真の後を追って階段を降りた。

 地下は、魔法の明かりが所々に灯されており明るい。

 足元は雑に組み合わされた石畳が続いている。

 壁は土壁を魔法で固定したもののようで、ところどころに地下水が滴っていた。

 この雰囲気……異世界で目覚めてすぐの頃にいたダンジョンを思い出すな。

 

「心菜ちゃんどこかなー」

「目印になるものがないか、聞いてみようか」

「……姉ちゃんっ!」

 

 切羽詰まった少年の悲鳴が聞こえてきて、俺は真と目を合わせた。

 壁に反響してエコーが掛かっている。通路の奥の方から、誰かの声と立て続けに破砕音が響いてきた。

 俺と真は通路を駆け出す。

 

「無茶しないで、姉ちゃん!」

 

 少年をかばって、誰かが戦っている。

 学生服を着た栗色の髪の少女……心菜だ!

 

「てやあああああっ」

 

 高い気合いと共に、心菜は手に持った日本刀・・・をモンスターに振り下ろした。

 へ……?

 

「枢っち、心菜ちゃん鑑定した?」

「い、いや」

「めっちゃ強いぞ」

 

 まさか心菜が異世界関係者だと思わなかった俺は、最初から彼女を鑑定の対象から除外していた。

 

おおとり 心菜 Lv.112 種族: 人間 クラス: つるぎの巫女』

 

 何だよスキル「一撃必殺Lv.60」って。攻撃した時、5パーセントの確率で即死が発生するぅ?! 歩く凶器か!

 持っている日本刀も、刃渡り60cm以上の由緒正しい太刀だと思われる。

 冴え冴えと光る刀を手にした心菜は、別人のように鋭い眼光で敵を睨んでいる。

 

「こりゃ手助けいらないかな」

 

 真がミノタウロスから奪った斧をその辺にポイっと捨てた。

 勝手に戦闘終了してんなよ。

 呆れながら俺は敵モンスターを観察する。

 角の長い山羊の頭蓋骨を被った、筋骨隆々の大男の怪物だ。背中からコウモリ型の翼が生え、両手の爪は鋭く尖っている。

 

『ランスデーモン Lv.150』

 

 ランスって槍だよな。あいつ槍を持ってねえぞ。

 不思議に思う俺の前で、心菜は踏み込んで日本刀でモンスターの頭蓋骨をかち割る。

 そのままモンスターの頭からヘソまで一刀両断した。

 心菜は数秒、残心の形で佇んでいたが、きびすを返すと同時に、刀身から敵の血を払い鞘に収める。

 彼女は俺の姿を見つけると、ふわっと嬉しそうに微笑んだ。

 

「危ない!」

 

 すっかり空気だった心菜の弟くんが声を上げる。

 心菜の背後でモンスターの死体がねじれ、一本の黒い槍に変化していた。『デーモンランス Lv.200』倒した直後に出現するタイプのモンスターか。

 

「え?」

 

 心菜は戦闘が終わって油断している。

 デーモンランスは空中に浮かび上がり、一直線に彼女の背中へ突撃しようとしていた。

 

「心菜!」

 

 俺は咄嗟に使い慣れた防御魔法「光盾シールド」を発動する。クリスタルとして身動きできない事情から、必死こいて修練した魔法だ。

 六角形の光の盾がデーモンランスの突進を防ぐ。

 白い火花が散った。

 

「……往生際が悪いですね!」

 

 心菜は抜刀の構えを取り、踏み込みながら一瞬でデーモンランスを切り捨てた。

 即死効果が発生したらしく、敵のHPバーがみるみるうちに赤くなり、肉体が内側から爆発四散する。

 今度こそ、戦闘終了だな。

 

「姉ちゃん、恰好いい……!」

 

 少年が目を輝かせている。

 気持ちは分からんでもない。

 俺は少年を助け起こすため、手を伸べながら聞いた。

 

「皆で地上に戻ろう。弟くん動ける?」

「僕の名前は空輝くうきです」

 

 弟くんの名前が本当に空気だった件。

 俺は足を怪我したという心菜の弟を背負って、元来た道を引き返した。

 

「心菜ちゃんも、異世界の夢を見たのか? 俺たちもだぜー」

 

 真がへらへらと笑いながら、心菜に聞く。

 心菜は何故か勢いこんで答えた。

 

「はい。小さな国のお姫様に生まれたのですが、戦場に出て百人斬りを達成する夢です!」

「なんて物騒な夢なんだ……お姫様はどこ行った」

 

 もともと彼女は、ちょっと変わった強気な女の子だったが、異世界のせいでいっそう過激になっている。百人斬りなんて……これは夢か? 誰か夢だと言ってくれ。

 心菜は目を輝かせて力説した。

 

「これでも英雄になったんですよ。モンスターがいくら襲ってきても私の敵ではありません! 枢たんは心菜が守ってあげるのです!」

「お、おぅ……」

 

 俺は気圧されて頷いた。

 

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