第47話 若君の力
「来てくれてありがとう、ナナ」
競技場に着いた途端満面の笑みでクララ様が駆け寄ってるので、私は思わず半歩後ずさりしてしまった。ごめんなさい、また若君に真似されると困るのです。
失礼なことをしてしまったと冷や汗をかき、顔を引きつらせる私にクララ様はクスクス笑うと、
「練習の成果を見てくれる?」
と、可愛らしく首を傾げた。
「はい。その前に少し気になることがあるので、像を一通り見てきてもいいですか?」
「別に構わないわよ。誰か連れて行く?」
「そうですね。……オリバーさん、付き合ってもらえますか?」
突然の指名にオリバーさんが、「私?」と驚いたような声を出す。
「はい、少し手伝ってください」
何かを気にしているようなオリバーさんを伴い、競技場へ降りる。ある程度みんなから離れたところで、私は彼に内緒話をした。
「えっ? 写真?」
戸惑ったような表情に、彼が写真を見たことがないんだと気付いた。オリバーさんはお兄と同世代だ。写真が禁止されたのは三十年以上前だから、知らなくても当然だよね。
そこで簡単にどのようなものなのかを説明すると、すっと彼の表情が引き締まる。
「まだどこかにあるかもしれないので探してください。気づかずに攻撃して、若君に何かあったら困ります」
「なるほど。それで私を指名したのか」
「すみません。若君は当事者ですし、あの中で一番信頼できるのはオリバーさんだけだったんです」
みんなには聞こえないはずだけど、念の為身を寄せて小声で訴える私に、オリバーさんはくしゃっと笑ってみせた。
「わかった。探そう。ありがとう、ナナ」
手分けして探したところ、オリバーさんが二枚、私が一枚写真を見つけることができた。すべて若君だけど違うショットで、おそらく焼き増しのようなものができないのでは? と思う。三枚もまとまると、写真にまとわりつくドロリとした嫌な気が一気に高まり、私は眉をひそめた。
その三枚に、昨日より強めに保護の力を流して一枚一枚に口づける。
「これでひとまず安心です」
あとは、こっそり日本へ送っておけばいい。思いもかけず手に入った若君コレクション。どこかの盗撮魔にちょっぴり感謝だ。
「ありがとう、ナナ。一つ聞いてもいいかい?」
「はい」
「もしかしてナナは、その、うちの若君のことを」
そこまで聞いて、私は心にカギをかけなおす。
「若君のことを愛してる?」
「なんですか、それ。すごいことを言いますね」
私は、呆れた口調で苦笑いして見せた。
「いや、すまん。今のを見て、なんかそんな気がして」
「保護をかけただけですし」
「そうだよな。うん、突然変なことを言って悪かった」
「……私は、子どもの頃からずっと好きな人がいるんです」
「えっ? そうなのかい?」
「はい」
だからもう、そんなこと言わないでください。
☆
クララ様には気のせいだったと報告した。
今日は下馬戦の模擬試合はしないらしい。そこで、クララ様が練習の成果を見せてくれる。
ドッ!
昨日より明らかに強い雷に、像の肩が砕けた。
「どうかしら」
「そうですね。もう少し一点に集中できますか?」
仕立てが完成し、クララ様がさらに集中力を高めたら、多分スゴイ力になるだろう。
次にガブリエラ様含めた全員の力を見たものの、自分と波長が合いそうな人は若君くらいだった。一人一人力の種類が違うため、その場でぱっと使い方がレクチャーできるかと言ったらそうではない。それでも、クララ様を見た人たちが興味を持ってくれたのがうれしかった。もう少し、誰もが今のままでも使いやすく力を強化できる方法を考えてみよう。
これで少しでも魔獣討伐が楽になり、怪我をする人がいなくなればいいと思う。
「では次はテイバー様、力を見せていただけますか?」
若君も力を使うときは剣を使用するようだ。
剣をブンッと下から上に振り上げると、強い風が起こった。鋭い風は、冬に多い小型の魔獣程度なら吹き飛ばされるだろう。熊ほどの大きめの魔獣でも、渦巻く鋭い風は、その動きを止めるのに十分な威力だと思える。
「すごいです。次は光をお願いします」
「わかった」
今度は太陽光を集めるように剣を振り上げ、振り下ろすことで鎌のような三日月型の光が放たれる。目くらましには十分な強さで、相手が怯んだすきをついて倒したり封印したりできる。
どちらの力も攻撃の補助的に使っていることが分かった。若君の強さなら、それでも十分なんだろうと思う。
力の使い方は今朝説明しておいたけど、今のはいつもの方法らしい。
「テイバーの力は強いだろ? この力、ナナならどうするんだい?」
若君と同じ光の力を持つ騎士の方たちが、私を見てそう言った。
若君の使う光は独特だ。蓄電とも言えると思うんだけど、光を増幅ではなく放つというのが不思議。ネアーガを祓ったときには強い光を放ったと聞いたけど、それとは違うよね。これはいったい何なんだろう? 私が空気の力を固めたりするのに似ている。もしかして、若君の力の使い方は私に一番使い方が近いの?
興奮でドキドキする。
「すみません、光については少し考えます。風の方はそうですね。テイバー様みたいな使い方以外ですと、私がしているみたいに防御にもなります」
小さな空気の玉をまとわせ、あらゆる攻撃を流すことができる。
重さもないし、使いこなせればすごい防御力なのだ。
実際私はこれで、なんども魔獣の攻撃を避けることができたのだから。
噂などで私に触れることができないことを知っている騎士様たちは、私が使っているのが風の力だと思ってなかったらしい。だからって、次々と私に触れようとするとするのはやめてほしいかなぁ。私が力を強化すると皆さん弾き飛ばされるんだけど、それが大受けなのが解せないわ。まじめにやってるのに。
なんだろう。昨日から皆さん、私で遊ぶことが流行してません?
なぜかガブリエラ様が笑いをこらえてるし。
なにこれ? 本当に私、おもちゃポジ?
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