第7話 写真

 思わずキョロキョロしてしまい、若君に不審がられてしまった。

 これは、素直に聞いてみたほうがいいのかしら?


「ナナ?」


 うーん。でもここには普段おばあちゃんと二人のことが多いし、私が留守番をすることも多いから、偶然ってこともあるよね? 誰かがいるときは黙って帰ってるのかもしれないし。


 というか、いつもはお付きの方が一緒だから、若君と二人きりってすごく久々な気がする。


 そう考えて、小首をかしげてまじまじと若君を見る。

 若君は「ん?」というように私の視線を受け柔らかい笑顔を私に向けてくるけど、実は出会ったときにはとても厳しい顔をしていたのだ。その顔を私に見られたことには、彼は気づいてなかったと思う。


 誰かの前にいるときは、とてもきれいに笑う若君。

 でも私の前でご飯を食べてる若君は、なんだか肩の力が抜けてて、笑顔もきれいというのとはちょっと違うんだよね。ニコニコというか、少しだけ幼いというか。もしかしたらこっちが「素」の顔なのかもしれない――。

 ふとそんなことを思う。


 うーむ。年上だけど、弟みたいなものだと思えば可愛いものなのかも? 嫁云々さえ言わなければだけど。


「ナナ。俺に見惚れてるの?」

 あまりにまじまじと見てたせいか、若君がニヤリと笑ってそんなことを言った。

「あー、まぁ、そんなところですね」


 まじめな話、鑑賞・・に堪えられるくらいキレイな顔ってすごくない?

 ついついテレビの画面越しにアイドルを見ている気分になる。

 お兄も他人から見たら相当イケメンらしいけど、所詮は家族。母似だなくらいのものだ。見て楽しむなんて趣味はない。

 若君の場合は、まじまじと見れば見るほど、どんだけ整ってるんだって感じだ。その長いまつげや、サラサラの髪ががうらやましいなんて、思ってないんだからね。


 なぜか若君の耳が赤くなってるなぁと不思議に思いつつ、私はお茶の残りを飲み干した。


  ☆


「今日は一人なんですね。お付きの方は? 後からいらっしゃるんですか?」

 後片付けをしながら改めて問うと、若君は

「いつもオリバーのことを気にしてるな」

 と、いささかムッとした顔をしてる。でも、いつもいるはずの人がいないって普通気になるじゃない? また迷惑かけてるんじゃないかな、とか。

 二十歳過ぎた人にいつまでもお守りがついてるのも、お互い大変そうだなとか思ったりはするけど、こっちがそういう世界なら仕方ないよねとは思う。


「ナナは、ああいうのがタイプなのか?」

 なぜそうなる?

「タイプも何も、そもそも恋愛対象じゃないですし」


 ついそう答えるけど、「じゃあどんなひとが対象か」と言われたら困っちゃうよね。

 二人きりのせいか、ずいぶん突っ込んでくるな。

「そうですね、父みたいな人ですね」

 うん。日本じゃ恥ずかしくてちょっと言えないけど、ここなら別にいいわよね。

 正確には、父と母の・・・・ような夫婦・・・・・になれる相手、なんだけど。

 初恋のお兄さんは、顔もわからないのでとりあえず棚に上げておく。下手に言って突っ込まれても面倒くさいもの。


「お父上を尊敬しているのだな?」

「そうですね」


 一度会ってみたいなんて言うから、つい家族写真を見せてしまおうかなんて気になってしまった。

 写真を少し加工しているので、精巧な姿絵に見えるそれを若君に見せる。

 父と母と兄と私。お兄の二十歳の誕生日に、おばあちゃんがとってくれた一番のお気に入りの写真。


 この写真のすごいところは、加工をしてくれたのも美鈴おばあちゃんだってところね。それぞれの服をゲシュティ風に加工して、さらに精巧な絵画風にしてるのよ! こちらの服は全体的にワンピースとかスーツとかに近いから、元々そういうものを着てもらえれば簡単よって美鈴おばあちゃんは笑ってたけど、こちらに来て直接見たこともないのにすごすぎだよねぇ。

 おかげで堂々と持てるし、見せることもできる、大切な宝物なのだ。


 その写真の中の、今より大分幼い私を見た若君がとても優しい顔をするのでちょっとビックリ。

 私は抱っこしていたタキを撫でつつ、こんな顔もするのねと感心してしまった。


「この男は?」

「兄ですよ。似てません?」

「似ているな。すこぶる男前だ」

「ありがとうございます」


「ナナは、母上とよく似ているな」

「そうですか? 私は母みたいに美人ではないですよ」

「いや。ナナは美人だろ?」


 うーん。それはないなぁ。

 とりあえず、父に似た目元は嫌いではないけど、美人じゃない自覚はあるよ。

 大体超絶美人から美人と言われても、なんの冗談だって感じじゃない? 別に嫌味に聞こえないのは、若君の人柄かもね。


「父からは美人に見えるみたいですね」

 なので私は、カラカラ笑って父の顔を指さす。


 若君はしばらくじーっとそれを見てたかと思うと、するりと口元をなで

「俺も髭を生やそうか……」

 と呟くので、思わず吹き出してしまう。

「似合わないか?」

「父も髭を生やし始めたのはここ十年くらいですよ。若君にはまだ早いんじゃないかなぁ」

 あまりにも情けない顔をされたので、一応フォローのつもりでそう言っておく。

 私の父はガチムチマッチョだよ? 背の高さは同じくらいとはいえ、スマートな若君とはタイプが違うわ。


 そんな心の声が聞こえたのか、自分も結構強いぞ? なんて謎の主張を若君がしてくる。

 もしかしてうちの父ってば、戦う人だと思われてるのかしら?

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