第二章 その7
「はぁあ!」
屋根を突き破って現れた折津は日本刀をフィズの頭に突き刺し、フィズの頭からは一気に血が噴出して折津を真っ赤に染める。
「ぎぃやぁああああああああああ!」
フィズは突如頭に日本刀を突き立てられ、折津を振り払おうと体をしっちゃかめっちゃかに動かし、暴れ始めるが、折津はフィズが暴れ始めても日本刀を離すことなく、日本刀をフィズに刺し込んでいった。
しかし、フィズが暴れていたのが原因か、日本刀の根本の部分がパキッ、と音を立て折れてしまい、その拍子に折津は吹き飛ばされてしまう。が、
「……ふっ!」
折津は難なく着地をした。
「やっぱり前回の戦いでガタがきてたか」
そう言って折津は手元に残った日本刀の柄を捨て、背中に背負っていた何かを手元に持ってきた。
それは、マシンガンだった。しかもただのマシンガンではない。銃の知識がない塚原でも一目で屈強な軍人でなければ撃つことができないと判断することができるほどの大きなマシンガンだ。
「塚原、そこを動くなよ!」
それだけ塚原に言って、折津は大きなマシンガンを苦も無く撃ちはじめた。
「がぁああああああああああ!」
さすがに屈強な軍人でなければ撃てないような大きさのマシンガンとなると、塚原達が拳銃を発砲した時とは違い、フィズに銃撃が効いているようであった。
そんなフィズの様子を見た折津はマシンガンを撃ちつつ一気にフィズとの距離を詰め、フィズの頭上に飛び乗り、マシンガンを投げ捨てた。
そして、フィズの頭に刺さったままの日本刀の刃を両手で握りしめ、
「はぁああああああ!」
力を込めて日本刀の刃を深く、より深くフィズの頭に刺し込んでいく。
刃の部分を素手で握りしめ、力を込めているため両手から出血していたが、折津はそれをまったく気にしていない様子だ。
「ぎぃやぁああああああああああ!」
一方、フィズは必死に折津を振り払おうとする。
だが、折津は振り払われない。さらに日本刀の刃を刺し込んでいく。そして、
「ああああああああ――――」
フィズは、力尽きた。
「ふぅー」
フィズが死んだのを確認した折津がフィズの頭上から飛び降りた。
「お、折津」
「……塚原、お前に二つ謝ることがある」
「えっ?」
「一つは、助けるのが遅れた。もう少し早くここに到着できていればお前を危険な目に遭わせずに済んだ。ごめん」
「そんなことはない。お前は、俺の命を救ってくれた」
そう、折津がこうしてフィズを倒さなければ塚原も関内も死んでいた。
「そうか。……それと、もう一つ。約束守れなくて、ごめん」
だが、この折津の言葉に、どう返事をしていいのか塚原は迷ってしまう。
折津は、塚原に約束した。七人目の犠牲者が出る前にかならずフィズを殺す、と。
しかし、フィズによって犠牲者は出てしまった。それも、大量に。
「折津、このフィズは連続殺人事件の犯人なのか?」
「違う。こいつが犯人だったらそもそも死体が残らないだろ?」
「そう、だな」
このフィズは人を喰って殺していた。だから、死体が出るわけがなく、死体が出ている連続殺人事件の犯人ということにはならない。
「け、けど、それならお前は約束を破ってない。お前が約束したフィズは連続殺人事件のフィズなんだから」
「塚原、そうやって無理やり私を庇わなくていいよ。それに今、お前はこう考えているだろ。自分がフィズのことをさっさと報告していたら、こんなに人は死ななかったんじゃないか、てな」
「そ、それは……」
塚原は否定することができなかった。
もしもフィズのことを報告し、上層部がそのことを真面目に受け取っていたらフィズによる犠牲者は出なかったんじゃないか。
そう、嫌でも考えてしまうからだ。
「お前は約束を守ってくれたんだから悪くない。悪いのは約束を守れなかった私だ」
「…………や、約束はあくまで保留にしていただけだ。だから、約束はまだ成立してない。約束が成立していない以上、お前が約束を破ったという事実も存在しない」
「あー、そういえばまだ保留だったんだっけな。そんな屁理屈を言ってまで私を庇うか。まぁ、お前らしいよ」
折津の言う通り、それは屁理屈だった。だが、屁理屈だろうが塚原は命を救ってくれた折津を悪者にさせる気はなかった。
「折津、とりあえず今は、この話は置いておこう。俺は関内課長の応急処置をする。ついでにお前にも応急処置をするから手を見せろ」
「ああ、それは大丈夫だよ」
「大丈夫なわけないだろ。お前は手を怪我して――――」
塚原は言葉を続けて言うことができなかった。なぜなら、
「ほら、見てみろ。傷口がふさがってくだろ」
そう言って塚原に見せてきた折津の手のひらにある日本刀の刃を握ったことによってできた傷口は、折津の言う通りふさがっていったからだ。
「お、お前」
「なぁ、私のプライバシーに関わる話をするっての、まだ有効か?」
パライバシーに関わる話……折津がフィズを殺せる理由。二人っきりなら話してもいいというその話を塚原はまだ聞いていない。
「ああ、有効だ」
「そっか。なら、お前が落ち着きそうな頃合いにこっちから連絡するよ。……さてと、私は退散するか。お前のお仲間が大勢来たみたいだし」
「えっ?」
折津が何を言っているのか塚原が理解しようとした直後、塚原の耳に聞きなれた音が入ってきた。
パトカーのサイレンだ。それも、一つではなく、いくつものパトカーのサイレンだ。
そのパトカーは、十分経っても連絡がなかったので関内の指示通りにオペレーターが行動して出動した近くの所轄の全てのパトカーだった。
「塚原、お前は気絶しているフリをしていた方がいいぞ。その方が色々とこの状況に言い訳がつくだろうし」
「いや、それじゃ関内課長の手当てが」
「ああ、その人なら大丈夫だよ。出血してるみたいだけど、たいしたことない。だから今すぐ大急処置をしなくても平気だ」
「そうなのか」
「じゃあな、塚原。かならず連絡するから」
そう言って折津は去った。自分が突き破った屋根の穴に向かって跳躍して。
そして、その光景を見て塚原は確信した。人間は、自分の身長の何倍もの高さの所に何の補助もなく、跳躍して届くわけがない。
つまり折津は、人間ではない、ということだ。
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