第二章 その2

 折津はフィズの血によって全身が血だらけで誰かに見られたら嫌でも目立つ状態であったが、うまいこと裏道を利用し、誰にもみつかることなく移動して塚原を目的地に連れてきた。


「着いたぞ」


 折津が塚原を連れてきたのは、県警本部と同じ市内にある教会だった。


「教会か」

「入るぞ」


 折津が教会の扉を開け、塚原がそれに続く。


「シスター、ただいま」

「お帰りなさい、折津さん」


 教会には、一人のシスターがいた。


「その方が、あなたが連れてくると言った同級生ですか?」

「ああ、そうだ。そいつ、警察官だから扱いは丁重にな」

「け、警察官!? あなた、なんて人をここに連れてきたんですか!」


 シスターは塚原が警察官であると知ると、動揺した様子を見せる。

 塚原は、警察官である自分の前でそんな様子を見せられると、嫌でも何かやましいことでもあるんじゃないかと疑ってしまう。


「しょうがないだろ、シスター。こいつにはフィズの死体を見られたんだからな。で、そのことについて説明する必要があるから連れてきたんだ」

「……そうですか。まぁ、その状態の折津さんと一緒に来た時点で、薄々そんなことじゃないかと思ってはいましたが。分かりました。折津さんはまず着替えてきなさい」

「分かった」


 折津は着替えるため教会の奥の方に移動していった。


「それで、えっと」

「塚原です」

「塚原さん。落ち着いて話ができる部屋に案内します。あの子が戻ってきたら、色々とお話をします。その、あなたが見たものについて」

「分かりました」


 どんな話が飛び出すのか考えながら塚原はシスターの案内についていった。




「紅茶です」

「あっ、どうも」


 小部屋に案内された塚原はイスに座り、シスターから紅茶を差し出された。

 そして、塚原が紅茶を飲みながら折津を待つこと、数分。


「待たせたな」


 着替えを終えた折津が部屋に入ってきた。


「ん? さっきのセーラー服と種類が違うな」

「ああ、セーラー服を着ているのはカムフラージュのためなんだよ」

「カムフラージュ? 何でカムフラージュが必要なんだ?」

「当然、そう思うよな。その理由を今から話してやるよ」


 折津は机を挟んだ塚原の正面のイスに座り、話を始めた。


「塚原、お前は戦後間もない頃この国にフィズが現れ、ヒーローがフィズと戦って、フィズが全て倒されたってことは知っているな?」

「小学生でも知っている史実だ」

「じゃあ聞くけどさ、その史実が間違っているとしたらどうする?」

「……間違っている部分は、フィズが全て倒されたってところか?」


 塚原の脳裏にあるのは、フィズのバラバラ死体。例えどんなに信じられないことでも、これ以上のない証拠を見てしまい、刑事として冷静に物事を判断してしまう塚原は、自身が今でも信じられないでいる答えを口にした。そして、


「正解だ。フィズは、全て倒されたわけじゃなかった。生き残ったフィズ達が一度姿を消しただけだったんだ」


 塚原の答えは正解であった。つまり、フィズが全て倒されていたという史実は、間違っていたということである。


「姿を消したフィズは、数年前から再び姿を見せるようになったんだ。もっとも、フィズが現れたらそのたびに私が戦って、殺していたから表沙汰になることはなかった。フィズが現れるのが人気の少ない山や海付近だったことも幸いしてな」


 姿を消したフィズが姿を現してもその存在を塚原を含む人々が認知しなかったのは折津がフィズと戦っていたことと、フィズが人気のない場所に現れていたためだった。


「で、フィズと戦っている過程でシスター達に出会ったんだ」

「達?」

「この教会には私以外にも多くの人間がいます。そして、私を含むこの教会にいる皆がある組織の一員なのです」

「どんな組織なんです?」

「残存フィズ調査会。簡単に説明するならフィズがまだ生き残っていると考えて調査をしていた者達の集まりです。昔は多かったんですよ、私達みたいな組織」


 少し懐かしむような様子でシスターがそう言葉を口にする。


「調査、ですか。ということは、フィズの痕跡を探していたんですか?」

「その通りです。私達はずっとフィズの痕跡を探していました。その過程で色々と知識をつけていたので、主に折津さんがフィズと戦ったあとの処理などをしていました」

「私としては大助かりだったよ。シスター達は完璧に痕跡を消してくれているからな」

「……あー、そういうことを現役の警察官の前で言われるとなぁ」

「ですが、正直に言わなければあなたが私達のことを疑い、色々と嗅ぎまわってあらぬ誤解を受ける可能性がありますから、正直に言った方が得だと考えました」

「それは、否定できないですね」

「まぁ、そんなわけで私はシスター達協力のもと、フィズを殺すためフィズを探しているんだが、フィズを探す場所ってのは基本人気の少ない場所。つまり、うろついていたら不審者扱いされそうな場所がほとんどだ。で、普通の格好をしていて不審者に思われるよりは、セーラー服を着て不良少女がうろついていると思われた方がマシだからセーラー服を着てカムフラージュしているんだ」

「そういうことか」


 その説明を聞き、塚原は折津の格好に納得した。


「さてと、塚原。ここまでの話は理解したか?」

「ああ。……正直に言って、まだ信じ切れてはいないが、フィズが生き残っていて、お前がフィズと戦っている。これが、事実なんだな」

「よし、なら次だ。実は最近、フィズ達が街に出没するようになったんだ。何とかフィズの存在が表に出ることはないようにしてはいたんだが、とうとうフィズが原因で犠牲者が出始めているんだ。この県内でな」

「県内で犠牲者が? …………おい、ちょっと待て」


 折津の言葉を聞いた塚原に嫌な考えがよぎる。


「その顔は、心当たりがあるんだろ。まぁ、警察官であるお前ならすぐにピンときて当然のことかもな。今、県内で起こっている連続殺人事件。犯人はフィズさ」


 それは、塚原にとって最悪の事態だった。

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