第231話 マリア誕生
12月22日 日曜日PM9:00
セブシティからバランバンに帰ってきた。庭に着地した俺を見つけたプチが喜び、周りを走り回る。
庭に干したままになっていたTシャツに着替えた。着ていたシャツの背中には小さな穴が、いくつか開いていたのだ。
音を聞き付けた妹がドアを開けてイザベルに言う。
「おねーちゃん。トールさん帰ってきた」
ドアに歩くとイザベルが俺を迎える。
「早かったね」
「それほど積もる話も無かったからな」
「お腹空いてない?」
「大丈夫だ。眠いな」
寝室に上がってシャワーを浴びた。
イザベルとベッドで横になる。
12月23日月曜日AM9:00
財団の事務所に着くと、突然イザベルが産気付く。
ハイラックスにイザベルを乗せて近くの病院に向かった。
午前11時。赤ん坊の産声が響く。
女の子が誕生した。
俺の頭に赤ん坊の意識の声が伝わる。
「おとうさん。こんにちわ・・・」
俺も自然と答える。
「こんにちわ。元気に育てよ」
予定日よりも大分早い出産だが、俺もイザベルも不思議には思わなかった。普通の子では無いのだ。
12月24日クリスマスイブ。
教会でのミサが終り、自宅でパーティーが開かれた。
イザベルも夜になって病院から俺達の娘、マリアを連れて戻っていた。
パーティーは庭で開かれ、約100人が集まり、リビングに置かれたベビーベッドに寝かされたマリアを全員が覗きこんでいく。
俺は、マリアが来た人を全員覚えているような気がした。
2020年4月4日土曜日PM2:00
風に吹かれて散っていく桜の花を見上げていた。
花吹雪越しに完成間近の中本寮が見える。敷地内に20本の桜の木を植えていたのだ。
寮は途中で設計変更され、100人の学生が入れるようになっていた。
既に半数の部屋には寮生が入っている。
俺の横に立っていた娘達は寮を見上げている。一見、高級マンションと思えるような作りだ。
綾香が言う。
「家賃いくらなの?」
「無料だよ。電気代も月に1万円までの分は無料だ」
マキが言う。
「ただ? ただなの?」
「そうだ。だけど入れるのは優秀な学生だけだ」
通り過ぎる学生が俺に気づき挨拶していく。
神原の運転するアルファードに乗り、敷地の出口に向かう。
守衛がゲートを開けてお辞儀する。
娘達に聞く。
「帰るか?」
綾香が言う。
「私達は原宿で降りる」
「そうか。俺は用を済ませるから、この先で降りるぞ」
昭和通りに出た所で俺は車を降りた。娘達が俺に手を振る。
昭和通りから左に入る。
ブラブラと7、8分も歩くと吉原に出た。久々の高級ソープに向かう。
待合室には他に客が1人いた。俺の方をチラッと見て、雑誌に目を戻す。
ボーイが持ってきたアルバムから1人の女の子を選ぶ。
15分ほど待ってくれと言われて、運ばれたコーヒーに口を着ける。
その時、入り口の方が騒がしくなる。見ると、小太りの2人の中年男がボーイと揉めている。
「済みません。日本人専用なもので」
「ワタシ ニホンジンネ。ナンデ ダメカ!」
「中国の方ですよね・・日本の免許証か何か見せて貰えますか?」
「メンキョ ナイ タクシー キタ」
「他の店に行って下さい。中国の方でも大丈夫な店も有りますから」
「ココニ キタヨ ナンデ ダメカ!」
もう1人の客も喚く。
「ソウ ワタシ チュゴクジンネ。チュゴクジン ナンデ ダメカ ソレワ ジンシュサベツ、イケナイ」
「ここは日本人専用ですから。外国の方は皆さんお断りしています」
「ワタシ ミタヨ ユーチューブ。ソープランド キマシタ チュゴクジン」
店内からマネージャーらしき男が出てきて応対にあたり、ボーイが何処かに電話している。
外では相変わらず押し問答が続いている。
数分後、3人の見るからにガラの悪そうな男達が駆け付けて、2人の客を連れ去った。
吉原を仕切っているヤクザ達だろう。
ボーイに案内されて俺が選んだ娘が歩いてくる。ミニのドレスから伸びた脚がセクシーだ。
「ユミカです。ご指名有難うございます」
個室に入る。
23歳だと言うユミカは120分間、俺を楽しませてくれた。
料金とは別に1万円をチップで渡すと、自分の名刺に携帯の番号を書いて渡してきた。
「生理の時以外は12時から夜9時まで、ここにいるんだけど、それ以外は自由だから・・・」
ボーイ達に見送られて外に出る。ブラブラと浅草方面に向かって歩く。
言問通りを渡った所でタクシーを捕まえて自宅へと向かう。
明日は中本寮の完成パーティーだ。
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