第230話テロリスト再び

12月22日 日曜日

 山道で止められたバンを覆面の男達が取り囲む。

 又、NPAの連中か。

 俺は高度を下げながら光の玉を撃った。AK47ライフルを持った5人の覆面を倒してバンの横に降り立つ。


 バンの中にも銃を持った覆面がいて俺に向けて銃を突きつけてきた。

 バンの中には血が飛び散っている。

 覆面の動きを念力で止める。

 後部の4列のシートに座った乗客は座ったままで射殺されている者もいれば逃げようとして背中を撃たれて倒れている者もいる。

 念力で止めた覆面の隣、1人だけ黒い袋を頭に被されて震えている者がいる。若い男のようだ。

 覆面の男の心臓を念力で締め付けて止める。外に放り出した。

 峠のセブシティ側から来たバンが、タイヤを軋ませて止まり、バックで逃げていく。


 3列目のシートからうめき声がする。生存者だ。

 腹を撃たれて呻いている。顔を見るとカジノで会ったジュリだった。

 ジュリを席から外に引きずり出して道路に寝かせる。

 血まみれのシャツをめくると肋骨の下辺りから侵入した弾丸は背中側に抜けている。

 腹部に空いた穴は小さいが背中側の穴が大きいかも知れない。

 ジュリを俯せに寝かせて背中に手をあてる。

 神経を集中する。

 何台かのバイクや車が来るが、辺りの様子を見て逃げていく。

 ジュリにあてた手に集中する。

 手が暖かくなり、微かに黒い粒子が出てくる。更に集中する。


 俺の後ろから声がする。

 ビサヤ語で叫ばれても分からない。

 無視してジュリに集中する。

 銃声と共に俺の背中に衝撃が来る。

 英語での叫び声。

「警察だ! 手を上げてこっちを向け!」

 ジュリの背中の穴が塞がって来ているのが分かる。もう少しだ。

「手を上げろ! 撃つぞ!」

 口の中で罵る。

『もう、撃ってるだろ。バカ野郎』

 ジュリに集中する。彼女の呻き声が荒い息に変化している。

 もう少しだ。更にジュリにあてた手に意識を集中する。

 拡声器での怒鳴り声。

「5つ数える。手を上げてこっちを向け。さもないと撃つ!」

 うつ伏せになっていた彼女が身体を反転させて仰向けになる。

「1、2、3!・・」

 俺を捉えたジュリの目から涙が流れ出る。血まみれの彼女が言う。

「私、生きてるの?」

 拡声器の声が響く。

「4、5!・・」

 銃声と共に背中に数回の衝撃。

 警官達を振り返って言う。

「彼女に当たったらどうするんだバカ野郎!」

 警官達が銃を前に突き出して、ヘッピリ腰で歩いてくる。

 ジュリに顔を戻して言う。

「大丈夫だ。生きてるぞ!」

「あなたは・・」

 ジュリを抱き起こした。その瞬間頭を殴られた。痛い。

 振り返ると若い警官が特殊警棒を持って俺を見ている。

「イテーだろ、バカ野郎!」

 後ろから来た年嵩の警官が言う。

「マスター!・・マスターじゃないですか!」

 バランバン警察の俺の格闘技の弟子だった。

 自分の頭を触ると、コブにはなっていないが少し痛い。

 若い警官が年嵩の警官にビサヤ語で何か言われ、そして驚く。


 数台のパトカーと救急車が来ていた。

 ジュリはパトカーの後部座席に乗せられた。黒い袋を被されていた男は別のパトカーに乗せられる。

 警官に言う。

「彼女はバランバンじゃなくて、シティの病院に連れてってくれ。精神的なショックが大きいから」


 袋の男はバランバン市長の甥っ子らしく、後から来たパトカーでバランバンに向かった。


 ジュリが乗ったパトカーに行き、声を掛ける。

「シティの病院で診て貰え。その内、連絡するよ」

「はい。でも私、撃たれた筈なのに・・・」

「驚いただけだろ。運が良かったんだ」


 ジュリから離れて警官に言う。

「彼女に俺の事は何も言うなよ」


 ジュリを乗せたパトカーが走り去って行く。

 

 警官達がバンの中の運転手と乗客達の遺体を道路脇に並べている。17人の被害者だ。

 息をしなくなっていた6人のテロリストの遺体は別の場所に並べられた。

 道路を塞いでいたテロリストの車がどかされる。


 1台のパトカーが俺のすぐ横で急停車した。後部のドアが開き1人の警官が飛び出てくる。

 バランバンの警察署長だった。

 辺りの惨状を見て、俺の顔を見る。

「ミスター ナカモト。怪我は無いですか?」

「俺は頭を殴られただけだから」

「連中の銃で殴られたんですか?」

「いや、ポリスの警棒だ。油断してたから結構痛いな」

「ナカモトさんもバンの乗客だったのですか?」

「通りがかりだ。細かい事はいいだろ。連中を始末したのは俺だ。あんたらが連中を始末して、2人の救出に成功した事にすればいいよ」


 警察署長は6人のテロリストの遺体が並べられた方に歩いて行った。

 他の警官と何か話している。


 俺は瞬間移動のようにセブシティ側に走り、そして飛び立った。


 ジュリの乗っているパトカーを見下ろしながら飛ぶ。

 峠をシティ側に降りて街中に入った。ひと安心だ。

 もうゲリラに襲われる事も無いだろう。


 セブシティのウォーターフロントホテルに着地した。ジュリと出会ったカジノがあるホテルだ。数時間は潰さないとならない。


 


 





 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る