第218話パラワン島の施設候補地

12月16日月曜日AM10:00

 帝国ホテルをチェックアウトしてアンをマンションまで送る。

 屋根を開けてオープンにし、ゆっくりと走る。


 信号待ちで止まると、通行人や隣の車からの視線が車とアンに向かい、最後に俺に来る。


 何度目かの信号待ちで、右隣に旧型のメルセデスEクラスが止まり、運転席の男がこっちを見ている。

 男の顔を見る。30代か。

 嫉妬の顔が歪んでいる。

 助手席の窓を開けて男が言う。

「オッサン! いい女が、何であんたに付いてるか分かるか?」

 男は車の外に唾を吐く。

 嫉妬男に言ってやる。

「バカ野郎、金に決まってるだろう」

 隣のアンが笑う。

 念力で男の車のエンジンを止める。

 男はエンジンを始動しようとスターターを回すが掛からない。

 俺は右腕を車の外に垂らして、男から見えないように、光の玉で前後のタイヤに穴を開けた。

 メルセデスが左に傾く。

 男が吐き捨てる様に言う。

「チキショー!」

 信号が変わり俺が言う。

「そんな所に止まってたら邪魔になるぞ。ローンも終わってない中古車だろ。大事にしろ!」

 男は歯ぎしりしてハンドルを叩いた。

 ベントレーは静かに走り出す。

 

 アンが言う。

「普通の人達を苛めないの!」

「向こうから絡んで来たからな」

「ちょっと、かわいそう」

「上を見て欲しがらず、下を見て蔑まず(さげすまず)」

「難しいかもね」

「昔は俺もそうしてた。特に欲しい物もなかったよ。無理な事は望まなかった」

「今は何でも買えるし何処でも行けるようになった・・・」

「銀座でピンクの酒も飲める」


 アンを本郷のマンションで降ろして松涛の自宅に戻った。


 俺の個人口座やNPOの口座が有る三菱東京銀行に電話する。担当者に代わって貰い、近々フィリピンに送金を頼みたいと言うと、いい返事が帰ってこない。

 200万円迄ならどうのこうのと面倒な事を言うので、これから口座を解約しに行くと言うと、送金を受け付けると言う返事と共に手順を説明してくる。

『初めからそう言えバカ』

と、心で叫んで電話を切った。

 

 幸恵に作って貰った早めの昼食を済ませて、フィリピンに向かう用意をする。フィリピンのペソも少額しか無かったが持っていく。

 飛行服の下にはジーパンを履いてTシャツを着る。

 パオの頭を撫でて飛び立った。



 フィリピン・パラワン島に午後2時に到着した。

 イザベルとはロビンソンデパートの1階、コーヒーショップのパラワンコーヒーで待ち合わせていた。

 

 イザベルの姿はまだ見えない。

 アイスコーヒーとパンを幾つか選んで席に着く。

 周りには若いカップルや学生のグループがいる。


 パンを食べ終わって一息つくと、入り口から歩いて来るイザベルが見える。

 花柄のワンピースが上品だ。膨らんだお腹が俺の妻を感じさせる。

 俺の向かいに座ったイザベルに言う。

「マイ ベイビー」

「マイ ダーリン」

 軽くキスをしてイザベルに聞く。

「何処か見つかった?」

「ここのすぐ近くに有ったみたいなの。もうすぐ来る筈なんだけど」

「何か飲むか?」

「要らない、大丈夫」

 イザベルは俺の前に置かれていたグラスの水を飲んだ。


 入り口からワイシャツ姿の男性が手を軽く挙げながら歩いて来る。

「私のNBI の時の同僚なの」

 彼も席に着き簡単に自己紹介をした。彼はパラワン島のNBI支部長で名前はトム。

 いろいろな情報を持っているようだ。

 トムが言う。

「ここから少し北に行ったハイウェイ沿いの土地で2ヘクタール有ります」

「2ヘクタールって言うと2万平米か」

 イザベルが聞く。

「平米幾らなの?」

「2ヘクタールを全部買って貰えるなら平米7000ペソと言っています」

 イザベルが言う。

「高いわね。140ミリオンじゃない」

 俺が言う。

「ハイウェイ沿いだからな。土地はハイウェイから見て低くないのか?」

 トムが答える。

「少し下がってます。現地を見ましょう」


 俺達はトムの乗ってきたトヨタ・アルティス(日本名カローラ)に乗って移動した。

 北に向かって3分も走ると現地に着く。間口100メートル奥行き200メートルで一応は造成済みだったが、面しているハイウェイが舗装される前に高さを合わせた様で、今では50センチ程、道路より低くなっている。

 トムが言う。

「所有権は、はっきりしてますので問題無いです」

 俺はイザベルに聞く。

「どう思う?」

「奥に広いから騒音の問題も少なそう。場所は便利でいいと思う」

 トムが言う。

「小さな土地だと平米1万ペソを越えていまけど、2ヘクタールまとめてのディスカウントですね」

 イザベルが男に言う。

「あなたにコミッションはいくら入るの?」

「参ったな・・・コミッションは全部で3%ですけど、知り合いの紹介者と折半なので、私には1.5%です」

「1.5%でも2.1ミリオンになるじゃない」

 トムは言う。

「その代わり、土地のかさ上げは地元の業者に安くやらせます」

 俺が言う。

「いいじゃないか。いろいろと、これから世話になるだろうからね」


 俺はトムと握手した。

 

 トムと別れてイザベルとホテルに向かった。

 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る