第217話リタイヤメントハウス計画

12月15日午後3時

 昼飯後に更に2人の患者を診た。


 二階堂と和室に座る。

 今日の小切手の金額を入れると、NPOの残金が2100億円以上で俺の個人の金が口座に504億円と金庫に約2億円。

 何かをやろうと2人で考える。

 いろいろなアイデアから最終的に残ったのが、リタイア後に暮らせる施設を作ろうと言う事だった。


 候補地として上がったのが、沖縄、セブ、パラワン島だった。

 俺が今の力を得たのはパラワン島だったので、パラワン島を第一候補とした。

 明日、フィリピンのパラワン島に行く事に決めた。

 イザベルにパラワンで合流するように電話する。

 二階堂も行きたがったが、台湾の騒動が終わったばかりの今、JIAの仕事を抜ける訳にはいかなかった。


 和室の外が騒がしくなる。

 娘達が帰って来たようだ。二階堂は赤坂の事務所に戻って行った。


 リビングに降りると、一度部屋に戻っていた娘達も降りてくる。


 ソファーに座っていた俺の隣に座って綾香が言う。

「どこか暖かいトコに遊びに行きたいな」

 マキも綾香の反対側に座り、俺の腕にしがみついて言う。

「英語が使える所がいいな」

「ハワイとかか?」

 綾香が言う。

「でもさ、オジサン忙しいんでしょ?」

「神原夫妻と行ってくるか?」

 2人は歓声を上げる。

 キッチンにいた幸恵が出てきて言う。

「何か嬉しい事が有ったのかしら?」

 俺が幸恵に聞く。

「幸恵さん、パスポート持ってるよね?」

「はい。主人とグァムに4年位前に行った時に作りましたから」

「じゃあ、神原さんも大丈夫だな」

「何がですか?」

「この、2人を連れてハワイに行ってくれるかな」

 幸恵はキョトンとして声が出ない。

「2人のお守り役だな」

「私達、英語も出来ないし」

「この2人が勉強してるから大丈夫だよ。ある程度は日本語も通じるし」

「何か、夢みたいな話で・・」

 パオの事に気がつく。

「パオはどうしようか?」

「いつも来て頂いてる獣医さんが必要な時は預かってくれるって言ってましたから、大丈夫だと思います」

「電話して聞いてみて。明日から預けて6泊位で」


 パオは明日の夕方から獣医に預け、神原夫妻と娘達は明後日の火曜日からハワイに行くことになった。

 チケットやホテルは東洋旅行社に電話一本で手配が済んだ。

 ANAのビジネスクラス往復を4人分と、ホテルはハレクラニのデラックスルームを2部屋だ。

 合計180万円はカードで決済してくれた。


 1階から、幸恵に呼ばれて上がって来ていた神原は、恐縮しながらも喜んでいる。

 綾香が言う。

「オジサン・・着ていく服が無い」

 マキも同調する。

「私も無い」

 俺が言う。

「暖かいから裸で大丈夫だよ」

 2人は駄々をこねるように抱きついて来る。

 幸恵に言う。

「明日でも2人と買い物に行ってきて」

 綾香が言う。

「今から行く。私達2人の方がいいよ。幸恵さんを待たせちゃうから」

 

 和室に行って財布を取ってきた。

 中から10万円を出して2人に渡すと、飛び出すように出掛けて行った。


 神原には100万円を渡し、夫妻に必要な物や娘達のスーツケースも買って来るように言う。

 残りはハワイでの食費等に充ててくれと言った。

 神原が言う。

「こんなにして頂いて有り難うございます」

「我が儘な娘達だから、宜しく頼むよ」


 俺は1階のガレージに降りた。

 ベントレーのエンジンを掛けると、奥の事務所からNPOの責任者にしている香川が出てくる。

 香川が俺に言う。

「二階堂さんから聞きましたが、フィリピンにリタイヤメントハウスを作るそうですね」

「そうだよ。いいアイデアだろ? 警備員と看護師が常駐だ」

「素晴らしいです。若い人ばかりでなく、高齢者の事も考えておられるのですね」

「俺自信が高齢者だからな」


 アンに電話する。銀座は今日は休みだ。

「久しぶり。何してる?」

「驚いた。絶対に忘れられたと思ってた」

「バカな事言うなよ。物凄く忙しかったんだ。忙しいか?」

「今ね、部屋の掃除をしてたの」

「迎えに行くよ。日曜日に行きたい所はどこだ?」

「どこもない。2人でゆっくりしたい」

「ホテルでゆっくりするか?」

「いいね」

「30分で行くよ」

「分かった」


午後5時

 アンのマンションの前に着き、アンに電話する。

 珍しくバンツルックだが、人目を惹き付けるスタイルと美貌だ。

 車に乗ったアンが言う。

「また、車代えたの?」

 ゆっくりと車をスタートさせながら言う。

「いや、買い足しただけだ」

 幌の内張りに触って言う。

「オープンカーなのね。何て言う車?」

「ベントレー」

「ドイツ?」

「いいや、一応イギリス製だけど、ドイツの血が入ってる」

「メルセデスより、ちょっと上品な感じね。クラッシックな部分もあるし。成金趣味的な部分が素敵」

「アンの批評はいつも鋭いな」

「車の事は分からないけど、シートやドアの内側なんかを触った感じが違うのよね。前の部分もプラスチックじゃなくて本物の木でしょ?」

 インパネの時計に触れて、更に言う。

「これってオーディマ・ピゲじゃない」

「車屋に時計はどうするって言われて、これにしたんだ。でも車用の100万位の奴だから、特別高いピゲじゃないよ」

「完全なスケベオヤジの車。素敵」

「店はどうだ?」

「お陰さまで繁盛してます。トールが来てくれると盛り上がるんだけど」

「悪かったな。明日から又出掛けなきゃならないけど、帰って来たら店に顔を出すから」


 車は帝国ホテルのエントランスに滑り込んだ。顔見知りのドアマンに車の鍵を預けてフロントに向かう。

 

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