第215話 戦争って
西から台湾に向かって来る中国空軍の大編隊に向かって飛び上がる。
高度3000メートル。手当たり次第に光の玉を撃ち込む。
100機を越える編隊は散開して台湾に向かおうとする。上下左右に広がられると追いきれない。
1秒に3発のペースで光の玉を撃つ。
後方からH6爆撃機2機が飛んで来るが、与那国島駐屯地から発射されたであろうペトリオットミサイルで撃墜された。
低空に逃げた4機のJ20がアフターバーナーを燃焼させてスピードを上げて台湾に向かう。
カナード翼と呼ばれる特徴的な翼を持つ戦闘機だ。最高速はマッハ2.2と言われている。
直ぐにミサイルを発射されそうだ。
追いかけて上空から光の玉を4機に撃ち込む。
翼を破壊しただけだったが、高速で飛行していたJ20は空気抵抗で瞬間的にバラバラになり海へ落ちていく。
台湾の陸地まで僅か5キロ地点だ。
俺は高度を1000メートルに保ち、迎え撃つ体制を取る。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。
大陸側から飛んで来る物体全てに向かって光の玉を撃つ。
無数のミサイルや戦闘機を撃墜する。上空でドッグファイトしている戦闘機には手を出さない。自衛隊機を撃墜するわけにはいかない。
いくつかの爆発は俺の50メートル横と言う至近距離で起こる。
直ぐ横を落下して行く中国機もあった。
80機以上を撃墜し、200を越えるミサイルを破壊しただろうか。
意識が薄れてくる。空腹だ。
正面から中国軍のJ10が機銃掃射しながら向かって来る。
最後の力を振り絞って光の玉を撃ち込む。片翼を失ったJ10の機体が俺の身体に激突した。
海へと落下していくが、踏みとどまる力が残っていない。
海面が近づいて来る。
戦闘機が身体に激突した時よりも、海面に激突した衝撃が大きかった。
目の前が暗くなる。
目を開けると白い天井が見えた。
とうとう神の国に来たのかと考える。天使は美人だったら良いのにと思っていると目の前に二階堂の顔が現れた。
「何でお前なんだよ」
「何でって、どういう事ですか? 丸3日も意識が無かったんですよ」
「ここは何処なんだ?」
「那覇の病院です」
「那覇・・・台湾だったよな」
「中本さんは台湾の漁港近くで漁師に助けられて、まあ、それからいろいろあって、自衛隊が中本さんを引き取ってここに来たんです」
「そうか・・・与那国に置いてきた俺の荷物は?普通の携帯とか財布」
二階堂が俺の小さなバックを渡した。持ち物は無事に揃っていた。
二階堂に聞く。
「今は何日だ?」
「12月14日の土曜日です」
「何時だ?・・俺の時計は?」
「横のテーブルに置いてありますよ」
ベッド横のテーブルにオメガのシーマスターが置いてあった。
午後4時だ。
二階堂に言う。
「腹減ってないか?俺はステーキ食いに行くぞ」
「ちょっと待って下さい」
二階堂が電話を取り出す。
「何処に電話するんだよ」
「総理に中本さんの無事を報告しないと」
「そんなの後でいいだろ。3日も眠ってたんだろ? 少し位、遅くなっても関係ないだろ」
「いや、報告だけしておきます」
二階堂が用意してくれていた服を着る。ジーパンとTシャツだ。
久々に美香に電話する。
漁協売店に迎えに行くことになった。
二階堂が総理への報告を終えて戻って来た。俺が聞く。
「そう言えば、台湾はどうなったんだ?」
「中国は台湾の独立を認める事になりました」
「あの後、どうなったんだ?」
「結局、中国側は航空機を150機以上失って、海軍が出てくる事も無く終わりました。台湾の空軍に艦船や飛行場もやられましたから」
「そうか、良かったな」
「約束の報酬は送金済みだそうです」
「よし、ステーキ食いに行こう」
漁協で美香と落ち合って、88ステーキに向かう。500グラムの霜降り肉とオリオンビールで腹が膨れる。
美香が俺に言う。
「台湾と中国が戦争になったの知ってますよね?」
二階堂が一緒だから少しよそよそしい。
「ああ、自衛隊も協力したみたいだな」
二階堂は何も言わずにブルーシールアイスを食べている。
「戦争なんて本当に嫌!沖縄からも戦闘機が沢山出てったの」
「平和が一番だもんな」
「オバアは戦争が始まったってニュースを見たとたんに涙を流して、お祈りしてた。戦争を知ってるから」
「オバアが・・・」
「人が殺し合うなんて、勝っても負けても神様は許さないって」
「そうだよな。戦争なんて兵士に取っては、知らない人間に言われて、知らない人間を殺しに行くんだもんな」
俺は何人の人を殺したのか。
自分が言った言葉で胸が痛くなる。
撃ち落としたパイロット達にも家族や恋人がいただろう。
ステーキ屋で二階堂と別れて美香とオバアの家に行く。
二階堂には、明日の昼には東京に戻ると言った。
午後6時のオバアの家の縁側に座ってオリオンビールを飲む。
美香は風呂に入っている。
オバアがモズクの入った皿を持って来て何か言うが、相変わらず分からない。
膝に載ったネコを撫でながら、夕陽で赤くなった空を見た。
理由も無く涙が出てくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます