第200話香港の金正恩

12月5日PM4:30

 飛行用の箱の改造を見ている。


 護衛艦『あたご』からヘリでJIAの戸田ファクトリー上空に来て、二階堂と飛び降りていた。


 そばにはジェーンも立っている。

 通訳として香港に俺と行くのだ。


 JIAのメカニックが来て俺に言う。

「30ミリ機関砲でも貫通しないですよ。流石にミサイルには負けるけど」


 香港のペニンシュラに行くまでに攻撃を受けた場合を考えての改造だった。俺の飛行能力が上がっているので、背負う物が100キロ重くなっても問題無い。

 

 近くの吉野家で牛丼を買ってきて貰っていた。大盛牛丼を食べて、ジェーンが入った箱を担いで飛び立つ。


 大きな箱を背負っているので高度を14000メートルまで上げてもスピードがそれ程出ない。

 箱の中のジェーンは、タンクからの酸素供給で問題無いようだ。寒さ対策で寝袋に入っている。


 約1時間で沖縄を通過した所で高度を下げて着地点を探す。久米島だ。

 大きな亀の甲羅の様な石が並んでいる海辺に着地する。


 箱の扉を開けてジェーンの顔を見る。寝袋から腕を出し、笑顔で親指を立てるので、抱きついてキスした。

 ジェーンと一緒に寝袋に入れて貰っていたオニギリとウーロン茶で腹を満たして再び飛び立つ。


 ここまで来れば香港までは1時間も掛からない。


 台湾を通過し、大陸を右下に見て夕陽を追いかける様に飛ぶ。

 高度を1000メートルに落とす。

 突然、銃撃を受けた。箱に被弾する。

 星印を付けたミグが2機追いかけてくる。

 マイクに向かって話す。

「ジェーン、大丈夫か?」

「私は大丈夫」

 補強しておいて正解だった。

 スピードを落とすと同時に急上昇する。下に来たミグの1機を光の玉で撃ち落とし、もう1機の操縦席のキャノビーにしがみつく。

 中を見ると操縦士が慌てている。

 キャノビーを破壊し、操縦士のマスクを剥ぎ取りヘルメットのバイザーを上げて顔を見る。中国人だ。

 目を剥いて俺を見ている。

 念力で操縦士の動きを止め、操縦桿を引きスロットルを全開にしてミグから離れた。

 急上昇して行くミグを見送る。


 操縦士は8000メートルを過ぎれば確実に意識を失うだろう。そのまま2万メートル位まで行くのかと思いながら香港に向かう。

 ジェーンの声がスピーカーから響く。

「どうなったの?」

「ミグだったよ。宇宙に向かってった」


 眼下には点々と灯りが灯っている。

 前方に一際明るい街が見えてくる。

 香港だ。


 香港島と九龍を繋ぐ3本の橋の西側と真ん中の中間、九龍側にペニンシュラホテルが有る。

 マイクのスイッチを押してジェーンに話しかける。

「香港に着くよ。金正恩はホテルに居るのかな?」

「ホテルからは出て、船に乗ってるようね。少し西の方から九龍に向かってる」

 箱の中で情報を受信しているようだ。


 大平山(ビクトリア・ピーク)山頂付近の人気の無い林に着地した。

 ジェーンを箱から出して抱きつく。

「後にして」

「後でならいいんだね?」

 ジェーンが腰に手を当てて言う。

「仕事が終わったら付き合いますから、お願いだから今は集中して」


 ジェーンをおぶって飛び上がる。

GPS の端末を持ったジェーンの指示に従って飛ぶ。

 北に少し移動すると海上に出る。

 高度500メートルで下を見る。

 背中のジェーンが指差して俺に言う。

「あの船。大きなクルーザー」

 船は東にゆっくりと進み、ヴィクトリア・ハーバーに向かっている。

 ジェーンが言う。

「多分、8時からの光のショー『シンフォニー・オブ・ライツ』を見る積もりね。今、7時50分よ」

「じゃあ、金正恩と一緒にショーを見るか」

 

 高度を下げてクルーザーに近づく。

 アッパーデッキに金正恩らしき人物と両脇に女。警護らしき2人。

 下の後部デッキには見張りが2人。

 後部デッキに向かい、見張りの2人の動きを念力で止める。

 デッキに降り立つと、ジェーンはサイレンサーを付けたグロックで、2人の眉間を無表情で撃ち抜いた。 

 微かな音を聞き付けた男がキャビンから出てくるがジェーンに頭を撃ち抜かれる。

 アッパーデッキに上がった俺は銃を持った2人を光の玉で片付ける。

 女達が悲鳴を上げると、俺の後から上がって来たジェーンが彼女らの頭を撃ち抜いた。

 いい女だったのに。 

 金正恩は椅子の上に転がり、口から泡を吹きながら何か言っている。


 クルーザーは、何も知らないキャビン内のキャプテンによってヴィクトリア・ハーバーの中央付近に向かって微速で進む。

 

 光のショーが始まった。

 香港島からレーザー光線によって夜空が彩られる。

 

 アッパーデッキの椅子に金正恩と並んで座った。

 震える金正恩の髪の毛を掴んで言う。

「久しぶりだな。一緒にショーを見ようか」

 金正恩と反対側にジェーンを座らせて肩を抱く。ジェーンに言う。

「2人だけで見たかったな、このショー」

 ショーは僅か10分ちょっとで終わってしまったが見事な演出だった。

 金正恩に言う事をジェーンが通訳する。

「お前はバカだな。日本に手を出すなって、この前言っただろ」

 金正恩の震えが止まらない。

 顔を俺に向けさせて言う。

「溺死したいか?それとも死んでから海に入るか?」

「何でもするから助けてくれ」


 ホテルの部屋に連れて帰る。秘密裏に香港に来ていた金正恩の警護は手薄だった。港からホテルまではペニンシュラホテルのロールスロイスが送迎する。

 プレジデンシャル・スイートの客は滞在中、運転手付きのロールスを好きに使える。

 

 部屋の前で4人の警護を倒して中に放り込む。

 午後8時40分。日本時間で9時40分。


 俺達を迎えた金正恩の妻のソルチュは金切り声を上げてジェーンに殴られた。

 ジェーンに殴られるのは2回目だ。


 スイートの窓からはヴィクトリア・ハーバーが見渡せた。

 金正恩は偵察総局の司令部に連絡している。スピーカーフォンを使わせた。横ではジェーンが聞き耳を立てている。

「原発から引き上げて投降しろ。それから、仕掛けた爆弾を全部回収して警察に渡せ。日本からは手を引く」

 指示通りの事を言わせた。


 30分後、ジェーンが日本にいる二階堂に連絡し、原発を占拠していた北のテロリスト達が投降したのを確認した。

 警視庁の前には20個の爆弾が届けられた。


 金正恩夫妻を拘束してダイニングルームの大きなテーブルに縛り付けた。


 ジェーンをベッドに押し倒す。

 俺の携帯電話が何度も鳴るが無視する。今は忙しい。


 午後10時半。ジェーンは裸でベッドに寝ていた。

 俺は冷蔵庫からビールを取り出して飲む・・・旨い。

 鳴り続けていた電話に出る。

 二階堂の怒鳴り声。

「どうしたんですか! さっきから電話してるんですよ!」

「わるいわるい。ジェーンと打ち上げをしてた」

「ベッドの上で打ち上げですか?」

「見てたのか?」

「どうでもいいですけど、金正恩はまだ殺さないで下さいね」

「夫婦で生きてるよ。女房はジェーンに殴られたけど」

「そうですか。今、ペニンシュラですよね。あと10分程で中国国家安全部がそこに踏み込みます。金正恩は彼らに任せて下さい」


 俺達は腹が減っていたので1階のレストラン『スプリングムーン』に来ている。

 国家安全部が踏み込んで来ても、騒ぎを起こした中心人物がレストランに居るとは思わないだろう。


 ジェーンが流暢な中国語で注文する。

 ミシュランの星が付いているだけあって、本格的な広東料理が出てきた。XO 醤発祥のレストランなのだとジェーンが説明する。

 アルコール類は注文してくれなかった。この後、日本まで飛ばなくてはならないので、仕方なくジャスミンティーを飲む。

 


 

 


 


 

 

 

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