第191話沖縄、そしてセブへ

11月20日沖縄

 陽の光が気持ちいい。肌を焼くほど暑くもなく、時折吹く風が涼しくも感じる。波の音が耳にも心地いい。


 頬に冷たいグラスが付けられた。

「トールさん。シークァーサージュースだよ」

 目を開けると美香がグラスを2つ持って微笑んでいる。

 起き上がってジュースを飲む。

 甘酸っぱい味が口の中に広がる。

 フィリピンのカラマンシージュースと同じだ。

 美香が言う。

「美味しいでしょ」

「うん・・・オリオンビールの方が良いけどな」

「家に帰ってから飲もうね」


 韓国を日本の植民地にして5日が経っていた。俺は2日前から沖縄で休日を楽しんでいる。


 二階堂は韓国で大忙しだ。

 韓国の情報機関である国家情報院を刷新し、その全てを日本の公安警察の下に取り入れる為に動いている。


 韓国軍は自衛隊の傘下になり、韓国警察と共に、龍山(ヨンサン)の元米軍基地を使う在韓自衛隊指令部が統率する事になっていた。


 経済面でも完全に日本が支配していた。1円=10ウォン前後の相場が1円=50ウォンになり、資産家の財産が激減した。

 政府の後押しを受けた日本企業の進出が目覚ましく、ヒュンダイは日産の傘下に、サムソンはシャープの傘下へと、韓国の大企業は全て日本企業に吸収された。

 財閥を頂点にした『カースト制』の様な社会は崩壊した。

 各製造業の工場では、従業員を学歴では無く『人』を見て大量採用した。

 給料水準も高かったので市民からは、自国の植民地化を歓迎して受け入れられた。

 警察官の一般市民への暴力も厳しく取り締まる。


 周囲の変化と共に、歪んでいた韓国社会が浮き彫りにされてくる。洗脳とさえ言われる反日教育も完全に撤廃された。



 美香の運転する赤いホンダNボックスは那覇の家へと向かった。

 今まで使っていた軽自動車の調子が悪いと言うので、ホンダディーラーに行くと、上手い具合にNボックスの新古車を見つけたのだ。走行距離10キロという新車同然の車で、俺からのプレゼントだ。

 軽自動車ながらターボ付のNボックスは元気に走る。


 家に着くと美香がオバアに言う。

「オバア、お腹すいた!」

「今、グルクン揚げるさぁ」

 沖縄の県魚、グルクンの唐揚げだ。


 窓が開け放たれた庭に面した居間に落ち着くと、美香がオリオンビールを持って来て隣に座る。

 缶の半分程を一気に飲んだ。

 縁側の猫が俺の膝に乗ってくる。

 油の中でグルクンが弾ける音と、オバアの鼻唄が聞こえる。

 ビールを飲み干して美香の膝枕で横になる。

 ゆうべの美香の姿態を思い出す。

 月の明かりに照らされて、弓なりにしなる美香の裸体。

 妄想を掻き消すオバアの声がした。

「たべるさ~」


 午後5時。フィリピンに行くために美香に別れを告げる。

 金に困っていないかと聞くと、オヤジの漁も好調だし、自分も働いているから心配無いと言われた。


 セブに向かって飛ぶ。

 JIAに最初に作って貰った青い飛行服を着ている。

 高度15000メートル以上まで上がり全速力で飛ぶ。セブ迄の距離は約1800キロだ。気圧が地上の8分の1近くまで下がるので空気抵抗が極端に低い。

 那覇で25度だった気温がマイナス65度まで下がる。

 上を見ると空が深い紺色に見える。

 20分で意識が朦朧とし、高度を下げる。下を見ると見覚えの無い地形と街が見える。

 高度1000メートルで来た方角に戻ると、馴染みのあるセブの地形が見えてくる。さっきのはネグロス島のドゥマゲッティの街だったようだ。


 約20分で1900キロ以上を飛んだ。時速で約6000キロ。マッハ5だ。


 バランバンの林に着地してスーツの上半身を脱いで家に歩く。 

 いつもの様に近所の人達から声が掛かる。笑顔で応えて自宅の門を開けるとプチが走ってきた。

 好きなだけ舐めさせる。


 母屋の方からショートパンツから綺麗な脚を見せている女の子が歩いてくる。

 ジュンの妹のマリアだった。

 フィットしたTシャツの胸に目が釘付けになる。

 マリアの学校や、ここでの仕事の話をする。


 ハイラックスが入って来たのにも気付かなかった。

「鼻の下が伸びてる!」

 振り返るとイザベルが腰に手を当てて俺達を見ていた。

 プチを呼んで誤魔化す。


 ダイニングテーブルにイザベルと並んで座る。マリアが、自分で作ったというポークアドボをテーブルに載せる。

 一口食べた。

「旨い!ウチの味だな。誰に教わった?」

 マリアが答える。

「イザベルさんです」

 イザベルの顔を見ると自慢げに言う。

「あなたの好きな味でしょ? ところで、あなたも韓国で暴れたの?」

「うん。大統領を北の軍隊から救ってやったよ。あいつ、ヘリコプターの中で、おにぎり要るかって聞いてやったのに怒ってたな」

「何だか良く分からないけど、韓国は日本の統治下になった訳ね」

「そうだな。こっちにも何か影響有ったのか?」

「セブシティから若い韓国人が居なくなってるわ」

「そうなの?」

「親からの仕送りではやっていけなくなったみたい。1ペソが20ウォン位だったのが、今では1ペソ150ウォン位になってるから」

「ウォンが弱くなったからか。もうすぐ韓国も日本円を使うようになるよ」

「韓国の一般の人達はどうしてるの?」

「日本を歓迎してるよ。金持ちは大変だろうけどね。財閥が韓国経済を仕切ってたんだけど、日本政府が、その財閥を解体しちゃたから」


 オヤジが網を仕掛け終わって帰ってきた。俺を見つけて抱きついて来る。

 マリアにビールを催促し、瓶を2本受け取ると1本を俺に渡した。


 オヤジとサンミゲルビール・ピルセンで乾杯する。

 



 

 


 

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