第190話文在寅救出

 SBU隊員を乗せたMCH-101ヘリコプターはソウルの西、約5キロの麻浦区(まぽく)へと向かった。

 時折、両側を飛ぶ米軍のAH-64ヘリコプター、通称『アパッチ』から地上の戦車や装甲車に向けてヘルファイア・対戦車ミサイルが発射される。

 

 俺はソウル市内から3機のヘリコプターの上空に位置して付いてきた。


 突然、低空で4機の戦闘機が通り過ぎ、旋回して引き返して来る。

 北のミグ23だ。

 アパッチがロックオンされるが、ミグがミサイルを撃つ前に光の玉で4機共撃墜した。


 ヘリコプター3機は大きな建物の裏庭に向かって降下して行く。


 麻浦中央図書館だ。情報では図書館の地下が軍事シェルターになっていると言う事だ。


 図書館の建物から銃撃があるが、壁を軽く貫通するアパッチの機関砲で黙らせている。

 アパッチの死角からRPGが飛んでくるが、俺の光の玉で撃ち落とす。


 自衛隊のMCH-101が裏庭に着地し、降りてきたSBU隊員が図書館の建物に背中を付ける。

 俺も着地して彼らと合流した。

 

 隊員に待つように合図し、図書館の裏口から入ると、直ぐに銃撃を受ける。AK47の重い音だ。

 弾は俺の顔を掠めて壁にめり込んだ。

 透視する。2人が裏口近辺にいる。更に表側から3人が走って来る。

 5人の位置が定まった時に光の玉を5発撃つ。

 振り返って、壁の後ろに隠れていた加島に言う。

「クリア!」

 20人のSBU隊員が屋内に入る。

 地下への降り口を探し始める。

 俺は正面玄関に向かった。長谷川が付いてくる。

 正面玄関側は無人だった。ガラスのドア越しに外を見ると、通りの反対側からRPGが飛んでくる。

 念力でRPGの向きを変える。射手に向かって戻って行くRPGは、隠れていた2人を吹き飛ばした。


 建物内部から隊員の声。

「昇降口発見!」

 図書館の受付カウンターの中に隠し扉があった。その隣にタッチパネルの10キーがある。暗証番号は分からない。

 加島が言う。

「C4で破壊しますか?」

 俺が言う。

「待て、開けてみるから」

 手をタッチパネルに当てて念じる。

『開け!』

 5秒後にタッチパネルのグリーンのライトが点きロックが解除された。

 重いドアを開けると中から銃撃。

 加島が中に向けて叫ぶ。

「日本のアーミーだ。助けに来た」



 MCH-101が離陸する。

 中にはシェルターから救出した、韓国大統領の文在寅と補佐官2名に警護の4人も乗っている。

 アパッチに守られて高度を上げ東へと飛ぶ。


 俺は高度2000メートルから街を見下ろした。

 ソウルも、西に見える仁川も火の手が上がっている。


 北を見ると、遠くに煙が上がっている。北の軍事施設を自衛隊が攻撃しているようだ。

 俺のすぐ下を日の丸を付けたF15やF35 が北に向かって通り過ぎて行く。



 MCH-101ヘリコプターは『あたご』に着艦していた。

 舞鶴へと向かう『あたご』の会議室で文在寅達は座っていた。SP達の武器は没収していた。


 MCH-101の増設されたタンクへの給油が終わり、再び文在寅と補佐官2人を乗せ、総理官邸へ向かって離陸した。警護の人間は『あたご』に残されている。


 面白そうなので、海上自衛隊幕僚長の河野や二階堂と一緒に俺も乗った。


 ヘリコプターの中で文在寅は何か喚いているが、誰も相手にしない。

 SBU隊員達は笑っている。

 警護の人間を置いてきぼりにした事を非難しているようだ。


 向かい側に座っておにぎりを食べ始めた俺に文在寅が言う。

「何を見てるんだ!」

 顔を真っ赤にしている。

 俺が言う。

「メガネ、汚れてるよ・・・おにぎり食べる?」

 更に顔を赤くして立ち上がった文在寅を、両側の補佐官が抑えた。

 ヘリの中は笑いに包まれた。



 総理官邸では金正恩と安倍総理の停戦交渉が行われていた。

 

☆朝鮮半島の南北軍事境界線の南側を日本が統治する事を認める。


☆捕虜として連行した韓国市民を無条件で全員帰国させる。


 以上の事を承諾されない場合、日本政府は北朝鮮への全面攻撃を行うと言う内容だ。


 既にミサイル基地を失い、頼みの中国も動いてくれない北にとっては、拒む事が出来ない条件だった。

 自衛隊の北への攻撃は今も続いている。返事が遅れる程、被害は大きくなる。


 米海軍第7艦隊は、万がいち中国が出て来た場合に備えて日本海に待機していた。


 金正恩は条件を飲んだ。


 その1時間後に文在寅を乗せたMCH-101が総理官邸のヘリポートに到着した。

 到着した文在寅と補佐官を総理の秘書が迎えた。彼らを総理執務室へと案内する。

 

 執務室の安倍総理は金正恩との交渉が済み、執務机で虎屋の羊羹を食べていた。

 向かい側には椅子が置かれ、官房長官が座っている。


 菅官房長官が羊羹の大きな塊を口に入れた時に、秘書と共に文在寅と補佐官2名が執務室に入る。


 河野と二階堂の後から俺も着いて行く。


 総理は椅子から立ち上がり、文在寅の前を素通りして俺の手を握って言う。

「お疲れ様でした。電話で一部始終の報告を受けてます。見事です!」

 文在寅が叫ぶ。

「おい!一国の大統領が来てるんだぞ!」

 安倍総理は文在寅を手で制して俺の肩に手を回して執務机に歩きながら耳元で言う。

「報酬は中本さんの口座に入金済みです。今後、韓国統治の件で出てくる問題もあると思いますので、お願いしますね。もちろん報酬は別に出ますので」

「大丈夫です。但し、韓国に長期滞在は嫌ですからね」

 文在寅の顔は再び真っ赤になり怒りに震えている。

 二階堂はその光景を、笑いを堪えて見ていた。



 


 

 

 

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