第192話ベントレー

11月21日

 朝からオヤジが捕ってきたエビを食べている。

 イザベルが、ガーリックバターで炒めたエビを俺は手掴みで食べる。

 残ったエビの頭を油で揚げて塩を振って食べる。香ばしくて旨い。


 ビールが欲しい!


 冷蔵庫の前に椅子を置いたイザベルには許可して貰えなかった。


 ハイラックスの荷台で、ふて腐れたままで事務所に連れていかれる。


 事務所に入るとスタッフが段ボール箱を指差して何か言っている。

 良く聞くと、水道を引いてくれたお礼だと言って、山側の住民達が持ってきてくれた芋だと言う。

 開けてみると『ガビ』と呼ばれているジャガイモと里芋の中間のような感触の芋が沢山入っている。

 何だか嬉しい。


 スタッフの女性が『芋煮』を作ってもいいかとイザベルに聞く。

 イザベルの了解を得て女性2人がキッチンに段ボール箱を持って行った。


 イザベルと学校の建築現場に行く。

 基礎工事は終わり、柱となる鉄骨が組み上げられていた。

 数ヵ所で溶接の火花が散っている。

 かなり立派な建物になりそうだ。


 50人程の人が働いている。半数は地元の人を雇ってくれたらしい。



 孤児院に移動する。

 イザベルの兄弟と叔父の親子が仕上げを頑張っていた。

 事務所から持って来ていた安倍総理からのお菓子を院長に渡し、それをスタッフが子供達に配る。 

 子供達の寝室となる新しい建物は完成間近だ。

 クリスマス前には、内装や電気工事等が終わって完成すると言う。


 爆破テロが有った教会に移動する。

 破壊された部分の修復は終わり、全体的に補強されて地震にも強い建物になったと言う。

 今はステンドグラスや天井の絵の修復をしている。

 

 司祭が出てくる。教会のスタッフが俺達を見つけて司祭を呼んだようだ。

 司祭が俺の前に来て手を取って礼を言う。

 司祭は何やらお祈りを始めた。

 イザベルが、手を合わせて目を閉じろと言う仕草をする。

 仕方ないので手を合わせて目を閉じた。

 直ぐに終わると思ったが長い。

 薄目を開けてイザベルを見ると睨まれた。

 3分程でお祈りが終わった。

 イザベルが俺に言う。

「あなたに神のご加護がありますようにって」

「そうか。それは良かった」

 尻を叩かれた。


 司祭に促されて教会の奥の部屋に通された。

 歴史の有りそうなカビ臭い部屋の壁は本で埋まっていた。


 司祭が俺に聞く。

「何を飲みますか?」

「んじゃビールを・・・」

「ダメ!」

 瞬間的にイザベルに却下された。


 薄い麦茶のようなお茶を飲みながら、教会の修復をした事を感謝される。ナカモト財団は総額で25ミリオンペソを寄付したらしい。


 教会を出て伸びをすると屁がでた。

 又、尻を叩かれる。

「神様に向かってオナラしないで!」


 事務所に帰ると『芋煮』が出来ていた。丁度、昼食の時間だったので、芋をつつきながら、持って来た弁当をイザベルと妹と食べる。

 タッパウェアに入ったおかずは、ソーセージと揚げた魚だった。

 肉を食べたい!


 午後の面接は一時終了していた。後のケアをするスタッフの人数的に限界だった。既に100人近くに奨学金を毎月渡している。


 警察署に行くと、顔見知りの警察官が声を掛けてくる。

 手の空いている連中を集めて格闘技のコーチをする。

 始めは4人が相手だったが、30分もすると20人が集まって汗をかく。


 相手に蹴りを入れる場合、ダメージを与える蹴りかたと、逮捕のために倒す蹴りかたの使い分けを教えた。

 倒す場合は膝から下を狙って、すくい上げるように蹴る。

 ダメージを与える場合は自分の脚を前に突き出す様に、相手の身体の中心線を狙う。

 人間の身体の中心線は全部が急所だ。



11月24日午後2時

 東京・渋谷。松涛の自宅に帰ってきていた。バランバンでは平和な3日間を過ごす事が出来た。

 幸恵の作った、冷凍物ではない餃子とチャーハンの昼食に満足していた。

 

 コーヒーを飲みながらテレビを見る。ニュースもワイドショーも、統治した韓国の話題が続いていた。


 午後3時になって神原が俺を呼びに来る。表に出てみると注文していた車が届けられた所だった。


 ベントレー・ニュー・コンチネンタルGT・コンバーチブル。


 イギリス製の4人乗りオープンカーだ。パールの様に光る白いボディと赤茶の革の内装がいい。

 イギリス車本来の右ハンドルだ。


 ツインターボが付いた6リッターの12気筒エンジンは635馬力を発生させる。

 価格は全て入れて3300万円だった。

 

 コーンズモータースの営業マンから簡単な説明を受けて、営業マンを横に乗せて走り出す。


 サイズ的には、幅が少し大きくなっただけでE63と大して変わらないが、大人しく走っていると質量の大きな物を動かしている感じがする。

 12気筒のエンジンは動いているのか止まっているのか分からない程静かだ。

 隣に乗った営業マンが『今は6気筒しか使っていません』と、たまに言う。負荷が低い時はエンジンの半分は休むらしい。


 青山通りに出て、前方が空いた時にアクセルを踏み込んでみる。

 一瞬ホイールスピンするが、直ぐに4輪に駆動力が伝えられ、シートに身体が押し付けられる。

 静かだった排気音がスポーツカーの音に変化する。

 2.5トン近い車が飛ぶように走る。


 信号で止まった時に営業マンが言う。

「最高速はメーカー発表で333キロです」

「東京タワーか」

 東京タワーの高さ、333メートルと同じ数字だと言ったのだが、若い営業マンには伝わらなかったようだ。


 自宅前に戻る。屋根を開けてオープンにしてみる。スイッチ一つで20秒弱で屋根の開閉が出来る。

 営業マンが言う。

「時速50キロ以下でしたら走行中でも開閉が出来ますが、トラブルを避ける為に、なるべく止まってからの操作をお願いします」

 

 一歩下がって車を見る。やはりオープンの時の方がカッコいい。

 

 幸恵がパオを連れて庭から降りて来て、車を見ていた。


 助手席のドアを開けてパオを呼ぶと、一声『ワン』と吠えて、パオは助手席に乗った。

 営業マンが慌てて言う。

「ああっ!シートは柔らかい革なので傷が・・・」

「いいの、いいの」

 シートが傷だらけになったら、革を張り替えればいいだけの事だ。

 俺は運転席に乗り込んだ。

 営業マンが書類にサインを求めてくるので、適当にサインして返した。


 パオを乗せてゆっくりと走り出す。

 営業マンの声が追ってくる。

「初回点検時のオイルは無料ですので・・・」

 後は聞こえなかった。


 青山通りから六本木、銀座と抜けてお台場に来た。パオはご機嫌で景色を見ている。

 信号待ちの度に、通行人や隣の車から写真を撮られた。

 ジャーマンシェパードのパオは立派な成犬の大きさになっている。


 お台場公園をパオと散歩した。

 自由の女神像を見て、パオは首を傾げていた。

 


 




 

  

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