第176話 教会爆破
10月27日 今日は日曜日で教会の日だ。ミサは朝6時から1時間毎に11時まである。
9時にイザベルに起こされた。10時のミサに連れて行かれるのだ。
母親と姉だけが一足先に9時のミサに出掛けた。子供を4人連れてトライシクルで行ったようだ。
ミサの後でレストランの昼食の用意が有るからという事で早く出掛けたのだ。
1階のダイニングでイザベルと隣り合って座る。オヤジが獲って来た魚で母親が作った干物と目玉焼きだった。
もちろんご飯だ。
9時半過ぎにイザベル、俺、オヤジ、妹、兄弟2人の6人で教会に向かう。
教会は財団事務所から300メートルも離れていない。眼と鼻の先だ。教会の駐車場は混みあうので財団事務所の駐車場に車を止める。
10分前には教会の入り口に並んでいないと席が無くなってしまう。6人で教会へと歩く。
あと100メートルという所で爆発音が響いた。教会を見ると入口の前に煙が吐き出されている。イザベルが叫ぶ『ゲッダウン!』ボーッとしていた俺の頭を押さえつけられた。
地面に伏せた俺達の周りにいろいろな物が飛んで来る。
立ち上がり教会に走ろうとした。
イザベルが再度叫ぶ。
「待って! 今、行ってはダメ。少し待って。ダブルトラップかも知れない」
イザベルに叫んだ。
「ここにいろ!」
俺は教会の入り口に走った。中から血を流した人達が出て来る。救助に入ろうとする人を止めるが聞かない。
親兄弟が中に居るかも知れないのだ。
「もう1発爆弾が有るかも知れない!・・・少しだけ待ってくれ!」
教会入り口で外から救助に来る人たちに叫んだが、必死で中に入って行く人達を止める事は出来ない。
イザベルの声がする。
「ダディ!」
オヤジが歩いて来る。教会の中に入ろうとするオヤジを抱きとめた。その瞬間、背後で2発目の爆発が起こる。
俺はオヤジを抱きかかえたまま前へと飛ばされた。
顔を上げると道路に寝ていた。10メートルは飛ばされたようだ。
腕の中のオヤジが動く。助かった。
背中を誰かが叩いている。音が聞こえない。見上げるとイザベルが布で俺の背中を叩いている。何かを言っているが声が聞こえない。
背中が熱い・・・着ていたシャツが燃えていた。
立ち上がってシャツを脱いだ。徐々に音が戻ってくる。
イザベルに言う。
「事務所で待っててくれ。俺が中を見て来るから。いつも右側の前の方に座ってるんだったな」
「お母さんは白いシャツで貝細工のクロスのペンダント」
結局、兄だけは付いて来る事になった。教会内部は酷い様子だ。内部は長椅子が前から3列に並べられており、その中央の前側と後ろ側で爆発が起こったようだ。
多分最初が前で2度目が後ろ側だ。
中央から周りに飛ばされるようにバラバラになった遺体が飛び散り重なっていた。あちこちが燃えている。右側の列を見て行く。折り重なった遺体の下から声が聞こえる。
遺体を何体か動かすと下から女性が出て来る。母でも姉でもない。誰かに腕を掴まれて見るとイザベルだった。
「オヤジは?」
「弟と妹が一緒だから大丈夫」
2人で遺体をどかしながら母親と姉と子供達を探す。
遺体の下や椅子の下から何人もの生存者を見つけたがうちの家族ではない。
3列ほど前でイザベルが叫んだ。
『ママ!・・』
イザベルの元に走り寄る。そこには一目で息絶えたとわかる母親の姿が有った。その横には、やはり遺体となった姉。少し離れた所に4人の子供達の遺体が横たわっていた。
全員が埃と血にまみれている。
ただ涙が出て胸が痛い。
母親と姉、4人の子供達の遺体を一か所に集めて寝かせた。不思議と、誰も顔には被害を受けていなかった。
兄がオヤジ達3人を呼んで来た。オヤジは6人の遺体の前に膝を着き、動かなくなった自分の妻を抱きしめた。
頬をさすり声を掛け揺する。天を見上げて大きく口を開ける。悲しみの余り声が出ない。俺にはどうすることも出来ない。立ち尽くすだけだ。
イザベルが泣いたのは初めだけだった。立ち上がると教会から出て電話をしていた。
警察が到着した。署長が来てイザベルと何かを話している。その後、現場の写真を素早く撮りつつ、負傷者や遺体を他びだすと教会出入り口にはテープが貼られ、警察官はテープの外で見張りをした。
教会の外の庭には子供30人を含む100人を超える遺体が並べられた。
遺体の並べられた隅のブルーシートにはバラバラになった腕や脚が隠されていた。
検視が終わっていないので遺体を引き取る事は許されなかった。
約3時間後、午後1時にヘリが到着する。中から5人の男達が下りて来た。1人は見覚えがあった。カビテで会ったCIAのマークだった。他の1人もアメリカ人で他の3人はフィリピン人の様だが3人は顔を隠していた。
マークは俺とイザベルの方に歩いて来た。イザベルを抱いてお悔やみを言っている。俺の事も抱きよせた。
他の4人は教会の中に入って写真を撮り、地面を這うようにしたり、教会の椅子に付着していたらしい何かを採取し、大きなプラスチックケース6個分の証拠品を集めた。
CIAにいたイザベルがフィリピン警察のスキルを信じられないのは当然だった。科学捜査等、未だにほど遠いのがフィリピン警察のレベルだ。
午後4時。6人の遺体を引き取って自宅に向かう。オヤジは口を利かない。魂が抜けたようになっている。
遺体をハイラックスの荷台に乗せて自宅に着いた。プチが近づいて来て尻尾を振っている。車から降りた俺達の様子を見て、いつもなら飛びついて来るプチが、大人しく座った。
建築を手伝っている叔父の一家が来た。11時のミサに行こうとしていた為に難を逃れたらしい。
叔父たちの助けを借りて、レストランの建物にテーブルを使って、6人分の寝台が作られた。
あまりにも沢山の被害者が出た為にバランバンには棺桶が足りない。
夜の8時頃までにはセブシティから棺桶が到着するらしい。
6人の遺体が寝台に並べられた。
叔父家族を含めて全員が抱き合って泣いていた。イザベルだけが俺の腕にしがみついて、俺と一緒にその光景を見ていた。
CIAのマークに言っておいた。
『金はいくら掛かってもいいから犯人を捜してくれ。犯人が特定出来たら、個人的に経費以外に100万ドル払う』
この街のほとんどの住人が親族に被害者を持つ事態だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます