第171話 日露戦争2019

10月20日 朝6時前に目覚める。『あたご』は動いているようだ。隣を見てもジェーンの姿は無い。甲板に出て見ると右舷側の空が明るくなっていた。すぐ後ろには護衛艦『ひゅうが』が続いている。ボーっと海を眺めていると河野が横に立った。

「全艦出撃です。『ひゅうが』『みょうこう』『ふゆずき』『あさぎり』・・・・呉からの第4護衛隊と第12護衛隊は左舷側を並走しています。佐世保からも第5護衛隊が出ています。全部で20隻」

「完全な戦闘態勢ですね」

「全ての隊員に取って初めての戦闘です。乗船を拒否した隊員は2人しかいませんでした。自衛隊にもサラリーマンが多いので、100人単位の退官者が出るかと思いましたが」

 ジェーンがコーヒーカップを2個持ってきて河野と俺に渡す。真っ白な顔が朝日に輝いている。海を見ながら無言でコーヒーを飲んだ。

 河野とブリッジに入る。腕組みをして前方を見ていた艦長の小城が河野に敬礼し、俺を見て笑顔になる。艦隊は約200キロ北進し、能登半島の北西側沖を中心に沿岸に広がり陣形を取る予定だと言う。何れも領海内で停泊する。沿岸から12海里(約22キロ)。離れている艦でも接続水域である24海里以内に留まる。


 出港から約3時間後の午前9時、ロシア艦隊が日本のEEZ(排他的経済水域)である200海里以内に30分後に到達する事をレーダー員が知らせる。河野に俺が言う。

「相手が撃ってくるまで宇宙人は待ってくれるか分かりませんよね。25隻のロシア艦隊が一斉にミサイルを撃ったら宇宙人でも撃墜は無理だと思うな・・・」

 河野が考えている。

「そうですね・・・相手が攻撃を仕掛けてくる前に宇宙人の攻撃が有ればいいですね」

 やってくれと言う事だ。ブリッジから出て食堂でステーキを食べる。300グラム程の肉だったので、追加で2枚焼いてもらう。15分後、満腹でブリッジに上がり、ロシア艦隊の位置を確認する。哨戒機C1からの情報も入っている。

 甲板から飛び立つ。高度1000メートルで飛ぶ。数分で3列に並んで南下するロシア艦隊を発見した。

 一度通り過ぎて引き返しながら旗艦と思われる『ヴァリャーク』を見つけ、後方上空300メートルから光の玉を撃ちこむ。後部甲板に当たった光の玉は機関室まで届いたようだ。船体が爆発音とともに炎上する。光の玉の大きさはこれで良いようだ。

3列に並ぶ艦隊の前から順に光の玉を撃ちこむ。25発の光の玉を撃つのにそれ程の時間は必要としなかった。

 反撃できたのは最後の4隻だけだったが、光の玉を撃つたびに瞬間移動する俺を捉えられる訳がない。

1キロ程離れた海面から2発のミサイルが飛び出て来る。ミサイルの上昇速度が上がる前に念力で向きを変える。飛び出て来た海面に向かってミサイルが吸い込まれ、水中で爆発し盛大な水柱が上がった。更に4か所の海面からミサイルが出て来る。念力では間に合わない。光の玉で撃墜する。ミサイルが出て来た一番近い場所に飛び込む。水深20メートルで潜水艦にしがみつき船体に手を当てて光の玉を撃ちこみ、すぐに浮上し飛び上がる。数発のミサイルが日本に向けて飛んで行くのが見えるが間に合わない。近くの海面からミサイルが飛び出る。光の玉でミサイルを破壊して海に飛び込む。船体に手を当てて光の玉。再度浮上する。これを繰り返して5隻の潜水艦を撃沈した。

 高度200メートルで海面を見渡す。原潜が1隻いる筈だ。姿を隠している。ロシア艦船の残骸がちらばる海面から日本側に1キロ程移動して海面に降りた。頭を水中に入れて耳に神経を集中する。いろいろな音が聞こえて来る。遠くの音に集中する。クジラの声に交じって機械音を捉えた。南に移動している。一度浮上して10キロ南に着水して音を聞く。ほぼ真下から聞こえる機械音。敵は日本本土に近づいている。1時間ほどそれを繰り返すと大きな作動音が聞こえる。圧縮空気が水を押し出す音か。浮上して来るようだ。50メートル程離れた場所に浮上してくる大きな影が見える。真上に泳いで近づく。水深10メートル程で水平姿勢を取ろうとする潜水艦が見えた。急いで潜り船体に手を着けて光の玉を撃ちこむ。盛大な空気の泡が出て来る。俺の身体が泡と一緒に海面に押し上げられた。

 飛び上がると自衛隊のC1哨戒機が近くにいた。全てを記録していたようだ。


『あたご』に戻る。食堂で濡れたままの格好でかつ丼を食べる俺に、潜水艦より放たれた8発のミサイルは全て迎撃できたと河野が言った。

 

 船室でジェーンと抱き合った。水中で鋼鉄のクジラの様な潜水艦に抱き着いた恐怖が今になって蘇ってくる。


 ロシア政府から日本政府に『停戦の申し入れ』が有った。安倍総理は『降伏』なら受け入れると答え、ロシア政府は降伏した。

 自衛隊が日本の領空・領海から出ずに、2019年の日露戦争が終わった。日本政府は北方4島を返還させた。


 二階堂と自宅に戻ると午後5時になっていた。夕食は娘達と神原夫妻も連れて渋谷で焼肉を食べた。

 パオには豚足のお土産を持って帰る。


 

10月21日 朝から治療希望者が来る。午前中6人、午後7人だ。一昨日から待っていたイギリス人資産家が朝一番の患者で8時に割り込んで来た。順番から言えば、まだ数日は後だったが二階堂が割り込みを許可した。視力を失いつつある両眼を治すと5億円を置いて行った。金の力だったかと納得する。

 昼休みに口座を確認すると政府から68億円の振り込みが有った。口座の残高は300億8000万円になった。

 一日の寄付が11億5000万円でNPOの資金が58億2000万円になり、『国境なき医師団』に2億円の寄付をする。NPOスタッフの『国内での小児科と産科の病院・医師の不足』という意見に従い調査していた結果、小児科・産科医と病院に対しての援助の制度を作る事にする。初年度の予算として20億円をNPOより拠出して別に基金を作った。NPOの資金の残りは36億2000万円になる。

 午後6時。全ての治療が終わってリビングで休んでいると宅配便で大きな段ボール箱が3個届く。箱には『MORINAGA』のロゴ。安倍総理が約束を果たしてくれたと言う事だ。昭恵夫人の一言でトラック一台分でも届く事だろう。

 2箱は子供達のいる施設にNPOのスタッフに持って行かせると言うと、娘達は自分達も施設に持って行くのを手伝いたいと言う。スタッフの助手として働くならと言う事で許可した。1箱は家で食べる分で置いておく。


 午後9時になり二階堂とメルセデスE250で銀座に向かう。

アンの『夢路』は既に価格改定をしたと言うが3組の客が入っている。

3種類の高価なピンクシャンパンは20万円だったのが30万円になり、白が5万円だったのが8万円になっている。席料は1人5万円でハウスボトルは無い。1人で来て、ここでは一番安い焼酎の『吉四六』を入れても税込みで9万円近くなる。しかも紹介制だ。本当の高級クラブになってきた。


寿司の出前を取り、閉店までをゆっくりと過ごした。会計は98万円。100万円を帯封のまま渡した。

久々の帝国ホテルでアンと抱き合った。明け方になって、着物や新しいバッグを買えばいいと言って、持って来ていた500万円を渡した。アンは黙って俺に抱き着いた。


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