第170話 へそ曲がり
10月19日 午後3時。二階堂に銀行口座を確認するように言われスマホで確認する。ロシア戦闘機8機撃墜の報酬の確認だ。
16億の入金が有るはずだったが14億しか入っていない。二階堂が官房長官に電話して確かめると、2機は領海の外に墜落したので1億ずつだと言うことだった。攻撃をしたのは確実に領空内だったと言っても、墜落の確認が出来たのは領海の外の一点張りだ。
二階堂は焦って俺の顔を見る。
「二階堂・・・いいよ。向こうがそう言うならこっちにも考えが有るから」
俺が電話を切った。金の問題では無い。気分の問題だ。金は自分がどれだけ持っているのかも即答出来ないほど持っている。
再び二階堂に電話が掛かってくる。JIA事務所からでロシアの動向を伝えてきている。電話を切るとすぐに海上自衛隊の河野から電話だ。ロシアのウラジオストクから出港するロシア太平洋艦隊の状況を知りたいと言われ、NSAからの情報をそのまま伝えた。自衛隊のレーダーでの探知とNSAの衛星からの情報では精度に大きな差が出るのだ。
海上自衛隊も出撃準備だ。呉と舞鶴が慌ただしくなる。安倍総理から俺の携帯に電話が掛かってくる。秘書ではなく本人だった。
「中本さん。ロシアの件ですが、海軍が出てきます。戦闘機は8機も撃墜されていますので、艦船から来るでしょう。もし、開戦となれば向こうは日本の排他的経済水域の外からのミサイル攻撃が主になると思われます。こちらは領海の外に出ないで迎え撃つ形を考えています。飛んで来るミサイルを迎撃し、さらに相手にもダメージを与えます。ただ本土を狙って飛来するミサイルを全部迎撃できるかが問題です。本格的な開戦にならない様に、又、力を貸して欲しいのですが」
「もちろんです」
官房長官の管に代わった。管が言う。
「ロシア艦隊の件お願いします。日本への攻撃の意思が伺える船は全部攻撃対象です。報酬ですが数が多くなると思うので1隻1億円と言う事で宜しいでしょうか?」
「撃沈した後で、あれは日本への攻撃の意思が無かったと言って値切られるのは嫌だから1隻あたり5億にします。潜水艦は10億」
「そんな無茶な・・・」
「俺はね、報酬はどうでもいいんだけど、仕事が終わってから難癖付けて値切るって言うのが気に入らないんだよ。総理に代わってよ。何で俺がこんな事を言ってるのか説明するから」
「イヤ・・・それは。・・・航空機の件は2億追加でお支払いしますので何とか」
「金には困って無いんでね。オヘソが曲がっちゃったの。たまには自衛隊に実戦をやらせてみるのもいいんじゃない?河野さんも張り切ってるし。潜水艦に気を付ければ勝てるでしょ」
「イヤ、勝ち負けの問題では無く・・・」
電話を切った。二階堂が唖然と俺の顔を見ている。貰い物のどら焼きを一つ食べたところで電話が掛かってくる。安倍総理だ。
「官房長官が大変失礼をしたようで、私からもお詫びいたします。今回の件、是非引き受けて頂きたいのですが。ロシアの軍艦1隻に付き2億円。潜水艦3億円で引き受けて頂けないでしょうか?・・・撃墜の航空機の不足分の2億円は既に振り込んであります」
「条件が有ります・・・家とフィリピンのナカモト財団に、前と同じようなお菓子を送ってください。フィリピンでは孤児院の子供達にも行きわたる様に、溶けにくいお菓子を十分な量でお願いします」
「中本さんが作られた財団の事はお聞きしています。すぐに手配します。では引き受けて頂けるんですね?」
「いいですよ」
再び菅に代わった。
「中本さん。本当に失礼しました。総理からもお叱りを受けました」
首相官邸で午後8時から打ち合わせとなった。総理と自衛隊3幕僚長が揃う。今は午後4時だ。4時間も有る。二階堂に言う。
「英気を養いに行くか」
「何処に行くんですか?」
「吉原に決まってるだろ」
二楷堂の運転で吉原に向かう。韓国大使館の金から奪ったメルセデスE250はシルバーに塗り替えられ、ナンバーも替わっている。同じEクラスでも俺のE63Sよりも乗り心地が大分いい。マジメなEクラスだ。
120分10万円の店。待合室で写真を見て女の子を選ぶ。俺が先に選んで二階堂にアルバムを渡す。
「こんな時にソープで女の子を選んでるって・・・いいんですかね?戦争が始まるかも知れないって時に」
「戦争が始まったら来られないだろ。今を楽しめ」
中々決められないようなので俺が選んでやった。昔の中森明菜のような顔の子だった。俺が選んだのは女優の中田喜子の若い頃の様な子だった。中田喜子は今でも好きなのだ。もう65歳になってしまったが。
22歳の中田喜子と、ゆっくり楽しんで時間になり、待合室に出て行くと二階堂が待っていた。財布を忘れてしまったので二階堂に払わせた。明菜ちゃんも良かったようだ。
E250を俺が運転してみる。出足が遅く感じるが、アクセルにちょっと触れただけで勢いよく走り出すトヨタ車より好感が持てる。ブレーキも踏んだ分だけしっかりと効く。その代わりアクセルペダルを深く踏み込んでもドラマチックな事は何も起きない。出来の良い乗用車だった。ドイツでタクシーに使われるのが分かる。
午後7時50分に首相官邸の会議室に入ると自衛隊3幕僚長が真剣な顔で話していたが、俺の顔を見ると笑顔になった。3人の目の前には和菓子の箱が置いてあり、誰がどれを食べるかで真剣に話していたのだ。旨そうだ。おもむろに箱の中のピンク色の桜の花びらを形どったお菓子を取って口に入れた。3人が『アッ』と言う。これが一番人気だったらしい。3人が一斉に箱に手を入れ、思い思いの和菓子を取って食べ始めた時に総理が入って来た。
会議は簡単に終わった。陸海空の各部隊が開戦の準備を整え、ロシアの軍事衛星にその姿を晒す。ロシア艦隊が日本海に出て攻撃を始めたら自衛隊側は基本的に迎撃に努める。俺はロシア側の攻撃が開始されたらすぐに相手を攻撃する。
自衛隊3幕僚長は既に全ての準備を終えて、総理の指示と決断を聞く為だけに集まっていたようだ。主な攻撃は俺が受け持つと分かっていたのだ。
俺は以前と同様にミサイル護衛艦『あたご』に乗船する事になった。
いつものヘリMCH-101に乗り舞鶴まで移動する。二階堂と河野も乗って来た。
一直線に舞鶴に向かう。米軍に管理される空域が無くなったおかげで何処にでも、民間機でも真っすぐに飛んで行けると河野が言う。
『あたご』のブリッジに次々に情報が入って来る。ロシア艦隊はミサイル巡洋艦『ヴァリャーク』を旗艦に駆逐艦など、総数が25隻。通常型潜水艦が5隻と既に日本海に原潜が1隻潜行中と見ていた。驚くほどの数だった。出て来ても8隻と考えられていたが、敵は本気だ。領空侵犯の前からの周到な準備だろう。
これは沢山食べて行かないと腹が持たない。腹持ちの良い肉を大量に食べて行こう。
明日の早朝出港すると言われた。今夜は船室で大人しく寝る事にする。
船室に戻り買って来たビールを片手にベッドに座るとドアがノックされた。ドアを開けると、嬉しい事にジェーンが立っている。青い目が俺を見つめている。思わず抱きしめた。ソープの事など頭から消え去る。これで朝まで楽しめる。二階堂の心遣いに感謝だ。
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