第168話 悪者追放

 10月17日 朝9時に財団事務所に行くとイチが俺に言う。

「中本さん、酷いですよ。プチに俺の顔を舐めさせるなんて・・ミサのビデオ見ましたよ」

「俺が舐めさせた訳じゃないよ。文句ならプチに言えよ。お前、愛されてるんだから、いいじゃないか」

「もう絶対に飲み過ぎません。それと、眼の調子いいです。有難うございました」

 妹がこっちを見ていたので断りを入れて、イチとミサをソファーに座らせた。

「もう気が付いてるかも知れないけど、俺の能力を使って日本のNPOで寄付を集めてるんだ。それに、気に入らないことを修正するのにも力を使ってる」

 ミサが聞く。

「他にも力が有るって言う事ですか?」

「破壊する力だな。テレビでは宇宙人と呼ばれていた事も有る」

 イチが何かを思い浮かべるように言う。

「ネットのニュースで見ました。竹島から韓国軍を追い出した宇宙人。あれって中本さんなんですか?」

「まあ、竹島だけじゃなくて、いろいろやったけど」

 ミサが言う。

「もしかして徴用工の銅像や慰安婦像も・・・」

「まあ、いろいろだよ。そこで、俺が言いたいのは、君たちはセブの語学学校に何か月も行ってた訳だから、セブシティでの悪事のいくつかは見てるだろ。それを教えて欲しい。それと日本国内での納得いかない事もだ」

 イチが言う。

「俺達の行ってた学校は、日本でネットで見つけて申し込んだんですけど、行って見たら韓国人が多くて、よくよく調べたら韓国人が経営してる学校だったんです。そんな事はホームページ上では全く分からなくて・・・まあ、それはいいんです。驚いたのは韓国人の何人かがドラッグを校内で売ってるんです。俺やミサも何回か買わないかって言われました。そのドラッグを売ってる奴らが学校の経営者の韓国人と親しいんですよ。他の韓国人の学生たちとは違う親しさなんです」

「英語を勉強しに来てるのにな・・」

 ミサが言う。

「韓国人の女の子に聞いたんですけど、韓国では大学受験の競争が日本よりも激しくて、受験に落ちた子は親戚中の恥さらし者なんですって。それで、少しでも格好をつけたいので、アメリカの大学に行かせる為に、その準備としてフィリピンに英語を勉強させに親が送り込むんですって」

 イチが話を継ぐ。

「でも、英語なんかそっちのけでフィリピン人の女の子を引っかけて遊びまわって、英語よりもビサヤ語やタガログ語の方が上手くなってる奴らも多いです。しまいには女の子を妊娠させて韓国に逃げ帰った奴も何人もいます。親がドンドン金を送って来るから、いい車買って毎晩遊びまわってますよ」

「親が金送るのも、遊びまわるのも仕方ないけど、クスリはダメだな。しかも日本人にまで売ろうとしてるか」


 2人を仕事に戻して考える。学校の名前と所在地は聞いておいた。マニラにも支店が有るようだがセブシティが本部らしい。

 イザベルにも相談したい。フィリピンのNBI(アメリカにおけるFBIの様な組織)に捜査してもらうか、俺が力づくで片づけるか。

 俺がやった方が早いが韓国人を痛めつけるのにも飽きていた。


 イザベルが暇になるのを待つが、俺と違って忙しい。昼休みなってようやくイザベルの手が空いた。

 イザベルに語学学校とクスリと韓国人の話をする。イザベルが言う。

「あなたは韓国人が嫌いなようだけど・・・私も好きでは無いけど。善良な韓国人も沢山いるわ。今、フィリピンには日本人の7倍くらいの韓国人が住んでいるの。それだけ悪い人も日本人より多い訳よね。クスリは許せないわね。NBIで無くても、ポリス(PNP)も大統領の命令で麻薬一掃をやってるわ。あなたと地元の警察が組んでやればどう?時間も掛からないでしょ」

 俺が賛成するとイザベルはすぐにバランバンの警察署長に電話を掛けた。


 午後2時。小さな警察署の署長室に俺とイザベルは座っていた。

 署長が俺と握手をする。作戦開始と言う事だ。


 俺が入学希望者に成りすまして学校に潜入し、学校内からクスリを見つけ出し警察に連絡する。実に簡単な作戦だった。

 その場で学校に電話して、入学希望を伝えた。明日の午前10時に来てくれと言われた。

 バランバンの警察官たちもセブシティに行って待機する。バランバンに遊びに来た学生が覚せい剤所持で捕まり、出元の学校に捜査に来たと言う筋書きだった。 


 午後にはいつも通り奨学金希望者が3人来た。2人が合格だった。

 5時には仕事が終わり、イチとミサをソファーに座らせて、学校の内部の様子を知っている限り聞き出した。

 

10月18日 午前9時半に庭から飛び立つ。警官達は8時半にはセブシティに向けて出ている事だろう。

 学校の本部はシティのITパークの近くに在った。人目に付かない裏通りに着地し、学校の周辺の様子を見る。

 10時5分前に学校入口へ向かっている時に一般人に扮した顔見知りの警察官とすれ違う。ニヤリと笑っていた。

 

 学校に入ると正面に受付が有る。今日から入学の予定だが手続きの前に学校を見学したいと言った。受付のフィリピン人女性が校内を案内してくれる。

 日本人かと聞かれたのでそうだと言う。韓国人の経営かと聞くと言葉を濁すが、韓国人の友人から紹介されて来たと言うと、そうだと答えた。

 校長は居るのかと聞くと会わせてくれると言う。多分韓国人の学生には全員と会っているのだろう。

 校長室に案内の女性だけが入り、3分程でドアが開いて招き入れられた。

 机の向こう側で40代後半に見える男が立って手を差し出す。握手した手をそのまま握りしめる。少し強く。

 韓国語で喚く・・・分かりません。

 案内の女性を念力で止めておく。握手したまま英語で聞く。

「ここで薬を買えるって聞いて来たんだけど。俺にも分けてくれないかな」

「ここは学校だ。クスリなんか無い」

 手を握る力を強くする。骨が軋んでいる。男の額に汗が浮き出て来る。

「分かった・・・ここには無い」

 男の頭の後ろに黒い影。

「怪我したいみたいだな」

 握っている手を放し、もう一方の手首を掴んで中指を折った。再び韓国語で何か叫ぶ。

「早く出した方がいいと思うよ。もう1本折ろうか」

 人差し指を折った。男が俺の手首を掴んでやめさせようとする。頬を叩いてやる。

「早く出さないと全部折るよ」

 薬指に手を掛ける。男が言う。

「金庫だ・・・金庫に入ってる」

 男の手を引いて机のこちら側に越させた。壁の一部が隠し金庫になっているのが見える。隠し金庫の方に男を突き飛ばす。しぶしぶ壁に細工された取っ手を引くと金庫が現れた。

 10キーのボタンを男が操作して金庫の扉を開けて振り向く。手には銃。予想通りで面白くも無い。

 銃のスライドを引こうとしているが左手の2本の指が折れているので上手

く引けない。銃を取り上げた。いい銃だ。コルトガバメント45口径。貰っておこう。腹に軽く拳を当てると男は床に転がった。

 金庫の中を見ると、仕切りの下の段に3種類の白い粉の包みが有る。1番小さいのは個人に売る分か。2番目のは10グラム程の包みで大きいのは100グラムは入っているのが5個もある。大きな包みには付箋が貼ってあり、『マクタン』『マニラ』と書いてある。金庫の上の段にはフィリピンの1000ペソ札の束が12個。120万ペソだ。札束を10個だけ、俺が自分で持ってきた小さなショルダーバッグに入れる。

 男に、薬を売らせていた学生を呼ばせる。机の上の電話で2人の学生の名前を伝え、校長室に来るように言った。

 すぐに2人の韓国人学生が来る。驚きの表情を浮かべるが、そのまま校長を含めた全員を念力で止める。机の引き出しを探し、見つけたガムテープで全員を縛り上げた。

 外で待機している警官に電話で校長室の場所を教える。金庫は開けたままだ。残りの20万ペソは警官達の出張代になるだろう。案内してくれたフィリピン人女性だけをドアの外に運び出した。

 すぐに警官達8人程が銃を構えて走って来るのが見えた。全ての念力を解く。部屋の中から韓国語の叫び声が聞こえる。案内の女性は走って逃げていった。俺は走って来る警官達の方に歩き彼らとすれ違った。すれ違いざまにウインクしていく警官もいた。


 バランバンの教会の裏手に着地して事務所に歩く。事務所に入りバッグから札束を取り出して妹に渡して言う。

「シティの英会話学校が寄付してくれたよ」

「凄い! 1ミリオンあるじゃない」

 横で聞いていたイザベルがニヤリと笑った。


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